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2-2 セリナvsフィア

 昼の陽を模した照明を照り返し、白い機体が輝いた。

 輝きは二つ。演習場を動く、二機のトツカがそれだ。

 二機は、コンクリートの上をスケートリンクのように、互いに一定以上の距離を離して円を描くように駆け抜けていく。

 その様は、見た目はまるでフィギュアスケートのようだった。実際、その動きの規則正しい無駄のなさは、AZを使ったフィギュアスケートでもしているのかと錯覚しまうだろう。

 優雅にすら見える動きで縦横無尽に演習場を移動する二機の間を、何発もの弾丸が光の線を引いていなければ。

 戦闘は、初日のトラブルで延期されていた、セリナとフィアの模擬戦だ。

 片方のAZは銃身の長いライフルで距離をとりながら牽制を混ぜつつ正確にコクピットの場所を貫こうとする。

 もう片方は、両手に短銃を構え、巧みに弾丸をかわし、射程距離まで近づこうとする。

 両者とも相手の動きの二手三手先を読み、その先を読んだ相手の行動までを予測しながら機体を駆る。

「やりますわね……流石」

 管制塔で二機の織りなす舞を見ていたナディアが呟く。

「操縦技術だけじゃないな。なんていうか、戦いなれてる感じだ」

 隣で、ミサキが相槌を打った。言いながらも、その視線はモニタに映る二機の動きを追っている。さらにその隣、マヤに至っては、初めの内は何か起こるたびに小さな声で感嘆符をあげていたが、もはや唇の間に感覚を空けたまま、隣の声が耳に入らない程に画面に見入っている。 

 ミサキは、一瞬、定位置となっているモニタの前に腰掛けたカリスタがどのような顔で画面を見ているのか気になったが、後ろからでは確認しようがなかったので、考えを頭から追い払った。

 それよりも、と視線を再び画面にあげる。

 短銃を構えたAZが、もう何回目かわからない接近を試みていた。





「これなら……どうですっ」

 両手に短銃を持つAZのコクピット内でセリナは呟き、右手、それに遅れて左のトリガーを引いた。一発目の相手の回避を読んだ、時間差の二発目だ。しかし、相手はそれすらも読んだかのように一発目の時点で大きく動いている。結果、弾丸は空を切って演習場の端に消えていく。

「読み読みってわけです……かっ」

 返しの相手の射撃。銃口を向けてからあえて一瞬送らせることでこちらの動きを読もうとすると判断し、機体を右に傾け――直後、左へと振る。

 右わきをライフルから発射された弾が掠めていった。

 回避と同時に撃ち返すが、相手は左右には動かない。その両脇を銃弾が抜ける。動じず、相手は射撃。

「ったく、可愛げのないかわし方をしやがりますね!」

 セリナはコクピットで思わず毒づいた。言い放ちながら、身体は思考よりも早く機体を動かしている。正面、相手のAZが放つ弾のうち、牽制の二発は無視、次の本命は右肩を押しこむように機体を逸らして回避、同時に放った左手の弾丸はあっさりとかわされる。

 そこまでは読み通り。このパターンは既に三度目。ならば、と右半身を逸らしたまま、強引に右腕を向けて射撃する。


――今までのパターンなら、回避の直後は牽制! 崩しに行きます!


 果たして、敵は牽制を放とうと銃を構えていた。回避に入る時間が一瞬だけ遅れる。


――ならば、こちらの間合いです!


 音速に近い弾丸のやり取りは相手の動きの読み合いだ。相手の読みが外れ、思考が遅れれば、一瞬、それだけの時間の分、後に続く動作が遅くなり、先手を取れる。

 間髪いれずに両手で射撃。

 相手は、先ほどのこちらと同じような動きで一発目を回避した。銃を向けながら弾をかわし、反撃に移ることが出来る避け方だ。だが、一瞬の遅れに今まで以上にこちらの接近を許してしまっている。

 セリナは、硝煙の煙を残す左の短銃から手を離す。その延長の流れる動きで腰のヴィブロブレードを逆手に抜く。


――この機会を最大限に利用するなら……一気に、懐に!


