白銀陽翠は誤魔化したい
「えぇ、、、」
「なんだったの、あの人。」
出帆はスプーンを口にくわえたまま言った。
「な、なんなんだろうね、、、」
やけに複雑な顔をして走り去っていったぞ。出帆と2人っきりになってしまった。
「と、とりあえず食べようか。」
「うん。」
もぐもぐとアイスを食べ進めていくなかチョコレートがハートの形をしているのに気づいた。本当に雀宮さんに似ている、、、。
「ねえ、陽翠は何を使うの?」
一瞬何を言っているのか本気でわからなかったが、すぐに浄化のことだとわかった。
「光だよ。今日適性テストを受けてきたんだ。」
「そう。」
そういえば何を買ったら良いんだろう。メモ、、、
「「あっ、」」
メモに伸ばした2人の手が重なりそうになって、反射的に引っ込めた。
「あ、ごめ、、、」
出帆が困惑したように言った。
「大丈夫。」
にこっとスマートに笑った。笑えたはず。重なったように見えた仕草が苦しくなるほどに美しかった。
「これ、買わなきゃいけないんだって。」
出帆がメモを見せてくる。
カーテン、食器一式、シーツ、布団カバー、食料品といったところ。
「わかった。一旦一番上の階に行ってから買っていこうか。」
「うん。」
片付けて移動をしたら食器やらなんやらを選んでいく。なんか、夫婦みたい。
夫婦じゃないし。恋人でもないし。今のままじゃ幼なじみでもないし。
ぶんぶんと頭に浮かんだことを振り払ってから食器を選ぶ。
「出帆はどれがいい?」
「どれでも。なんでもいい。」
昔より素っ気ないなぁ。記憶がなかったら普通なのかもしれないけれど、寂しい。
「私はこれにするよ。なんか適当に選んで。」
「じゃあ、僕もこれ。」
意図せずお揃いになったマグカップは茜色と藍色の双子のようだった。
「おもいでしょ。僕、持つよ。」
「いいよ、このくら、、、
「いいから。半分ずつ持ったらいいでしょ。」
確かに食器をたくさん買ったエコバッグは重くて。布団カバーやらシーツやらカーテンやらも入った手提げも半分ずつ持っていて。「持つよ。」と言ってくれた声も優しくて。
(ずるいなぁ)
諦めたいのに、諦めれない。覚えてなかったんだから。ただの同居人兼世話役に徹したいのに。期待しちゃうじゃないか。
「陽翠、どうしたの?」
昔よりも素っ気なくてふわふわした感じ。それでも。それよりも。私は出帆が好きなんだ。
「なんでもないよ。食料品買ったら桜月さん待とうか。」
「さくらづきさん?」
「さっきの女の人だよ。」
「んん、、、」
「無理に思い出さなくても大丈夫だよ。移動しようか。」
「うん。」
カートをとってカゴを乗せて。カートの下段に買った物を置いて。
「今日、何食べたい?」
「陽翠、作れるの?」
「作れるよ。何でも言って。」
ぱちくりと瞬きをして考えだした。まつげが長すぎるほどに長いから本当に音がしているのかもしれない。
「…肉じゃが、、、」
「いいよ。そうしようか。」
肉じゃが。懐かしい。出帆のお母さんがタッパーにつめてくれたっけ。
作り方のメモも添えてあって、自分でも作ってみたなぁ。
えーと、じゃがいもと人参と、、、糸こんにゃくも入ってたなぁ。あとはお味噌汁と卵焼きかな。お米は桜月さんがくれるって言ってた。
「やっぱり、重いでしょ。持つよ。」
食料品を買い終わってもやっぱりそう言ってきた。
「ありがと。半分こしよ。」
その『半分こ』でも重い方を持ってくれる。優しくて、うれしくて、涙が出そうになる。
「何で、また泣いてるの。」
「泣いてないよ。」
「嘘つき。陽翠は笑ってたほうが似合うよ。」
─────────
「ひすい、どうしたの?」
夕方の公園で泣いていた所に出帆が通りかかる。
「ないて、ない。」
「ないてるよ。」
「おとうさんと、おかあさんが、、、けんか、してたの。」
心が痛んだように眉を寄せた少年。
「だいじょうぶ?」
「だいじょうぶ。もう、いいや。」
もうむり。諦めよう。
ぎゅっと抱きしめられる。
「ひすい、笑って。ひすいは笑ったほうがかわいいよ!」
その夜だったっけ。おかあさんが行方不明になったの。お父さん出掛けていって、出帆のおかあさんが肉じゃがくれて、それ食べて。世界一美味しかったなぁ。
────────
「ねぇ、大丈夫?どうかした?」
「ううん。何にもないよ。行こう。」
不安そうに、あの日のように。眉を寄せた貴方は少し大人びていて。私だけがあの日に取り残されたかのような。
「待たせたな。寒いだろう、早く乗ってくれ。」
いつの間にか桜月さんが来ていた。車に荷物を乗せて、そのあとに乗り込んだ。
「楽しかったか?お前達。」
「たのしかった。」
先に答えたのは出帆だった。
「楽しかったです。」
「そうか。それは良かった。」
