メニュー16 カラオケパーティー
雪が降りそうな厚い雲に空は覆われ、この時期の日暮れが早いのも手伝って、すでに辺りは暗くなっていた12月24日の午後18時前。
待ち合わせのカラオケボックスに急いでいた私は、商店街の中を突っ切って走っていた際に、ミツバ商店街の一角にあるケーキ屋さんの前に人だかりが出来ているのを見付けた。
「あ、ここだったんだ」
そこは美味しいと地元で評判のケーキ屋さん【パティスリー・ブラン】で、駅前は駅前でも通学路から少し離れているので、今まで行ったことはなかった。
そんな店先でトナカイの扮装でケーキを販売しているのは紛れもなく咲くん。
どうやら予約分のケーキの受け渡しをしているようだ。
普段は不機嫌そうな顔が標準装備の彼は、お客様相手になると、そのギャップに戸惑うほどにこやか。
笑顔におもわず見とれてしまったけれど、ふと確かめた時刻がーー。
「やだっ、待ち合わせの時間!!」
咲くんに声をかける時間の余裕はなく、駅前にひとつしかないから迷わないと涼夏ちゃんが言っていたカラオケボックスに走った。
◆◆◆
着いて見れば、彩子ちゃんと涼夏ちゃんの他にも同級生がいた。
「あれ?」
「女子3人でクリスマスパーティーやってても、つまらないでしょ? だから他にも声をかけてみた」
彩子ちゃんがにんまり笑う。
その隣で涼夏ちゃんは変な顔で笑っている。
でも、女の子3人に男子3人ってまるで……。
「美晴ちゃん、何飲む? ワンドリンク制だから何か頼もうよ」
ええと、同じクラスじゃない男子がひとり混じってますけど、どなた?
っていうか、私の事はご存じなんですね。
なんで?
その名前の分からない男子が、ドリンクメニューを開いて見せてくれた。
「うう~ん、コーラにしようかな」
「コーラね。俺もそうしようかな。みんなはどうする?」
世話好きな性格なのか、皆の飲み物を聞いて、オーダーしてくれた。
「美晴ちゃん、何歌う?」
「ええと……」
「俺ね、5組の庄司秋生。文化祭で美晴ちゃん見て可愛いな~って思ってたんだ。今日は一緒に遊べて嬉しいな」
隣に座った庄司くんは、にっこりと笑う。
「美晴ちゃーん、気をつけろ!! 秋生はタラシだぞ!!」
マイクを持った涼夏ちゃんが、指をビシッと指して叫んだ。目が据わってるけど、コーラで酔ったんじゃないよね。
「酷いなあ」
庄司くんはにこやかな表情のまま、涼夏ちゃんに抗議をした。あれ? 涼夏ちゃんと庄司くんは親しいのかな。
スナックの盛り合わせを摘まみつつ、歌う。
流行りの曲や、少し古いけどノリノリのカラオケ定番曲が次々流れ、一緒に歌いながらドリンクで渇きを癒す。
グラスに水滴がいっぱい付いてテーブルを濡らしていたので、おしぼりで拭く。ついでだし、皆のも拭いておこうかな。
「ねえねえ、採点やろーよ。一番点数が高い人が王様ね。負けた人は王様の命令をひとつ聞くこと」
「面白そうーー」
庄司くんが言い出し、皆がそれに乗った。
えーー!!
やだなーー、絶対負けるよ。
なんで皆そんなに上手いの?
5対1の多数決で負けて、カラオケ採点の王様ゲームが始まった。
「はい、次美晴ちゃん」
歌いやすい曲を選んだつもりだけど、少し緊張する。
あ、出だし間違った……。
◆◆◆
「結果発表~~♪」
ガシャガシャと庄司くんが、タンバリンを鳴らす。
「6位は美晴ちゃん68点。5位はケンタ74点……」
健闘虚しく最下位……。
「1位は俺~~!!」
「おめでとーー」
何だかな~。
言い出しっぺが1位獲るって、それ自慢? のど自慢なの?
おざなりにパチパチと拍手を贈る。
でも、彩子ちゃんは楽しそうだし、まあいっか。
向かいの長いソファの真ん中に彩子ちゃんと涼夏ちゃん。そして彼女達を挟むように、クラスの男子が二人。
そして何故か庄司くんと私は、L字形に配置されたもう一辺の短めのソファに座っていた。
「じゃあ俺が王様な」
何でもひとつ言うことを聞くってやつですか?
