表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おいしい料理のつくりかた  作者: 紅葉
おいしい料理のつくりかた本編
22/82

メニュー14 鶏の唐揚げ

「美晴、こっち入ってきて」


 おじさんとお爺さんの話題にどぎまぎしていた私に厨房から咲くんが声を掛けた。

 店内は満席で、夕方の少し早いこの時間に外で待っている客もいない。

 注文された定食は、すべてお客さまの前に並んでおり、厨房の中は休戦中らしい。

 おじさんも話を聞いていたらしく、軽く頷いてくれたので、カウンターの向こうの厨房に足を踏み入れる。


 咲くんは、ガスコンロにかけた鍋の前に立っていた。

 火にかけられたそれには、油がたっぷりと入っている。

 咲くんが、ボウルの中を見せてくれた。


 ぶつ切りにされたピンク色の生の鶏肉に、茶色いねっとりしたものが絡み付いている。


「これには鶏のモモ肉とむね肉が入ってるんだ。それに生姜、醤油麹と片栗粉」


 ぬとぬととしたそれを手で数回揉み込んだ後、ポトン、ポトンと油の中に落としていく。


 シュワーっと細かい泡をたてながら、鶏肉が揚げられていく。

 表面が薄く茶色に色付いてきた頃、咲くんは右手に菜箸を持って、鶏肉を時々持ち上げるようにしながら、鍋の中をかき混ぜ始めた。


「こうやって空気に触れさせることで、水蒸気が蒸発してカリッとした食感になるんだ。油の温度はアジフライの時と一緒の170℃前後。表面が固く揚がってくるまでは触らないこと」


 鶏肉が段々と美味しそうなきつね色になっていくにつれ、まとわりつく泡が大きくなってきた。

 時々、パチンと油がはぜる。


「そろそろかな」


 網杓子で掬い上げた鶏肉のポタポタと滴る油を、鍋の上でしばらくきると、吸い取り紙を敷いたバットの上に唐揚げを下ろした。

 未だジュウジュウと音をたてている唐揚げは、とても美味しそうで口の中に生唾が湧いてくる。


 そんな様子を見てくすりと笑った咲くんは、あら熱がとれた唐揚げを大きめのプラスチックの容器に詰めてくれた。


「はい、美晴。良かったら貰って」

「え、いいの?」

「おう。今日のバイト代」


 少し照れたように咲くんが笑う。


「もらっとけ。心配すんな、美晴ちゃん。唐揚げ代は咲の小遣いから引いとくから」


 すかさずおじさんも話に入ってきて、周囲の笑いを誘った。


「ありがとう」


 そんなに手伝ってもいないのに悪いと思い、その後も、おじさんに頼んでお店のお手伝いをさせてもらったのだった。

 ねこまんま食堂のお客さんは、ほとんどが地元のお客さんで、夕方の早い時間は独り暮らしのお年寄りが多い。中にはご夫婦の姿もあるけど。

 そして、夜は独り暮らしの大学生や、若いサラリーマンの姿も。

 


 自分の家に帰ってきたような温かい笑顔で迎えてくれるおじさんとおばさん。そして、家庭的で温かい料理。

 ねこまんま食堂が地域で愛されているのが、よくわかる。


  

 嫁候補だなんだとからかわれても、それでも私はだんだん咲くんの家族が、この店が、この町が好きになってきている。


 咲くんのお嫁さんかぁ、本当になれたらいいのに……なんてね。

 





◆◆◆


「ねえねえ、24日の夜さあ、一緒に遊ばない?」


 翌日、涼夏ちゃんから誘われた。

 元気が戻ったように見えたけれど落ち込んでる彩子ちゃんのためにクリスマスパーティーをカラオケ屋さんでしようって事らしい。


 咲くんは、クリスマスはどう過ごすんだろう。


 あんな温かなおうちなんだから、家族で過ごすのかも知れないな。



「美晴ちゃん、どうする?」

「うん、行く」

「んじゃ、18時に駅前のカラボ前に集合ね」

「うん」


 その後は他愛もない話に花を咲かせていた。


「あ、料理倶楽部のクリスマス会のプレゼント交換に持っていくものを用意しなくちゃ」


 でも、何がいいのかな。


 男子でも女子でも困らないものにしなくちゃいけないよね。


「じゃあ、帰りに買い物寄ってく? 付き合ったげるよ」

「ありがとう」


 彩子ちゃんと涼夏ちゃんと3人で買い物に行く事になった。


 へへ、楽しみ♪






 商店街というと大型店舗に圧されて全国的に寂れてきているところが多いと聞くけれど、ミツバ商店街はお稲荷様のご加護か、賑わいをみせている。

 商店街にくれば大概のものは揃うと言っても過言じゃない。


 私たちはその商店街の一角にある雑貨店に入った。

 中高生向きのファンシーなものから、男の子心をくすぐる玩具のようなデザインの雑貨、ナチュラルな麻や木を使ったものまで多種多様に店内に溢れている。


 流すように店内を眺めながら歩く。


 キャラものの文具や雑貨は、女子ならいいけど男子なら引くよね。


 シンプルな銀色のミニチュア置時計とか、格好いいけど男子向き?


 料理倶楽部だし、みんなお料理好きよね、キッチン雑貨は?


 イチゴのシリコンレードルとか、猫のモチーフのマグカップの蓋とか遊び心があって可愛いけど……やっぱり女子向きかなぁ。


 ん?


 目に付いたのは、ワインの木箱に入ったアンティークっぽいパフェグラス。


「可愛いっ! ……あ、800円か」


 予算オーバーだ。



 予算が500円って、余裕がありそうでピンとくるものはなかなかない。


 延々ぐるぐると店内を見て回って、そしてようやく買ったのは、北欧っぽい色づかいのマグカップ。黒の線でぐるぐるとお絵描きしてあるように見えて、実はその線のなかに計算された意匠が組み込まれている。

 カモメがデザインされた空色のものと、花と木がデザインされたモスグリーンのものの二つで悩んで、結局モスグリーンの方を手に取った。


 お値段は消費税を入れて予算ギリギリ。


 小さい白い箱に入れてもらい、金色のリボンをかけて貰った。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