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2-1 試作兵器

 高解像度のモニタに広がるのは一面のコンクリートの灰色。そこに、一直線を描く光が走っていく。

『命中。ターゲット4の消滅を確認』

 モニタに流れる文字を横目で見、機体を半歩ずらす。モニタに映った人型のバルーン――モニタ上ではターゲット5と認定されている――を視界の中央に収め、グリップの引き金を引く。

『命中。ターゲット5の消滅を確認。――全ターゲットの消滅を確認』

「よし、と」

 つぶやき、ミサキ・トウザキは軽く息をついた。

『お見事です、ミサキさん。今日の訓練はここまでです』

 スピーカーから、管制塔にいるオペレーター、マヤ・キサラギの声。

「了解した」

 機体を反転させると、人工の夕日――の色をした照明――に赤く照らされた第二演習場の倉庫が見えた。

 機体が倉庫に入るのと同時に分厚いシャッターが轟音を上げながら降りていく。それを聞きながら、ミサキは膝をついた状態で照明を浴びるトツカのコクピットから降り立った。

 駆けてくる人影は第四課第二班の班長、シゼル・ミロス。いつも通りの作業着姿に身を包む、ミサキより頭一つ分背の低い彼女は、薄い情報端末を差し出しながらミサキに言う。

「どうです? トリニティ製は」

 ミサキは端末を受け取りつつ、床に置かれて改修されつあるAZ用のライフルに目をやる。

「アマツのよりも反動が大きいな。威力はあるんだが」

「ほぼ同レベルの武器ですが、口径が大きいのと、制御技術の違いですね。反動制御とかそっちのはアマツが先駆けてますから。で、どうします? あっちのがいいって言うなら、これからは特に言いつけがない場合には先ほどのライフルを装備させておきますけど」

「いや、今までのでいいよ。多少威力が上がっても、反動が大きくなると移動しながら撃ちにくくなるからな」

「そうですか? それはよかった。実を言うと、トリニティ製はやたら機構が複雑で整備がめんどくさいんです」

 言葉に、ミサキが脳裏に浮かべたのはナディアの仕込み槍だ。確かに、構造が複雑そうではある。

「じゃあ、これからも基本的に装備はアマツ製を使うことにするよ」

 いえいえ、とシゼルは大仰に手を振った。

「こっちの事情ですから。そちらはそちらの事情で選んでください。――ええと、私はちょっとAZの方を見てくるので、これで。とりあえず端末で簡単な報告と確認だけ済ましたら帰っちゃっていいですよ。お疲れさまでした」

「ああ、お疲れ様。お先に失礼するよ」

 トツカに走り寄るシゼルに手を振り、ミサキは端末にペンでチェックを打っていく。

 幾つかの項目に備考を書きこみ、懐中時計を取り出す。他の六課の皆も、個々の訓練を終えているころだろう。

 以前の一対一の演習から二週間ほどが経ったが、あれ以来訓練が終わった後に皆で夕飯を食べるのが日課となっている。ただし、皆といってもフィアとカリスタが姿を現したことはないが。


――先に席、取っておくか


 時計を再度見、食堂の席を確保すべく飛ばし気味で端末に目を走らせていく。

 

 








 轟音が、耳を打つ。外部スピーカーが拾った、金属が金属と、もしくはコンクリートとぶつかり合う音だ。

 眼下に広がるのは打ちっぱなしのコンクリートが広がる第三演習場。その管制塔で、ナディア・メッテルニヒはかなりの時間、瞬きを忘れ、金髪に映える青の瞳が乾くことも気にせずその光景に見入っていた。

 そこにいるのはナディアだけではない。モニタの前に座るのは六課課長のカリスタ・ロング。その後ろ、ナディアの隣には同僚のセリナ・ナカザトも同席している。セリナはナディアと瓜二つの表情をし、滅多に感情を見せないカリスタまでもが心なしか眉と唇を軽くをあげてモニタを注視していた。

 管制塔内の無数のモニタには、幾つかの方向から金属の残骸が映し出されている。それは、アマツ社製第一世代機『イクタチ』の、腹部から胸部にかけてが高熱に貫通され崩れ落ちた姿だ。少し離れた場所には千切れるように吹き飛んだ左腕が無造作に転がっている。