 続く二発をかわしつつ、相手のライフルが火を吹く。吸い込まれるように、セリナの機体の肩に命中、塗料が、鮮やかな色を散らす。

 セリナは止まらない。被弾は予想通りだからだ。規定ではコクピットへの被弾以外はノーカウント。接近の代償ならば多少の動きの乱れは許容範囲だ。

「いきます!」

 短銃の落ちる音が背後から響くのを聞き流し、居合のように腰にためを作る構え方で、ブースターを最大限、最大加速。

 対し、相手も動く。下がりながら左手を腰の後ろにまわし、ブレードを握った。

 だが、遅い。間合いに到達した瞬間、腹から胸を裂く軌道で腕を、ブレードを振る。

「――!?」

 その腕に、手ごたえ。こちらを押し戻す力。

「腕で、ブレードの刃を……!」

 相手の右ひじが、コクピットをかばうように突き出され、こちらの刃を止めていた。

 ヴィブロブレードは刀身を超高速で振動させ、対象を切り裂く武器だ。だが、訓練であるため、今回の得物は重量と形はそのままなものの、刀身から塗料が噴き出して軌道を描きこむものを使用している。それ自体は、尖ってはいるものの、切断力は無いに等しい。


――実戦なら、腕ごと切り裂いてるはずですがっ!


 これは模擬戦で、さらに言うならばセリナの機体は肩に被弾しているため、この攻撃自体が無効になる。相手の行動に文句をつけられないだろう。

「ちぃ!」

 舌打ちし、ブレードを戻す動きで切りあげる軌道をとる相手の左腕を迎撃。ブレード同士がぶつかり合う。

 押し合いの中、最早無意味と判断したのか、相手はライフルを落とした。

 合図としたかのように、二機がはじけるように離れる。出来た距離はAZ一機分。射程の短い短銃でも、この距離ではブレードの方が早い。せめて、一機半ならば。


――仕方ない、ですね


「格闘戦の腕、見せてもらいましょうか」

 仕掛けるのはセリナ。前のめりで、刃を水平に、コクピットに向かって突き出す。相手は、左足を軸に半円を描くように刺突を避け、背中に切りつけるようにブレードを振りおろした。

 しかし、軌道が乱れる。セリナの右腕が胸元を押しこんだからだ。

 そのまま、相手を押し出す動きに連動して下からの袈裟掛け切り。相手が右腕から逃れるようにのけぞり、刃はわずかにコクピットに届かず、空を切る。


――避けますか!


