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おいしい料理のつくりかた  作者: 紅葉
おいしい料理のつくりかた本編
34/82

特別メニュー 夏休み高校生お料理王選手権 4

「終了5分前です!!」


 司会者が叫ぶ。

 その声に呼応するように、次々と「できました」という声がキッチンから上がった。


 グルクンのお刺身は、薔薇の花のように皿の上に咲き、薄黄色いソースがかかっている。

 

 白っぽい緑のスープは、大きなスープボウルに入っているが、それだけではなんだかよく分からない。


 ソーキを調理した十和くんの前には、ホットプレートが置かれ、その中でお好み焼きがジュウジュウ音をたてて焼けていた。


 そして、咲くんの前には……。


 私には驚きが隠せない。思わず咲くんの顔を見ると、咲くんはニヤッと笑った。


「それでは、審査員の方々をご紹介致します」


 調理中も壁際から、または挑戦者の間を歩き回っていた審査員の人たちが紹介される。黄色いかりゆしシャツを着ているのは沖縄観光案内所の所長さん。白いコックさんの格好をしている人は調理師学校の先生。他にも公設市場のお店の人や、ここのクッキングスタジオのスタッフさんだった。


「その他、ショッピングモールにお越し頂いているお客様の中から50人を視聴者代表特別審査員にお呼びしております。審査員の先生方は一人2点。視聴者代表特別審査員の方々は一人1点をお持ちです。試食をしていただいて、気に入ったお料理の前の箱に得点のボールを入れて頂きます!!」


 ガラス越しに見ていたお客様たちの中から整理券を持った人たちが中へ招かれる。


 大皿に盛られた咲くんたちのお料理が、瞬く間に紙皿に取り分けられ審査員のお腹の中に消えていく。


 助手の私たちは、やっぱり自分のパートナーを応援してしまうから食べられないんだって。

 ああ、恨めしい。


 伊予くんのスープが注がれたスープカップを持っている審査員の動きに目が引き付けられた。

 スプーンで掬うと、アーサのクリームスープの中からオレンジ色の具が出てきた。

 あれは、雲丹? 他にもスープの中から具が出てきているようだ。


 十和くんのお好み焼きを食べている人も笑顔になっている。


「雅也やるやん、すじこん風にしたんやな」


 美香ちゃんが十和くんを見て感心したように呟いた。


「すじこんってなに?」

「ん? 牛すじとコンニャクを甘辛に炊くねん。そして、それをそのまま食べたりもするんやけど、ネギをぎょうさん入れてお好み焼きにすると美味しいねん」 

「へー」



 しばらくワイワイがやがやと試食タイムが取られ、その後後ろを向いている男の子たちの背中で投票が行われた。

 ーーそして、開票。
















 那覇空港にて。


「あー、残念やったな~」


 沖縄の有名ブランドのアイスクリームを舐めながら、搭乗時間待ちをしていた。


 シークワサー味のシャーベットの酸味のせいか分からないけど、顔をしかめた美香ちゃんが、残念そうにぼやいた。

 肩からは出演記念の番組名の入ったスポーツタオルを掛けている。赤地に白抜きでちょっとかっこいいデザイン。


「そっちの青いのはどんな味?」


 美香ちゃんと交換して食べていると、刺さる視線がふたつ。

 くすっと見合わせて笑う。


「美晴、もう行くぞ」

「美香、もう行くで」


 航空会社も行き先も違う飛行機だから、ここでお別れ。

 この番組の事がなかったら出会えなかったお友だち。


「うん、ほな。またメールするな!」

「うん」


 最終日のホテルは咲くんに十和くんの部屋に行ってもらって、私と美香ちゃんは女の子同士で寝た。美香ちゃんの学校の事とか、十和くんとのなれそめとか女子トークで盛り上がっちゃった。もちろん逆にこっちのも聞かれたけどね。

 十和くんて、見かけによらず束縛系彼氏なんだって。ひゃ~!!

 それから十和くんは3歳で包丁を握ったとか、オムライスが絶品だとか、とにかく幸せそうに語るものだから、こっちまで恥ずかしくなっちゃったよ。私たち、彼氏に胃袋がっちり捕まれてるよね~と笑い合った。




「優勝出来なくて残念だったね」

「まあ。でも美晴と旅行できて楽しかったから」


 てくてくとおみやげもの売り場の中を通りながら保安検査場の方へ向かう。


 小さく笑いながらそういう咲くん。悔しくないわけはないよね。


「あー、でも。のり姉は煩いだろうな。土産で買収すっか」


 咲くんが手にしたのは、ちんすこう。

 サクサクして美味しい沖縄の名産菓子だけど……そのパッケージに目が吸い寄せられ離せない。


 そんな私の様子に気付いた咲くんがイジワルそうな表情で耳に口を寄せて囁いたから、真っ赤に頬が染まる。


「えっち」

「!! だ、だって、のりこ先輩にっ! こ、子宝祈願済みとか、とか……!!」

「ばーか」


 からかわれたのだと知って、なんだか悔しい。愉快そうにくつくつ笑った咲くんが、隣にある普通の形のちんすこうを手に取った。


「ねぇ、どうしてとんぺい焼きにしたの?」

「んー?」


 ポリポリと小鼻を掻くと、ようよう口を開いた。


「美晴との思い出の料理だから、かな」


 咲くんの作った料理は、とんぺい焼き。

 キャベツの代わりに青パパイヤを千切りにしてアグー豚と炒め合わせていた。そしてそれを薄焼き玉子で包んだ沖縄風とんぺい焼き。


「観光案内所の所長さんは絶賛してくれていたのにね~」

「俺もまだまだ、だな」

「そんなことないよ、美味しそうだった」


 食べたかった。


 そう言うと、くしゃりと頭を撫でられた。


「サンキュ」


 ーーいつかまた来たいな。


 そうして私達は予定通りのフライトで沖縄に別れを告げたのだったーー。





「子宝祈願 ちんすこう」で検索すると、美晴が何を見て真っ赤になっていたのか、ご覧になれます。

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