 AZに詳しいものが見れば、目の前の光景を許容することが出来ないだろう。イクタチは第一世代、旧世代のAZだが、第二世代との差別化のために機動性を犠牲に装甲を強化した機体で、こと正面からの攻撃に対しては全AZ中でも(正規品のみならば)一、二位を争う防御力を誇っている。それを、たった一発で貫通するのは、大型のロケット砲ですら怪しいという威力だ。

 それを為した武器が、残骸から離れた位置に膝立ちになったトツカに構えられていた。

 AZ用の対物ライフルと同程度かそれ以上といった長い砲身は、長方形の形をしており、まるで玩具のブロックで作ったような角ばったシルエットだ。

『管制塔。目標の撃破を確認。指示をお願いします』

 静寂を破るように、無感動な声が響いた。管制塔に通信するのはトツカのパイロット、フィア・アーウムラウト。ナディアと同じ六課のメンバーの少女。

 声に、我に返ったように、カリスタが動いた。彼女はマイクを手に取り、フィアに指示を出す。

「機体に異常はあるか?」

『――ありません。砲身の放熱速度も問題ありません』

「よし。こちらのモニタにも異常は確認されない。――テストは終了だ。機体を倉庫まで運んで、作業員の指示に従ってくれ」

『了解しました』

 通信を切り、カリスタが椅子を立ってナディア達を振りむいた。

「テストはこれで終わりだ。お前たちもあがっていいぞ」

「え――あ、はい。分かりましたわ」

 言われ、ようやくナディアの視線がモニタから離れた。セリナも同時だった。

「ええと――お疲れ様、でした。今日はこれで終わりですか?」

「あがっていいと言っている」

 はい、と返事をし、カリスタに背を向けて部屋から出る。出入り口と地上から直通のエレベーターの扉を兼用しているドアを抜け、演習場のコンクリートを踏み、ようやくナディアは


緊張をほぐすようにため息を吐いた。

「ふう。――アマツ社の新兵器、あれほどの威力とは。流石ですわね」

「プラズマライフルでしたっけ? 子供のころに読んだ本で見たことはありますけど、まさか実用化されるとは夢にも思いませんでした」

 暗い闇に飲まれかけた色の空を見上げ、セリナは汗をかいてもいない額をぬぐう。

「まだ試験段階とか言ってますけど、あんなものが出回ったら兵器業界がひっくり返るんじゃないですか?」

「トリニティでも同様の兵器が開発されているという噂を聞いたことはありますが、聞くのと見るのでは大違いですわね」

 互いに感想を洩らしながら、研究所の方に足を向ける二人。セリナが制服のポケットから情報端末を取り出し操作する。

「あ、ミサキさんから連絡入ってます。いつもの席は確保したって。マヤさんも一緒のようですね」

「では、急ぎましょう。待たせるのも難ですから」

「フィアさんはどうします? 声、かけておきますか?」

 そうですわね、とナディアは顎に手を当てて考える仕草をした。

「何度かお誘いしましたが、いつもお断りされていますし――無理に誘うのもよろしくないのでは?」

「でも、誘われないってのも寂しいでしょう。」

「そうかしら?」

 ナディアはフィアの筋肉の動かし方を知らないような無表情を思い出した。

「あまり、気になさる人とは思えませんが」

「ま、ダメ元で。ちょっと無駄働きしてきますから、ナディアさんは先に行っててください」

「あ――ちょっと!」

 言うと、倉庫に向けて走り出すセリナ。ナディアはその姿を見送りながら自分も追うべきかを考え、

「あまりミサキさん達を待たせるのもよろしくありませんわね」

 食堂のある研究所に足を向けた。






 フィアを見つけるのは容易だった。AZの格納された倉庫の出入り口に足を踏み入れた先、パイロットスーツ姿のフィアと制服を着た年配の男性が端末を片手に話し合っていた。

「確かに、そのあたりは難しいな。整備の俺たちには現場の判断に任せるとしか言いようがないが……破壊力はこいつの売りの一つだが、出力を落とすことで多少は改善を見込めなくはないな」

