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おいしい料理のつくりかた  作者: 紅葉
おいしい料理のつくりかた本編
23/82

特別メニュー 七夕定食

7月7日の七夕にちなんだ特別編です。美晴と咲は高校3年生。連載中のお話よりすこし未来になるので、ネタバレ部分を少し含みます。ご了承くださいませ。

「フンフンフンフン~フ~ンフン~♪」


 キュウリを洗いながら無意識に漏れる鼻歌は、童謡の『たなばた』

 

「美晴ちゃんご機嫌だねぇ」


 おじさんがてんぷら鍋の前に陣取りながら、朗らかに言った。


「だって今日は七夕の日なんですもん。一年に一度の逢瀬って、何だかロマンティックですよね」


 うっとりしながらそう言う。

 茹で上げられた素麺を流水で洗いながら、冷たく締めているおばさんも視線は手元に向けながら、「今年は逢わせてやりたいねぇ」と相槌を打った。


「そうなんですよね。毎年この日は雨になることが多いですよね」


 そう、雨が降ると天の川は水が溢れて、カササギが橋を渡せなくなってしまうのだ。


 今日も夕方からの降水確率は40%。非常に微妙な予報なのだ。


「今日の仕入れで【前田青果店】に行った時にねぇ、近所の【カササギ幼稚園】の子らが、大きい笹を持って帰ってたんだよ。自分で作った可愛らしい七夕飾りをプラプラさせてさ。あたしはあの子たちのために商店街のイベント用の笹に、『今夜、晴れますように』って短冊書いてきちゃったよ」


 遼と咲の子どもの頃を思い出すねぇ、とおばさんは続けた。


 咲くんの幼稚園時代かぁ……可愛いだろうな。


「美晴ちゃん、アルバム見るかい?」

「いいんですか!?」


 おばさんは、ウインクして言った。


「二人には内緒だよ」

「おふくろ……俺、ここにいるんだけど」

「ああ、居たのかい」


 咲くんの仕込んでいる鯛のアラ煮は、照り照りで美味しそう。

 今日の【ねこまんま食堂】のメニューは通常の定食メニューに加えて、限定20食の七夕定食が用意されている。

 天の川に見立てた素麺。エビ、しし唐、ナス、レンコン、大葉の天ぷら盛り合わせ、鯛のアラ煮がお膳に載せられる。

 私が洗っていたキュウリは、星型に抜いて素麺に添えられる。


「美晴ちゃん、もう時間だから頼むね」


 おじさんに声を掛けられて、手を拭きながら壁に掛けられている時計を見上げた。


 ――午後4時。


 まだ続いているおばさんと咲くんのやりとりにクスクス笑いながら、私は店表に出て【準備中】の札をひっくり返した。


 さあ、【ねこまんま食堂】開店ですよ。







 ――午後8時

咲くんに送って貰って帰る夜道が嬉しくも少し恥ずかしい。

 空はどんより雲が広がっていて、空の上で彦星と織姫がデートしているのかどうか分からない。


 お互いしばらく無言で肩を並べて歩く。


「咲くんは進路どうするの?」

「……俺は調理専門学校を受験する。美晴は?」

「私は……」


 咲くんとは同じ所に行きたいけど、そう言う才能はない。だけど、咲くんのお兄さんのおかげで私に出来ること、やりたいことが見つかったんだ。それはきっと咲くんの夢とも道が繋がっている気がする。


「私も専門学校。カフェビジネス科を狙ってるんだ!」

「……お前が?」

「なに?」

「……いや。まあ、頑張れ」

「……が、頑張るもん」


 コーヒーや紅茶を淹れるのだけは、店長の春子さんに才能あるって褒められたんだからねっ!盛り付けだって上手だっておじさんも言ってくれるし。


 マンションの直ぐ近くまで来て、ふいに立ち止まった咲くんが真剣な表情になったのが、街灯の明かりで分かった。


「俺だったら……一年に一度じゃ……我慢できない」


 ボソリと小さい声で、咲くんが呟いた。ボッと頬が熱くなったけど、この暗さじゃ顔が赤いのはバレないと思う。


「やだ。私と咲くんの間にあるのは一級河川の天の川だよ。それも電車一本で逢いに行ける」

「美晴がその学校に受かればね」


 クスッと咲くんが笑った。


 もう、一言余計なんだから。意地でも受かってやるんだから~~!


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