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おいしい料理のつくりかた  作者: 紅葉
おいしい料理のつくりかた本編
17/82

メニュー11 何を作るかを決めましょう。

「先ずは何を作るか、よね」


 南部長改め、のりこ部長はシャープペンシルを右手に持ったまま、左手でクッキーをひとつ摘まんだ。


 緩めのクッキー生地を絞り出して焼いたクッキーは、赤いジャムが乗っている。バターと卵と砂糖の甘い香りが漂う。


 料理倶楽部のない今日、東京子(あずまきょうこ)先輩、一年生の金剛寺隼人(こんごうじはやと)くんと私は、のりこ部長の自宅の近所にある稲荷寿司専門店【稲荷御殿】の二階に集まり作戦会議をしていた。


 ちなみにのりこ部長の自宅近くということは、ここはミツバ商店街であり、この【稲荷御殿】は、京子先輩のご両親の店であり自宅でもある。


 ああ、それから金剛寺くんは、剣道部の副部長である金剛寺剣介先輩の弟なのよ。


 前回の活動日に班分けのクジと同時に、何を作るかの分担決めのクジも行われた。

 のりこ部長が引いたのは、『サラダ』。

 他にも、スープ、肉料理、魚料理、主食(炭水化物)のカテゴリーがあったそうな。

 

 ちなみに咲くんは『主食(炭水化物)』だって。炭水化物と言えば、お好み焼きにたこ焼き、焼きそば、パスタにご飯にそば、うどん、ピザ……色々あるよねぇ。何を作ってくれるのかなぁ、楽しみ♪


「一応ね、定番かもしれないけどクリスマス料理っぽいものを作りたいわよね」


 パーティー料理のレシピ本を捲りながら、あーでもない、こーでもないと意見を闘わせる。

 

「あ! これ可愛い!!」


 京子先輩と同時に指を差した写真は、ポテトサラダ。

 普通のポテトサラダなんだけど、盛り付けがクリスマスにぴったりの一品だった。


「うん、いいんじゃない?」


 のりこ先輩も頷く。


「賛成です」


 隼人くんも八重歯をチラ見せしながらにっこり笑って同意した。


 

◆◆◆



「で、このクッキー美味しいですね。女将が作ったんですか?」


 隼人くんが、のりこ部長に尋ねた。さっきからみんなでポリポリと食べている赤いジャム乗せクッキーの事である。

 隼人くんの言葉通り、これはのりこ先輩の鞄から出てきたもの。薄紫色の和紙でできた内袋に包まれ、透明のフィルム袋に白色のインクでレース模様が描かれたファンシーな菓子袋から出てきたこのクッキーは、味はプロっぽいのに包装が手作りを物語っている。

 

 のりこ部長は、アリスに出てくるチェシャ猫のような含みのある笑みで、「んふふっ、私が作ったんじゃないのよ」と言った。


 ……文化祭での部長のモテ方といい、もしかして誰かからの貢ぎ物かなぁと下世話な想像を廻らしてみる。

 

「美晴ちゃん、包丁の使い方とか短い期間ですっごく上手になったわね」


 クッキーの出所の追求を逃れるように話題がのりこ部長によって変えられた。

 えへへ。褒められると照れちゃうね。


「咲くんは教えるのが上手なんですよ」

「美晴ちゃんにタマちゃんを付けて正解だったわね。タマちゃんの教え方が上手いのもあるけれど、美晴ちゃんがちゃんと努力しているからよ。お家でも練習しているんでしょう?」


 のりこ部長に尋ねられて、素直に頷いた。


「えっと、はい。皆さんと一緒に早く分担を任されて調理がしたくて」


 お母さんにももっと「美味しいね」って、「助かるわ」って言って欲しくて。


 うんうんと頷いて聞いてくれるのりこ部長と京子先輩。


「美晴先輩って努力家なんですね~」


 隼人くんにキラキラした瞳を向けられて、照れ隠しにマグカップを持ち上げてコクンと紅茶を一口飲んだ。コツコツ努力するのは嫌いじゃないんだよね。うん、隼人くんありがとう。


「だけど、お料理の練習って意外に材料費がかかるんですよね。うち、親がトクケイで食材配達頼んでるんですけど、復習したい食材が入ってない時もあって、そういう時はお小遣いから買ってるんですけど」

「あらぁ~、女の子だもん。お小遣いで食材ばっかり買ってられないわよね」

「そうなんです……よね」

「お母さんから食費に少し貰ったり出来ないの? 美晴ちゃんが夕ご飯に一品作ってるの知ってるんでしょ?」


 京子先輩が不思議そうに言葉を挟んだ。


「はい、知ってます。でも、トクケイの食材から作ってると思ってるみたいで。部費も出して貰ってますし、……私も出来れば自分で何とかしてお母さんをビックリさせてあげたいかなって」

「美晴先輩、親孝行なんですね~」

「そう……でもないけど」

「そっかぁ……」

「アルバイトって、禁止されてないです……よね」

「私立だしね~、成績が悪くなければ、生徒の自主性を尊重されているのよ、うちは。それに、学校に近いのもあって、地元商店街の子どもが多く通うから、店のお手伝いしている子も多いし、ね」

「そっか」


 学校にもう少し慣れたら、アルバイトを考えても良いかもしれない。


「それじゃさ、【ねこまんま食堂】でアルバイトさせてもらったら? 美晴ちゃん、タマちゃんと付き合ってるんでしょう?一緒に働けたら嬉しいよね」


 京子先輩が名案とばかりに声を上げた。


「えええっ!! なんでっ? 付き合ってないですよ?」

「ふぅ~ん?」


 皆さん、疑わしげな目で見ないでください!

 

「……私が好きなだけで……咲くんは……どうか分かんないじゃないですか」


 口の中でモゴモゴと言い訳をした。

 

「うん、タマちゃんの気持ちはぜひ確かめなきゃね。クリスマスまでに告白してみたら?」


 のりこ部長がクスクス笑いながら提案をしてくれたけど……ぶちょお!! 私で遊んでません?

 もし咲くんにふられたら、気まず過ぎて今までのように倶楽部で笑い合う事が出来なくなるかも知れない。

 何だか怖くて勇気が出ない。


「京子! それにさぁ、美晴ちゃんがねこまんまでバイト始めたら、私がクビになっちゃうよ。バイト2人も雇うほど繁盛してないんだし」


 のりこ部長は私が俯いてしまったのを見て、京子先輩に抗議をしながらゲラゲラと明るく笑った。

 

「いいんすか、そんなこと言って」

「あんたは自分ち手伝いなさいよ」

「いや~よ、朝早いし、自分ちじゃバイト代ケチられるし」

「そんなこと言って。美晴ちゃんあのね、のりこの好きな人って、副会長なんだよ~」

「わーー! わーー! わーー!!」


 親友の想い人を暴露した京子先輩の口を塞いで、真っ赤になりながら大声を出すのりこ部長。

 じゃれあってカーペットの上に京子先輩を押し倒している。


 そう言えば、金剛寺先輩ってのりこ部長のこと好きじゃなかったっけ?

 そう思って隼人くんを見ると、目が合った。隼人くんは紅茶のカップを持ったままにこりと八重歯を見せて笑った。


「美晴先輩、気にしなくていいんですよ。兄貴の片思いですから。僕は関係ありませんし」


 そ、そう……。


 隼人くんオトナだね。


 

 きゃあきゃあやっている上級生を眺めつつ、無言で紅茶を啜った。


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