あまり無茶ぶりされたら嫌だなあ。
「彩子ちゃんとケンタ、涼夏ちゃんとコウタ、俺と美晴ちゃんのペアでポッキーゲームしようぜ。罰ゲームは、それの写真を撮ること、一週間削除禁止な」
「いゃだ~~」
あんまり嫌そうに聞こえない声できゃらきゃらと彩子ちゃんが笑った。
彩子ちゃんが少し恥ずかしそうにポッキーをぱくりとくわえて、サクサクと食べ進み、近づく唇はあと5センチ。そこで笑いながら写メを撮られる彩子ちゃんとケンタくん。
引攣り笑いしながらも罰ゲームに挑む涼夏ちゃんと照れている様子のコウタくん。
ポッキーゲームって、ポッキーの端と端を咥えて食べるアレなの?
ぎゃーー!!
絶対ムリムリ、無理~!!
「次、俺達ね。はい」
庄司くんが、ポッキーの端をくわえて待つ。
うううっ……!!
「せめて写メ無しにしない?」
「ダーメ」
王様にお伺いをたててみたけど、笑顔で却下された。
彩子ちゃんが携帯のカメラを向ける。
彩子ちゃんも涼夏ちゃんもしたんだもんね。
ここで私もやらなきゃ、せっかくワイワイ楽しげだった空気を壊しちゃうよね。
覚悟を決めて、唇の近くまで迫ってきているポッキーの端を、ぱくりとくわえた。サクサクと庄司くんが食べ進め、唇が触れる5センチ手前でストップした。ふるふると震えて、ポッキーから口を放したくて堪らない。
ピロリーン♪
能天気な携帯のシャッター音が鳴る。
ビクンとした拍子に、ポッキーが折れた。
「じゃあ、送信するね~」
直後部屋の中にピロンピロンと着信を知らせる音が鳴る。
私のスマホにも彩子ちゃんから写メが送られてきていた。
やっぱりやめとけば良かったな……。
◆◆◆
「そろそろ二時間経つし、帰るべ」
大画面のモニターにも、残り時間が僅かなことを知らせるメッセージが出ている。
割り勘で清算を済ませ、外に出ると粉雪がちらついていた。寒いはずだよね。
持っていたマフラーを、グルグル首に巻き付ける。
「美晴ちゃん、送っていくよ。家どのへん?」
庄司くんに声を掛けられたけど、素直に「ありがとう」と言う気持ちにはなれない。
何だか彼の態度は強引過ぎて引くよ。
同じ強引にされても咲くんには、こんな風に感じないのになぁ。
「じゃあね、よいお年を~」
年末らしい別れの挨拶を交わし、彩子ちゃんの後ろを追い掛けるようにケンタくんが小走りで駆けていき、涼夏ちゃんとコウタくんはおしゃべりしながら離れていった。
「いい、一人で帰れるから」
「もう暗いし、危ないよ」
「肩に乗せた腕を下ろしてっ!」
「美晴、何してんの」
冷ややかな声が背後からして振り返れば、そこにいたのはトナカイの着ぐるみを着て赤いマフラーを巻いた咲くん。
不機嫌度MAXな表情で、眉間に皺が入っている。
「玉野じゃん。コイビト同士の邪魔しないでくれる?」
庄司くんが咲くんに向かって、挑発するみたいに言う。
咲くんの目が「本当に?」と確認してくる。
私はブンブンと頭を横に振った。
恋人じゃないっ!
恋人じゃないったら!
「美晴、嫌がってんじゃん」
咲くんは一歩で距離を縮めると、ぐいって手首を引いて引き寄せた。
肩に置かれていた腕から解放されて、よろけながら今度は咲くんの腕の中に抱き込まれた。
さっきまでとは違う意味で身体が硬直する。心拍数が上がる。
「そっちこそ何してくれてんの? 俺達こんなに仲良しなんだけど」
庄司くんがニヤニヤしながら、スマホの画面に例の写真を写して、咲くんの鼻先に突き付けた。
咲くんはたっぷり3秒は画面を凝視してから、こちらを向いた。
どくん。
嫌な感じに心臓が大きく跳ねる。
咲くんには見られたくなかった。やっぱりしなきゃ良かった。
後悔の波がどっと押し寄せて、ぎゅうっと心臓が痛くなる。
思わずトナカイの胴体にしがみついて叫んだ。
「あれ罰ゲームだから、違うからっ!!」