 ならば、とセリナはフットペダルを踏みぬく。そのまま押し倒そうという考えだ。

 相手は瞬時にこちらの考えを読んだのだろう。反身を翻し、こちらから離れようとする。

「それこそ、読み通りです!」

 セリナの機体は急な加速にバランスを崩す。人間ならば、転んだように上半身を突き出し、そのまま地面に転がり込む体勢だ。

「――――っ!」

 だが、人間ならば、だ。幾ら人型をしていても、AZは人間ではなく、

「こ……の……!」

 股関節の可動範囲ぎりぎりまで足を広げて状態を支え、無理やり腰をひねり、各部のスラスターで強引に機体を持ち上げる。

 装甲同士がぶつかり、関節への負荷が増大していることを示す警告が鳴る。三半器官を振りまわすようにモニタが揺れる。噛みしめた奥歯が痛い。しかし、

「っつああああ――!」

 立てなおした。

 不安定な体勢のまま、機体を転換する。

 この駆動で距離は稼いだ。

 ならば。

「私の勝ちです!」

 セリナは右腕の短銃を、ブレードを構え追撃の体勢をとる相手に突きつけた。












 画面の中、対峙するAZは動かない。つられ、管制塔の中の空気も凍っていた。  

「終わった、か?」

 静寂を破ったのは、ミサキ。

 声に反応したように、片側のAZの胸部が開き、両手を挙げたパイロットスーツ姿が顔を出す。遠目でもわかる黒髪は、フィア。

「終了だ。この模擬戦は、セリナ・ナカザトの勝利とする」

 カリスタの声が、マイクを通じて演習場にこだまする。

 ふう、と気の抜けた息を吐くのはマヤ。彼女は胸を抑え、ミサキを見た。

「一進一退って感じでしたね。見てるこっちがドキドキしました」

「相対したことはありませんが……出来れば、避けたい相手ですわね。それほどの実力ですわ」

 ナディアはモニタを睨みつけるように視線を飛ばしていたが、瞼を閉じ、嘆息する。

「まあ、負ける気はありませんが。ミサキさん、あなたもそうですわね?」

 好戦的な目を向けられ、ミサキは内心軽く汗をかきながらも、応える。

「まあ、な。負けるのは性に合わないし」

 自信があるか、と聞かれて無いと言える性分はしていない。聞いて、ナディアはなぜか満足げな表情をした。

「結構。曲がりなりにも、一応、模擬戦とはいえ、この私に勝利したのですから、それくらいの自信は持っていただきませんと」

 相手を褒めるというより自分を持ち上げる言い方だが、それなりに認められたのだろう、一応。そう思い、ミサキはなんとなく心が軽くなった気がした。

 もっともそれは、本人すら気付かないほどの小さなものであったが。

「さて、降りるぞ。お前たちは先にいけ」

 AZから降りて待つように指示したカリスタが椅子から立ち上がり、機材の電源を落としていく。マヤが小走りにエレベーターに駆け寄り、スイッチを押した。











――なーんか、気まずいんですよね……


 膝立ちになったAZの脚部に背中と体重を寄せて、セリナは天井を見上げていた。別に何かがあるわけではなく、視線を置く場所がなかっただけだ。

 ふと視線を移し、フィアを見ると、彼女は直立不動でAZの隣に立っている。

 人形じみた顔立ちだけに、動かないと余計に生きているように見えない。

 彼女と二人だけ、というのはどうにも気が持たない。模擬戦は終わったとはいえ演習中なのだから、緊張感の一つでも持っているべきなのだろうが。


――ま、そういう性分じゃあないですからね


 セリナはナディアのようなお嬢様どころか、一般人以下の出身だ。どうにも堅苦しいのは似合わない。


――収入は安定するし、機体も新鋭のものが配備されるっていうから引き受けたんですけどね。


 六課のメンバーとは、仲良くやっているつもりだ。カリスタの頑なな態度も、上官としては好感が持てる類のものだ。ただ、どうしてもフィアとだけは距離が縮まらない。

 こちらからのアプローチは先日失敗してしまったし、あちらからのアプローチは期待しづらい。


――ま、腕は確かですから。それだけでも同僚としては充分ですけどね


 フィアの身体を見て、そういえば、と思う。彼女が幾つかは知らないが、あれだけの腕が必要となる戦場を経験している年齢には到底見えない。好奇心に駆られ、軽く調べて見た所の経歴はほとんど不明。年齢、出身、家族関係まで一切不明。

 セリナ自身も傭兵としてはかなり若い方だが、それでも二桁前半の年齢からAZに乗り続けた結果だ。フィアがそうでないという確証はないが、なんとなく違う気がする。


――女の勘ってやつですか。あまり頼りがいはありませんが


 そんなことを考えていると、四人の制服が見えて来た。管制塔で観戦をしていた皆だろう。










「集合」

 カリスタの声に、フィアが駆けよる。セリナも、背中を追った。

 フィアとセリナ、それにミサキ、ナディアが横に並び、カリスタの脇にマヤがついたのを確認し、カリスタが口を開いた。

「これで、全員が一回ずつ模擬戦を体験したことになるな。日々の訓練もあって、ある程度機体には慣れてきたことだと思う」

 四人を見まわし、

「各員の実力は個々の報告書や先の模擬戦の結果である程度把握している。今後は、AZ同士の演習を交えつつ訓練に励み、研究所からの指示で戦場に赴くことになる」

 区切りをつけるように、瞼を降ろし一息。視線をあげ、

「それは、おそらくそう遠いことではない。すでに一部では試作兵器を使う訓練も行われている。その推移すいい如何いかんでは早晩出動命令が下されることもある」

 いいか、と静かな、しかし響く声を出し。

「この中の全員が、一応の実戦を経験しているはずだ。だからわかりきっていることだが、あえて言わせてもらおう」

 静かな湖面の光をたたえた瞳に、心なしか揺らぎが生じているように見えた。

「実戦で飛び交うのは、殺人の道具だ。相手も、我々も、常に死ぬ可能性を孕んでいる。気を抜けば、喰われる。そういう世界だ」

 揺らぎは一瞬で消え、水面みなもは波一つ立たない水平に戻る。

「諸君らは戦場に出向く。それを念頭に置いて、常の訓練に励め。――以上だ。今日の演習は、ここまで。午後からは、各人のスケジュールに沿って行動しろ。質問は?」

 演説に飲まれた皆の心が、地に足を着けていく。あるいは首を振り、あるいは無言で質問の無いことを示していく。

「よし。――解散」

乗ったときはこれだけ一気に書けるようで。

もっと逆転から逆転のような展開を書きたかったのですが、一手上回ったら勝ちな読みあいもいいよね?的な。まあそんな。

どこまで所謂「エース」の動きを描けるかが今後の課題。な、気がするよ―な。

今後に繋がるようなものも混ぜつつ。

そんなんで。以上。

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