 むむ、と顔をしかめる男性。大柄な彼とフィアの間には頭一つ半ほどの身長差がある。

「そのあたりは、今後の調整次第でしょうか。開発部の方とも話をする必要があると判断します」

「そうだな。そっちの課長にも伝えておいてくれ。他に気になったことは? 異音とか、異常加熱は?」

「そのようなものは確認していません。気になった点は先ほどのことぐらいです」

 そこで、フィアの黒曜石のような瞳がセリナの方を一瞥した。

「ほかに、なにか? 無ければこれで」

「ああ、そっちにないなら無い。あとは機体のデータを参照してみないとな。何かあったらそっちにも送っておく」

「はい。お願いします。では」

 軽く一礼し、セリナの方を向き、歩いてきて――そのまま、通り過ぎようとした。

「って、無視ですか――!?」

 あわてて声をかけるセリナに、言われて初めて存在に気付いたかのような仕草でフィアは振り返った。

「なにか、用でも?」

 心当たりがない、というように形の良い眉をひそめて言う。不遜な態度に、セリナはナディアと一緒に来なくて良かったと安堵した。彼女の場合、間違いなくここで眉根が動いているところだ。


――私は大人ですから。ここは流してーと


 よし。友好的な笑みを作り、セリナは尋ねた。

「フィアさんは、これからの予定は?」

「シャワーを浴びて着替え、部屋に戻ろうかと」

 返答があるのなら、少なくとも会話できるだけの友好性は築けている。いける、とセリナは心の中で自分自身に頷きかけ、続ける。

「夕食はどこで?」

「いつも通り、自室で摂ろうと思います」

「あ、じゃあ、一緒に食堂で食べません?」

 言ってから、会話の流れがおかしいことに気づく。


――「じゃあ」って、前の返答と繋がってません……!


 失態だ。自然な流れで誘おうとしたのだが。果たしてフィアは表情を動かさずに一言。

「申し訳ありませんがお断りします」

「あ。そうですか……」

「では。失礼します」

 会釈され、反射的に返してしまう。頭を上げると、すでにフィアは背中を向けて歩き出していた。

「あちゃー……こりゃダメダメですね」

 天を仰いで額に手を当て、ため息一つ。

 情報端末を取り出し、食堂に一人で向かう旨を伝える文を打ち込んでいく。







 社員食堂は盛況だった。各部署の仕事が終わり、解放された社員たちが夕食を摂りに来る時間帯だからだ。

 三桁の収容数を誇る席のほとんどは埋まり、椅子のないカウンターにも人が集まっている。

 そんな中で、どうにか四人分のテーブル席を確保したミサキ達が食事を摂っていた。

「プラズマライフル――?」

 揚げた肉を箸で切り分けながら、ミサキが聞き返す。

「ええ。今日は私とセリナさんは訓練を早めに切り上げて、新兵器の試射を拝見しましたの」

 野菜のスープを掬いつつ、ナディアが言う。

「洒落にならない威力でしたよ。イクタチの装甲を正面から吹き飛ばしましたからね」

 蕎麦のつゆを自前の水で割りながら続けるのは、合流したセリナ。

「マヤさんは開発部でしたっけ? アレに関わったりとかは?」

「いえ、私は武装より機体関係の方でして……。でも、うち――第六課で運用する兵器なので、資料は貰ってますよ」

 デザートのパフェ――すーぱーでらっくす・ぷりん・あ・ら・もーど。総重量六百グラム、クリームとカラメル、各種果物とアイスがふんだんに使われた巨大なバベルの塔は、甘いものが苦手な者は見ただけで卒倒するような貫禄を持っている――を削りながら、話題を振られたマヤが情報端末を取り出す。

「……相変わらず、見ているだけでお腹いっぱいになりそうなモノを食べていらっしゃいますわね」

 ナディアは自分の口にまで甘い味が広がったような気がして紅茶を傾けた。言葉に、ミサキとセリナも首肯。

 皆の視線を受けつつ、マヤのスプーンは順調に高度を減らしていく。片手で端末を操作していたマヤが、スプーンと口の動きを止めた。

「ああ、ありました。試作型プラズマライフル、開発時秘匿名称『ライコウ』。全長は対物ライフルと同程度ながら、大型ロケット砲クラスの破壊力を秘めた新兵器です。従来の兵器と比較して、携行性の低いロケット砲よりも運用しやすく、対物ライフルよりも破壊力が高いことが利点とされています。また、火薬式のロケット砲のような誘爆事故が起きにくく、反動が軽微という安全性も利点ですね。ただ、ロケット砲のように爆風で範囲攻撃をすることは出来ず、射程的にも状況次第では対物ライフルよりも短くなるため、単純な上位互換というわけではありません」

