プロローグ1
鳴り響く轟音、銃声、そして人の叫び声。視界に映るは赤色の地獄。既に慣れた光景でもあり、決して慣れたくはない光景でもあった。
今俺がたっている場所は俺の母国ではない遠く離れた国で行われている戦争が真っ只中の戦場。人と人が自らの命を賭け、相手の命を奪い合う殺しの場。
そんな場所に俺は武器を一つも持たず、銃弾が行きかう空間を堂々と歩いてゆく。
当然そんな戦場では命知らずとも取れる俺の行動を敵である相手は見逃すはずもなく、手に持った銃器で遠慮なく俺を殺そうと引き金を引き絞る。
だが、銃口から飛び出したいくつ物鉄の塊は俺に当たることなく、俺の目の前で何か見えない壁に邪魔されるかのように弧を描き、外へと逸れて行く。
「攻撃の手を緩めるな!」
その光景を見た相手の指揮官らしき男は同様するも、その場の指揮を放棄する事なく、部下である男達に指揮を言い渡す。その光景を見て俺は少し相手の指揮官に感心しながらも、また一つ同時に思う。
攻撃命令を出すのではなく、ここで撤退命令を出していれば…まだ生きれたかもしれないのにな。
「イヴィ…」
雨のように降り注ぐ弾丸が飛来するなか、俺は相棒であり、俺の半身である存在の名を呼びながらも、ゆっくりと右手を相手の集団に向け翳す。
「捻り潰せ」
俺がそう言うと同時にこちらに対し攻撃を行っていた集団は目に見えぬ力によって圧迫される。突然の自体に混乱するも、それは既に手遅れであり、次の瞬間には数十人いたであろう人間がミンチになっていた。
それを見ていた相手の別働隊は顔に冷や汗を流しながらも震える手で無線機に手を伸ばし、自らの命が消える前に、後ろで控えている味方に伝える。
相手の一人が無線機に手を伸ばしたのは見たが、別にそれを止めようとも思わないし、止めもしない。既に俺がここにいる時点で、俺に敵対した人間の死はほぼ確実なのだから。今更何をしても無駄だ。
「此方β1!本部応答せよ!ポイント2-5に奴が現れた!今すぐにでもそこを離れ…!」
離れろ。
恐らくはそう後衛で控える仲間達に言いたかったのだろう。だがそれ叶わず、俺の意思とは無関係に発動した何かしろの力によってその命は絶たれた。
強力な力によって潰された男の体の一部が衝撃によって此方に飛んでくる。その手には血がこびりついた無線機が握られてた。未だに通信の相手はこの無線機の持ち主に声を投げかけている。
突然力を発動したイヴィに少し呆れながらも腰を屈め、血にぬれた無線機を手に取り、通信相手に対し、ゆっくりと口を開く。
「残念ながらこの持ち主は死んだ。少しでも死傷者を出したくないなら今すぐに撤退しろ。…ま、此方も命令である以上は責める事は止めない。俺が此処に来た以上どうなるかなんて分かってるだろう?」
脅しとも取れる言葉を言った後に無線機の電源を落とし、再び相手の中枢を目的に歩みを進める。
(ジン…。相手の事の命なんて気にしなくていいのに)
ゆっくりと血でぬれた道を歩いていると突然頭の中に女の声が響いてくる。と言ってもこの声の正体がイヴィだと分かっているので、驚く事なく、冷静に答えを返す。
「そう言うな。俺は人間を殺したくてこの場にいる訳じゃないんだ」
(でも…)
「イヴィが俺を心配してくれるのは嬉しいよ。だけど命令は相手の殲滅または撃退だから必要以上に殺す必要はない」
(ジンがそう言うなら…)
頭の中に響く女の声には少しの不満が篭っていたが、結局の所は俺の考えに賛同してくれる。
イヴィも納得した所で改めて敵の居場所と数を力を用いて把握し、その中枢に歩みを進める。これから行われるのは一方的な殺戮。俺の日常。壊れてしまった日常。
今更それに対し何を思う訳でもないが、本音を言うなら…こんな殺伐とした世界から、俺は逃げたいと思っているのかもしれない。