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1―1 序章

 前方のスピーカーからノイズを処理された轟音が響き、視界の一部に文字が走る。

『前方30 敵小型ミサイルの着弾を確認――』

 前方百五十五度という従来より広い角度まで表示範囲を増やしたモニタに各所のカメラからの映像と各種計器の数値が映り、操縦者ミサキ・トウザキのの顔を薄い光で照らし出した。

 前方はほぼ土煙りに覆われている。握ったグリップのボタンを親指で操作。映像に被さるようにショートカットキーで呼び出された半透明のウインドウが出現、各種レーダーの結果を平面上の丸と四角で表す。

 それに合わせるかのように、耳を突き刺すような警告音。左。

 再びペダルを操作、歯をきつく食いしばり加速に耐えつつモニタに視線を走らせる。

 ブースターの推進の風に蹴散らされ晴れていくモニタの画面、コンクリートに幾つもの金属の粒が雨のように駆け抜け、穿っていく。

 頭上から降る雨とは違い、それは左上から降り注いぐ。

 ウインドウの中の地形は変わらない。

 自機を表す画面中央に固定された丸い点の左右に、障害物を表す長方形が伸びている。モニタの左右で前方に駆け抜けていく――実際はこちらが後退しているためにそう見える――ビルの群れがそれで、平面上では数値でしか現れないそれらの高さは多少上下するものの、頭部カメラを通したモニタに表示される目線の倍はあるようだ。

 左右の幅は車一台分あるかどうか。加速しているにも関わらず徐々に近づいてくる金属の豪雨から逃れるには全く足りない。

「横は無理かっ……!」

 歯の間から絞り出すように呟き、ミサキは足に力を入れた。途端、押しつける力のベクトルに上方から潰されるようなものが加わり身体を軋ませる。

 灰色のビルの側壁を映すモニタ端の高度計の数値が上昇し、モニタの下方、直前にいた場所をえぐる雨粒。新たに小さなウインドウが開き、カメラがとらえた雨の出所が拡大される。

 映るのは廃棄されたビルの屋上で右手に握る長方形のマシンガンを撃ち続ける人型。顎を突き出した猫背の人間のようなシルエットだが、生身の人間ではない。段ボールかブロックを積み上げたような、直線で構成された「それ」の大きさは人の約四倍。

 戦車でも、戦闘ヘリでもない。二本の足と二本の腕を持つ人型兵器、AZアーツ。モニタに映るのと――今、ミサキ自身が駆っているモノがそれだ。

 ウインドウの直下に注釈のような文字と数字の羅列が並ぶ。

『機体参照――N.O.O.D.製AZ――イニティウム改良型』

 横長の直方体の形をした頭部の頂点にぼんやりとした光が浮かぶ。

 全身にカメラを内蔵したようなこちらに比べ、一世代前のAZであるイニティウムの「目」は頭部を上下左右に一周する溝の中を動くカメラと、足元を見るための股間の補助カメラしかないため、視野が狭い。

 背面のブースターによって急上昇したこちらをカメラが捕らえきれず、いまさら追いついたらしい。

 相手が左肩に背負うように装備された小型ミサイルの発射口を向ける動作の途中で、こちらの射撃体勢は整っている。

 右手にホールドしたライフルの照準がモニタの中央に収めたイニティウムのシルエットと一致。

 グリップの引き金を引けば、モニタの端に映った銃口が一瞬強く輝く。それが三回。コクピットの収められた腹部を音速を超える銃弾が穿ち、衝撃で転倒させた。

 さらに腹部に二発を撃ち込みつつ、機体各所の姿勢制御用バーニアでバランスを取りながら、ブースターをふかし前方へと空中を移動。

 倒れたイニティウムの脇へ降り、モニタの画像を拡大、コクピットに着弾していることを確認して、そこでようやくミサキは軽く息を吐いた。

 見苦しくない程度に、と伸ばした前髪が目の前で揺れる。モニタの明かりに照らされる顔は二十歳になってもうすぐ一年という青年には見えない。

 線が細く、長いまつげやきめ細かい肌も相まって、下手をすると少女と見間違われることもある。

 造作は悪くはないが、決して逞しくは見えない顔は彼の小さなコンプレックスだった。

 半透明のウインドウの中に自機以外の熱源がないことを確認し、無線を起動。

「三号機から隊長へ。こっちは終わりました」

 ザザ、とノイズ混じりの割れた声が降ってくる。

『……こっちも、今……ったところだ……合流ポイントに……』

「了解」

 仰向けに倒れこんだイニティウムを横目にビルの屋上を蹴って宙に舞い、ブースターで落下速度を抑えながら機体を地面に近づけていく。

 鈍い着地音と共に薄く土煙り。各所のサスペンションに殺され、衝撃はほとんどない。

 無線を切り、モニタに合流ポイントまでのルートを表示させ、コントロールをセミオートに設定。

「これでよし、と」

 あとは、ルートにそって機体が勝手に進んでくれる。

 シートの背もたれに体重を預け、モニタ上に流れていく無人のビルをなんとなく眺める。

 窓が割れたり、外れたりしているものが多く、まともに残っているものは数えるくらいしかない。 

 モニタ上に表示される現在地はルージュ・ドームの第三階層。管理するのは世界第一位の総合資産を持つ大企業、「トリニティ」。

 第一次産業の生産から第三次産業のサービス関係まで、全ての分野で商業を展開しており、管理するドームの数も世界随一。

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