☆第一話☆『私……フられちゃった(泣)』
「今年の春はいつもより寒いなぁ~」
思わず私は独り言を言っていた。
「本当に寒いのは私の心なのかも……」
また独り言を言ってしまった。
私がこんな状態になってしまったのは、一週間前のあの事件が原因だ。……事件は言い過ぎかも。
一週間前に私は……フラれた。私はフラれた理由が全くわからなかった。私と彼氏の関係はかなり良好……だった。
フラれた理由で思い当たるのは……卒業式? かな。彼氏と私は高校の先輩と後輩で、彼氏は今年卒業した。彼氏の卒業と同時に私はフラれた。……やっぱり卒業式が原因だ。
「遠距離恋愛になるのがそんなに嫌だったのかなぁ?」
あ、また独り言を言ってしまった。
「お母さん、あのお姉ちゃん独り言を言ってるよ」
子供が指を指しながら、私のことをお母さんに話しかけている。
「こ、こら。人に指を指しちゃダメですよ」
お母さんは、私に指を指していた子供を叱った。
「すみません」
お母さんは私の方を向いて謝り、その場から遠ざかっていった。
「変な人に関わっちゃダメよ」
私に聞こえていることも知らずに、少し離れた所でお母さんが子供に言い聞かせていた。
「お母さん……聞こえてますよ(泣)」
私はその場でぼそりと呟いた。
私は、赤城陽。今年高校三年生になって、そして独り身になった。
「彼氏がいなくなると、こんなにも寂しくなるんだね」
「そんなことを呟いてる暇があるんなら、さっさとご飯を食べて学校に行きなさい!」
「はーい」
私のお母さんはいつもマイペースだ。私がフラれたのに、いつもと同じ接し方をしている。むしろ、この方が気が楽だ。
私はご飯を食べて、学校へ行く準備をした。
「行ってきまーす」
「行ってらっしゃい」
いつもと変わらない学校への登校。唯一変わったのは、彼氏が迎えに来てくれないことだけ。
「今日もちょっと寒いなぁ~」
私は、何も考えなくていいように学校まで全速力で走った。
「ハァハァ。全速力で走るとこんなに早く着くんだ」
前だったら二十分もかかっていた学校までの道のりが、今日は十分で着いた。……今度から毎日走ろうかな。
「あれ? 陽? おはよー。今日はいつもより早いわね」
「あ、桜姫。おはよー。今日は走ってきたから、いつもよりも十分早く着いたわ」
彼女は田中桜姫。私と桜姫は幼稚園の頃からずっと友達だ。
「陽は何で走ってきたの?」
「な、なんとなくよ!」
「へぇ~、なんとなくね。……実は『彼氏にフラれた事を忘れるために走ってきた』……なんてことは無いわよね?」
「ギクッ(汗)」
何で私の考えを、こんなにもピンポイントで当てるのよ!?
「さ、桜姫、とりあえず教室まで行きましょう」
「まさか! 図星だったの!? てか、別れたの!?」
「とりあえず教室に行きましょーね」
「ちょ、ちょっと……陽!? 痛いんだけど……」
私は話を誤魔化すために、半ば強引に、靴箱から教室まで桜姫を引っ張りながら歩いた。




