ねこまんま食堂のまかないメニュー その8
【とある男子高生side】
「えっ、やだっ! ひゃぁん」
昼休み、教室の一角で女同士で乳を揉み合っているのを目撃した。
一人はこの学年一のマドンナと名高い細木彩子。いわゆる美人顔なうえ均整のとれたプロポーション。そして、明るく社交的な性格。ギャルっぽい見せかけとは正反対にけっして尻は軽くないことは、同志の戦死した数で物語っている。
もうひとりは、夏休み明けに転入してきた渡瀬美晴。言っちゃ悪いけど、どこにでもいる女子。大人しめな性格、化粧っ気のないベビーフェイスは今どきのJKとしては乗り遅れ気味。
文化祭でのピンチヒッターで白雪姫に抜擢されて、「なんであんな普通の女子が」って思った奴も一人や二人じゃなかった。だけど、渡瀬は、ものの数時間で台本を覚えピンチを乗り越えてくれた。しかも、彼女の隠された魅力に、俺を含めたクラスの男子を色めきたたせた。
翌日には、メイド服で呼び込みとか!
同じ部活ってだけで手を繋いで歩いている玉野に殺意を覚えた奴も多いんじゃないかな。
そんな二人が、なんたることだ!
細木が渡瀬のたわわな果実をむにゅうっと!
くっそ~、代わりたい!!
あ、いけね、息子が反応してきた。
「なにやってんだよ、バカ」
前屈みになっていた俺の頭をサンドロールが叩いていった。
なにすんだよ、俺の可愛い夕張メロンクリームサンドロールが折れるじゃねーか。しかもWクリームなんだぞ!
「玉野サンキュー」
じゃんけんで負けて購買部に走らされていた玉野がいつもの仏頂面でダブル夕張メロンクリームサンドロールを俺の机に置き、隣の席にドカッと腰をおろした。
さっきの事情に至った経緯をこそっと話すと、玉野は顔をしかめて一言放った。
「バーカ」
バリッとパンの袋を破ってかぶり付く。
やっぱりうめえ。
「なぁ」
「んあ?」
焼きそばパンにかぶり付いていた玉野が、間抜けな声で返事をした。
ちなみに玉野も俺も弁当を持ってきている。このパンは、あくまでデザートだ。
「細木はさぁ、ちょっと手が届きにくいっつー感じだけどさ、……渡瀬ちょっと可愛いよな」
とくに胸が。
「……」
「玉野と渡瀬、同じ部活だろ? 渡瀬付き合ってる奴いるのかな?」
「……さあ」
玉野が砂でも噛んでるような顔で、焼きそばパンを頬張っている。
「なあ、二の腕の柔らかさと胸の柔らかさが同じって本当かな。俺、渡瀬の二の腕……」
偶然を装って揉んでみようかな、っと。
マズイ、ウケる。玉野がスッゲエ怖い顔になってる。
「なに? 玉野、渡瀬と付き合ってんの?」
「……いや」
目からビームでも出そうなくらい怖いんですけど
「玉野も狙っちゃってんの?」
渡瀬の胸。
そうからかえば、玉野の眉間の皺がますます深まった。プリントが挟めるくらい。
そうか、まあそうかなとは思っていたけどな。
別にいいけど。
望みはなくても俺は細木の方が好みだし。
「うるせー。健太黙れ」
「はいはい」
早く告白してモノにしないとライバル多そうだぞ、と心の中にだけでアドバイスをする。
そうだな、明日学食の唐揚げ定食を奢ってくれたら、この情報リークしてやってもいいけどさ。




