"金苹果"
ついに弟の収穫日が来てしまった
僕は『農夫』の一人に自分の躰を提供する代わり、彼から様々な情報を手に入れていた
こうした方法で延命を図っている金苹果は少なくない
もっとも、これら『農夫』から愛された金苹果ですら、「飽きられれば最後には処分される」という定めが待っているのだが
或る夜、彼が僕を貪った後の時間
彼は満足げに煙草の吐くタールを肺腑いっぱいに吸い込みながら、僕にそう教えてくれた
いつか、そういった日が来るという事を僕は知っていた筈だった
しかし意識は時が止まったかの様に静止し、反対に心臓は早鐘を打ち始めた
『収穫』されるという事は弟が、僕でない誰かの口に入るという事だ
許せなかった
僕は『農夫』が去ったあと、可能な限りの支度をして農場を後にした
とは言っても、僕には武器になるものはおろか、服すらまともに与えられては居なかったが
夜が明けるより早く、処分場には着くことが出来た
処分場は昼も夜もなく稼働しているらしく、絶えず施設内からは処理機械の上げる轟音が鳴り響いて居る
弟は既に施設に運び込まれているらしかったが、様子を視るに、状況は絶望的なように思えた
処分場のベルトが、少年達を載せてが流れていくのがここからでも視える
視間違いかも知れないが、そこに弟の姿が在った気がして僕は走り出した
処分場の外の地面は砂利が剥き出しで、走ると足の皮膚がぶちぶちと裂ける
歯を食いしばり、拳を握って耐えながら、僕はベルトを追い掛けた
走るのに適して居ない金苹果の足は、直ぐにずたずたになり繊維や肉が露出していった
それでも僕は耐えて走るつもりだったが、最後には立っている事すらままならなくなり、足を滑らせた
弟に手を伸ばそうとして居た為か、僕はベルトの上に転がり落ちる
直ぐ近く
僕より数名くらい前の空間に、弟が流れていた
意識は既に無いらしく、眠るように静かに眼を閉じている
僕が弟に声を掛けようとした刹那
凶暴な音と風を放ちながら、プレス機が上から弟に振り下ろされた
シトラスの匂いがする飛沫があちこちに飛び散り、僕の顔にもこびり付いた
嘗めてみる
それは、この世に他に無いくらい甘かった
プレス機が再び振り上げられる
僕は弟に少しでも近付こうと、よろよろと赤児の様に這い近付いた
潰れた弟は夜の昏さに隠れて、僕の眼にはっきりとは映らない
それでも、僕は弟の破片を拾って口に入れようとした
むかし聞いた事がある
原初の人間が食べた黄金の林檎は、実際には金苹果だったと
弟の肉片を泣きながら咀嚼する
頭上から、風と轟音が迫る気配がする───




