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おいしい料理のつくりかた  作者: 紅葉
おいしい料理のつくりかた本編
31/82

特別メニュー 夏休み高校生お料理王選手権 1

夏休み特別編のお話です。咲と美晴が3年生の夏休みの設定です。

「こちらがお客様のお部屋の鍵でござます」


 ホテルのカウンターの上に乗せられたのは部屋番号が記されたカードキー。私は咲くんと顔を見合わせ、絶句した。


 なぜならそこには一枚のカードキー。


 一枚だよ、一枚!!


 困った顔をした咲くんが言った。


「俺、野宿すんよ」


 ええ!! 咲くん野宿するの!?

 ダメダメ!!

 そんなことさせられないよ。


 ブンブンと頭を振る。だめだよ。


 ひきつった笑顔のホテルマンのお兄さんが、旅行鞄を持って待機している。


「一緒の部屋でいいの?」


 いつもより低めの声で確認される。

 私は無言でこくん、と頷いた。















 ことの始まりは半月前。


 いつものように【ねこまんま食堂】にお手伝いに来ていたときだった。


「タマちゃーーん! 当たったわよ!! 部の威信をかけて優勝してらっしゃい!!」

「のり姉、意味わかんねぇ」


 騒々しくのれんを掻き分け入ってきたのは、花の短大生デビューを果たしたのりこ先輩。

 満面の笑みとともに手にしているのは、一枚のハガキ。

 そのハガキを受け取った咲くんの手元を覗きこむ。


 ふむふむ……夏休み高校生お料理王選手権出場者決定のお知らせ…………。にこにこテレビ!?


「こっそりダメもとでエントリーしてみたの。タマちゃん行ってくれるわよね!」


 期待したキラキラの視線でのりこ先輩が咲くんに圧力をかける。


「誰かひとりサポート付けていいみたいなんだけど男女ペアだってことだからタマちゃん、美晴ちゃんと行ってきたら? 勝ち抜いている間は現地での交通費、宿泊費、食費はにこにこテレビ持ちみたいだし。最初の集合場所までの交通費だけは自腹みたいだけどね」

「集合場所ってどこですか?」


 のりこ先輩がハガキの裏を見せて言う。


「那覇空港」

「「那覇~!!?」」





 というわけで、私と咲くんはおじさんの車で空港まで送ってもらい、そこから那覇空港行きの飛行機に乗って沖縄へと降り立った。


 預けてあった荷物を受け取り、集合場所の空港ロビーまで来ると、同じ年頃の高校生がたむろっている。『高校生お料理王選手権参加者集合場所』とスケッチブックを掲げた大人がいた。



「こんにちはー」

「はい、こんにちは~」


 ハガキを見せると、にこにこテレビ比嘉(ひが)とネームプレートを提げたお兄さんが、手持ちの書類で名簿をチェックした。


「はい、玉野さんに渡瀬さん。皆が集まるまでもう少し待っててね~」

「はい」


 尻上がりのイントネーションで比嘉さんは、他の出場者が座っている椅子を示した。

 ざっと男女ペアで3組いる。

 

「こんにちはぁ~」


 明るい髪色の女の子が話し掛けてきた。


「こんにちは」



 明るい髪色の女の子は、熊野と名乗って「仲良くしよな」と屈託なく笑いかけてきたから、自然に笑顔になった。


「こちらこそ、よろしく」

「うっわぁ! ちょお! 彼氏めっちゃ男前やん! 羨ましいわぁ~、うちのジャガイモと交換して欲しいわ」

「誰がジャガイモやねん。いつ紹介してくれるんかと思たらほんま……」


 こちらも赤っぽい髪色で短くツンツン立てている男の子が突っ込みながら会話に入ってきた。


「はじめまして、十和(とわ)です。よろしく」


 咲くんと十和くんが握手した。私にも差し出されたので、軽く握手する。


「あー、もう仲良くなってる。いいなー」


 わらわらと残りのメンバーも集まってきた。


 立場はライバルなんだけど、何だかんだとみんなで仲良くなったのだった。人懐っこい熊野さんの人柄がそうさせるのかもしれない。

 なんかいいな。

 聞き上手でおしゃべりも上手くて……羨ましい。



 遅れていた飛行機から最後の参加者が到着して、私たちは比嘉さんの運転するバスに乗り、まずはチェックインと荷物を置くためホテルへと連れて行かれた。


 そこでのハプニングが、「二人一部屋」だったのだ。


「これきっと番組製作費ケチったんやわ」


 熊野さんが聞こえる声で言ったので、皆そうかもと納得した。


「それじゃ、にこにこテレビのスタッフと今後の予定を説明しますんで、各自部屋に荷物を置いて16時にここ集合でお願いします」


 ホテルのスタッフさんに案内されて、私たちはあてがわれた部屋へと向かった。


 みんな横並びの6階。部屋からは海は見えなかったのが少し残念だった。





「みなさん、こんにちは。にこにこテレビのディレクターの町田です」


 歳は40代?

 顎ひげに口ひげまで生やしたおじさんが名乗った。黄色いアロハシャツが目に痛い。


 その他にもカメラだの音声だのADだのと紹介される。中には女性のスタッフもいて、少し安心する。


「こちらの比嘉さんは現地での我々のお世話をしてくれます。困ったことがあったら比嘉さんに相談してください。ここまででか質問は?」


 十和くんが手を挙げた。


「ギャラは出るんですか?」

「優勝カップルには出ます。後の皆さんには番組特製スポーツタオルをプレゼントします」

「えー! なんやそれだけ? 死んでも優勝しやな!」


 ポニーテールの女の子も手を挙げた。


「ヘアメイクとかしてもらえるんですか?」

「ありません」

「えーー! 残念~」

「アイドルのUMD46も自分たちでヘアメイクしてるよ。各自でお願いします」


 女の子たちはちょっとガッカリ。



 その後、食事の時間、収録のスケジュールを説明されて、次の集合時間は夜の20時となった。



 ホテルの厨房へと通されるのかと思いきや、集合時間にロビーに着いてみれば、連れて行かれたのはビーチ。それでビーサン履いてきてって言ってたのか。


 松明を焚かれたビーチに、『夏休み高校生お料理王選手権』と書かれたアーチが立てられている。

 その前に番号の書かれたゼッケンを着けてずらっと立たされる。


 軽快な喋りをする芸人さんがこの番組の進行と司会をするらしい。


「お茶の間のみなさまこんばんは! 夏休みスペシャル、高校生お料理王選手権。全国のお料理自慢の高校生に集まって頂きました!……」


 前口上が済むと、ひとりひとりアップで撮られながら一言喋らされる。

 咲くん緊張してるのかいつもより顔怖いよ?


「はい、こちらは○○高校から玉野咲くんと助手の渡瀬美晴ちゃんです。自信の程は?」


 マイクが咲くんに向けられる。


「頑張ります」


 うんうんと司会の人が笑顔で頷いた。


「玉野くんの得意料理は?」

「……煮魚です」

「渋いね~。じゃあ、頑張って下さい」


 司会の人が離れて行く。まだカメラは回っているから気を抜けないけど少しホッとした。


 他の参加者にも同じような質問が繰り返される。刺身が得意という人、粉もんが得意という人、中にはフレンチが得意という人までいた。


「負けると帰って頂くサドンデス! さあ、優勝するのはどの組でしょうか!」


 司会がカメラに向かって叫んだ後、今夜の収録は終了となった。


 明日の集合は8時。しかも助手の女の子には絶対水着着用の指示。

 いやな予感がするなぁ……。

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