そこから何も言わずに車を走らせた。
「今日からここがお前らの家だ。家具は設置しておいたから食器やらなんやら片すのを手伝ったら私は帰る。」
「わかりました。」
桜月さんが各々の部屋に買ってきた物をセットしにいっているあいだ私と出帆は食器やらなんやらを軽く洗ってしまっていった。
「陽翠、これから一緒にいるの?」
「そうだよ。いっしょ。」
「うん。」
出帆が笑ったのを今日初めて見た。その素敵な横顔のせいで伝えたいことがでてこない。ただ思うのは。
私は貴方の恋人になりたい。
そう願った。浄化師として働いて、強くなって二人で暮らそう。
「ねぇ、出帆。」
「どうしたの。」
「ありがとうね。」
いつも、いつも希望をくれてありがとう。地獄の中でも貴方の言葉があったから歩いて来れた。
「どうしたの。急に。」
驚いた顔のあなたを見ているともういつもみたいに「何でもない」とは言えなかった。
「ないしょ!」
まだしまっておこう。いつか、言える日が来るまで。
「変なの。」
そう言って出帆は笑った。
「私はそろそろ帰る。あとは二人でゆっくりしているといい。」
「わかりました。ありがとうございます。」
「ありがとう、ございます。」
桜月さんを見送って出帆は
「ねえ、作るとこ、見てても良い?」
と聞いてきた。
「いいよ。」
とんとんとまな板と包丁の音が響く中、2人の時間は甘く流れていった。
**********
くっそぉ。あまずっぺぇ。
私が食べたのは抹茶味のはずなのにこっちまでラズベリーアイスを食べたような気になってしまった。
道行く人々に二度見されながら走り去る桜月綾星(23)。なんか悲しくさえなってきた。
(いいなー!いいなー!流凪記憶無くてもあんなん白銀だけ特別扱いしてんじゃん!いいなー!白銀!私も恋したい!)
「…何してる。二人はどうした。」
ドン引きした顔で立っていたのは水滝原さん。
「財布置いて逃げてきました。どのみち最初からそうするつもりでしたしそのほうがいいでしょう。私はこれから見回りにでも行ってきますよ。」
「そうか。俺も見回りにでも行くかな。」
「その辺の低級魔物にあなたが手を煩わせる必要は無いでしょう。私1人で十分です。」
「いや、俺もな、、、」
そう言って指さした先には二人でマグカップを買っている本願寺さんと榊さん。
「榊と本願寺は仲が良いみたいだ。」
なんか見てはいけないものを見た気分になってしまって黙った。
「クインテットって忙しいんじゃないんですか?」
「任務前にショッピングモールに行きたいから車出せって本願寺がしつこくてな。」
「…行きましょうか。」
「そうだな。」
二人で外に出て見回りを始めた。
「なんなんですかあれ。どいつもこいつも不純異性交友ですよ。」
「うらやましいのか。」
くっそお。上司じゃなかったら殴ってんのに。
あれ。あの人、、、
路地裏に入っていった足取りのふらついた男の人。見るからに魔物が憑いている。
「行きましょう。」
「そうだな。」
路地裏まで追いかける。
そこには邪気憑きが二人いた。男の人が二人。
「俺が右をやる。」
「じゃあ私は左を。」
危機を察知して襲い掛かってきた低級魔物に刀を向ける。
「光風霽月」
「山紫水明」
声を出すまもなくばたっと倒れた男達から浮き上がるように霞となった邪気が出て行った。
「ねえ、水滝原さん。出て行った邪気ってどこ行くんですか。」
今まで数え切れないくらい邪気を祓って来たのに考えたことなかったな。
「雲にでもなるんじゃないか。知らないけれど。」
「そうですか。」
「桜月は強いな。」
「あなたの方が強いでしょう。」
「それはそうだが。」
謙遜しろよ。
「白銀と流凪は上手くやっていますかね。」
「今日から二人で住むんだったか。」
「忘れないでくださいよ。」
あなたの脳は正常でしょう。
「それよりも、この路地裏は邪気が多いな。」
「さっさと片付けて2人を迎えに行きましょう。」
「そうだな。」
刀についた血をなぎ払って路地の奥へ2人で進んで魔物を祓っていった。
「こんなもんだな。」
「そうですね。では私は2人を迎えに行ってきます。」
「そうか。気をつけて。」
ショッピングモールまで行って入り口辺りまで行くと荷物を持った二人が立っていた。
「待たせたな。寒いだろう、早く乗ってくれ。」
車の窓から見える美しい夕焼け空と細い三日月を見ながら少しの寂しさと共に車を走らせた。
こぼれ話12
出帆は目を覚ましてから一番長くいた水滝原さんの名前すら覚えていませんが陽翠の名前はなぜかすぐに覚えられたようです。
こぼれ話13
水滝原さんは桜月さんとなら喋ることができます。深入りしてこない適度な距離感が良いのかもしれません。