「……そもそも、プラズマライフルってなんだ?」

 ミサキがナディアを見て言った。

「なんで私に振りますの?」

「いや、まあ、その」

 マヤの前にそびえる巨大なパフェから視線を逸らした、とは言いづらい。

 ミサキのあいまいな返事に、しかし意外にもナディアが気分を害さなかったのは、理由に気づいていたからか。

「火薬式の弾丸のように、プラズマの塊を撃ち出す兵器ですわ。確か、旧暦時代から研究されていたものだったはずですわね?」

「はい。発想自体は古いもので、歴史上、幾度も検討されてきた兵器でもありますね」

 肯定し、マヤが講師のように続ける。

「概要としては、ナディアさんの言った通りのものです。プラズマは物質が膨大なエネルギーを秘めた状態でして、このエネルギーによって対象を破壊するんです。プラズマは空気中にエネルギーを放出してしまうため、弾としての使用は構想こそあれど実用化に至ることはなかったんですが、近年のエネルギー開発の恩恵としてプラズマを高圧縮して放出されるエネルギーを内部で循環させることにより放出を防ぐ技術の研究が進んだおかげで、開発段階ではありますが、ほぼ実用にこぎつけたられたんです。これは、歴史上でもアマツ社が初めてでしょうね」

 そこまでを一気にまくしたて、胸をはり、溶けかけたアイスを多めに掬う。

「……つまり、ああ、そうだ、凄いんだな、うん」

 こめかみに指をつきながら、ミサキはなんとかその言葉をひねり出す。ナディアから冷たい視線が注がれた気がした。

「貴方、本当に理解していまして?」

「……まあ、凄いということだけはなんとなく」

「そう、凄いんですよ! 快挙です! で、さらに詳しい説明をしますとですね……」

「そこまでにしておけ、キサラギ」

 スプーンを握りしめたマヤの台詞に、突如、声が割り込んできた。 

「こんなところでそれ以上続けると、服務規程と守秘義務に抵触するぞ」

「課長――」

 皆の注目が集まる先、テーブルのふちに手をつく、コーヒーの入ったカップを持った六課課長、カリスタがいた。

「課長も、ここで夕食を?」

「私だってアマツの社員だ。食堂を利用する権利はある。偶然我が社の試作兵器の情報を垂れ流している奴を見て、どこの馬鹿かと見に来ただけだ」

「あう……すみません。ちょっと興奮して……」

 眉を下げるマヤ。カリスタは鼻を鳴らした。

「まあ、興奮する気持ちはわからんでもない。アレの制作者はキサラギの先輩に当たる人間だからな」

「先輩って――開発部の?」

 セリナの疑問に、マヤは首を振った。

「もっと前、学校の研究室時代からの先輩です。すごく優秀な人で、卒業と同時にここに誘われたんです」

「では、その先輩を追って、マヤさんもここに?」

「あ、えっと、それは……そうなんですけど……」

 ナディアが放った問いには、なぜか歯切れの言葉が返ってくる。ぽん、とセリナが手のひらを拳で叩いた。

「もしかして、先輩後輩ってだけじゃなくて、もっと色々しちゃいたい関係という」

「そ、それは……! いえ、違わないけど違うような、でも間違ってないというか」

 顔を赤くするマヤの横でカリスタがコーヒーを啜る。

「そういえば、アーウムラウトは一緒じゃないのか?」

「あ、フィアさんもお誘いしてはいるんですけど、いつも自分の部屋で食べるからと」

 話題の転換にマヤが食いついた。カリスタは、そうか、と呟き、テーブルについた手をあげる。

「まあいい。私はこれで出るとしよう。また明日な」

 皆の会釈に軽く腕を振って応え、カリスタは黒髪を揺らして去って行った。

「さて、私たちもそろそろテーブルを空けませんと」

 相変わらずの密度の食堂を見まわし、ナディアが言う。

「あ、ちょっと待ってください。すぐ食べ終わりますから」

 マヤが急いでスプーンを動かしだす。満腹とは別の胸焼けの様な感覚に襲われた三人の前で、まだ二人分はあろうかといった量のパフェは秒針三回転の時間を持って完全に消されていった。

荷電粒子砲とかプラズマキャノンとかそーいうのが使いたいお年頃です。ビームは浪漫。

他にも「こんな兵器もあんよ!」というアイデアとか募集します。正直、自分ひとりでは知識に不足を感じる今日この頃。

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