ねこまんま食堂のまかないメニュー その7
【彩子side】*告白*
「咲、少し、いいかな」
放課後、部活に向かう咲の袖を掴んで、そう切り出した。ある思いがあって、わざとホームルームの直後の人の多い教室で。
あの子は揺れる瞳で、教室を出ていく私たちを見送っていた。
私はズルイ。
咲は無言で、でも人気のない校舎の屋上へ向かう階段まで付いて来てくれた。
遠くに人の足音や声が響いているだけの薄暗い階段の踊り場。グレーのペンキで塗られた重そうなスチールの扉は、放課後は閉まっている。
「あのね、私。咲の事が好きなの」
柄にもなく俯いたままで胸のうちを明かし、顔を上げると、正面に立って真剣な表情でいる咲がいた。
その表情は、告白されて喜んでいる顔でも照れている顔でもなかった。だから、自分の気持ちに整理がついた。それは、予感が現実になっただけのこと。
「俺……」
いいの、言わなくて。
「好きなやつがいるんだ」
やっぱり。
教室で、校内で、咲と目が合うことが増えていた。だから最初は少し勘違いしかけた。
でも、咲をいつも見ていたからこそ気付いてしまった。
咲が誰を見ていたかを。視線の先に誰がいたかを。
知りたくはなかったけど、私そんなに疎い方じゃないのよ。咲が想っている誰かさんとは違って。
「ごめん」
謝らないで。
あなたたちが、両想いなのに気付いていて、それぞれが両想いなことに自覚していないのを利用しようとしたんだから。
「独り善がりだけど、気持ち伝えられて良かった」
喉が詰まったように苦しくて、胸が痛い。
本気で好きだったんだもん。
強引に腕を絡めても靡かない、まっすぐで優しいひと。
「あ! 気まずいとか思わなくていいからっ! 明日からまたクラスメイトとしてヨロシク」
ニカッと笑って階段を駈け下りた。背中に咲の視線を感じる。
うまく笑えた……かな。