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おいしい料理のつくりかた  作者: 紅葉
おいしい料理のつくりかた本編
45/82

ねこまんま食堂のまかないメニュー その14

あなたは『見立ててもらった服を着て笑う』咲のことを妄想してみてください。 http://shindanmaker.com/450823


「咲くん、これとか、これとかどうかな」


 美晴は、次から次へと服を棚からハンガーから持ってきては、楽しそうに俺の前に広げて、あーでもない、こーでもないと繰り返している。


 今日はねこまんま食堂は店休日なので、美晴を連れて少し遠くの街までやってきていた。親父を始め、商店街の殆どの店が商工会の日帰り慰労旅行に出掛けている。だから美晴もバイトは休み。

 それにお誂え向きに学校は創立記念日で休みだ。


『デートしよう』


 なーんて、誰がほざけるか。恥ずかしくて死ねる。


 だから、「秋物の服が欲しいから付き合ってくれ」と誘った。美晴は、きょとんとして見上げてきて、それがたまらなく可愛いものだから、にやけないように眉間と頬に力を入れる羽目になった。


 それから言い訳をするように「いつも、兄貴のお下がりばっかりなんだよな。たまには自分のが買いたい」と言えば、「良いけど……私が一緒に行って良いの?」と聞き返してきた。

 一緒に、がいいんだよ。とは、なかなか秋生のようにはサラリと言えない。


「一緒に探してくれたら助かる」


 なんとかそういえば、美晴は少し恥ずかしそうに、「デートみたいだね」と言った。


 デートみたいじゃなくて、デートのつもりなんです。




 そういうわけで、10代の男子向けのセレクトショップに入ってきた。黒と原色と、メタルとロックなイメージの店だ。


「こういう雰囲気が咲くんの好み?」


 どうだろうか。お下がりでまわってくる兄貴のは、ノーブルな……インテリ兄貴に似合う服ばかりだからな。


「たまにはこういうのもいいかと思う」

「ふんふん、そっか♪」


 それからは、あーでもない、こーでもないと、マネキンのように突っ立っているだけで、美晴が店の服という服を持ってきてるんじゃないかという勢いで俺の前に広げたり、あててみたりする。


 紫に銀のラメプリントは趣味じゃないが、それ意外なら別になんでもいいか、と思う。美晴が俺の事で頭いっぱいにして考えてくれているのが嬉しくて、カッコ悪くにやけてたまるかとつい顔が強ばる。


 そして今、赤いロンティーとフード付きのトレーナーを美晴が見比べ、悩み、ようやく俺の希望を聞いてきた。


「どっちもいいな。けど、どうして赤ばっかりもってくるんだ?」

「えーー、なんとなく。咲くんのイメージが赤かなって……」

「ふぅん。で、どっちが似合うと思う?」

「う……ん。こっち……かな?」


 少し生地の厚そうなトレーナーを選んで少し持ち上げた美晴の右手からトレーナーを奪い、試着する。


 うん、悪くないんじゃないか。


「んじゃ、こっちにするわ」


 即決すると、美晴は頬を膨らませて可愛らしく睨んだ。


「もーー、ずるい。一緒に見るって言ってたくせに」

「はいはい。サンキュ」


 その可愛い表情に思わず愛しさが溢れて、つい美晴の頭をポンポンと撫でたら、美晴が目をみはった。


「なんだよ……」

「……咲くんが笑った」

「笑うに決まってんだろ」


 美晴と一緒にいるのが楽しいし、一日一緒にいられるのが嬉しいんだから。


 会計をしたら案外高くて、一ヶ月の小遣いが飛んでいった。

 


 それからファッションビルの中をぶらぶらして、美晴が興味を持った店を冷やかしに入ったりした。

 それからショーウィンドーに新鮮なフルーツがたくさん載ったタルトの店を見つけたが、ひと切れ600円てなんて暴利だ。


 噴水の飛沫が太陽の光にキラキラと光るのを眺めつつ、憩いの広場みたいになっているビルの中庭のベンチに並んで、ソーダー味のアイスをかじる。


「あ、そーだ。今日のお礼」


 美晴の手のひらにポケットから出した飴を乗せる。


「コーヒー味の……キャンディ?」

「今日はコーヒーの日らしいから」

「意味わかんない!!」


 ケラケラと弾けるように笑う美晴が眩しくて、いつしか俺も釣られて笑っていた。


 また小遣い貯めとくから、その時は……一緒にタルト食べような。


 



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