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明日は晴れるから

「はあっ…はあっ…」


「陽翠!!」


目の前からした大声。


「なんでいなくなっちゃうんだよ馬鹿ぁ!!」


冷たい雨に打たれても君の腕は温かかった。



───

「私達は帰る。ゆっくりしておけ」


「ばいばい陽翠ちゃん!またねぇ!」


事情を粗方聞いた後に二人は帰っていった。桜月さんの相槌が「へえ」「うん。それで?続けたら?」なのが一番怖かった。


公園の屋根付きのベンチ。小さな心臓の鼓動が二つ。


「手、見せて。」


「手?えっ!」


ちらりと見た私の腕は掴まれた部分が赤黒く腫れていた。うそ。気づかなかった。自覚したら段々と痛みが増してくる。


ひんやりと湿布が貼られていった。


「ごめん……。ちゃんと、話聞かずに……」


「それは……僕が悪かったから。ごめんね。痛かったでしょ。ごめんね……あんなことしちゃって。外、暗かったよね。怖かったよね。」


どちらともなく抱きしめた温もりで痛みを溶かす。


「痛っ……」


背中に当たる腕。背中を蹴られたときの痣に触れた。


「背中……は、一回、家帰った方が良いかな。流石に……」


家までは結構遠くてこの距離を何も考えずに走ってきたのかと思うと本当に馬鹿なことをしたと思った。びしゃびしゃだったから公共交通機関は使わずに家までの道のりをゆっくりと歩き出す。


「この辺、桜月さんの実家があるんだって。二人で来たらしいよ。……陽翠、あのまま二人が助けに来なかったらどうするつもりだったの?」


力では勝てない。一人ならまだしも三人がかりで押さえつけられたらいくら鍛えているといっても難しいものはある。


「怖いんだよ……連れ去られたかもしれない。誘拐されたかもしれない。今回は良かったけど次は無いかもしれないから。本当に怖いのって魔物より人間なんだよ」


ふと、足が止まった。


ゆっくりと繋がれていた手が握り直される。


「陽翠は力が弱い。少なくとも僕やあの屑よりはね。だから、さ…………」



「離れないでよ。僕の守れる範囲に………いて欲しい」



消え入るほど小さな声で紡がれた言葉は雨の上がった夏の夜空に溶けた。


「わかったよ。ありがとう。」



「うん。じゃ、」


出帆がぐっと私の身体を引き寄せて膝の裏に手を差し入れる。一気に近くなった顔は悪戯に笑っていた。


「ちゃんと、掴まっててね!」



「ええっ!?」


端から見たら姫抱で道路を走る高校生をどう思うのだろうか。


恥ずかしさで赤くなる顔を隠すため、私は彼の胸に顔を埋めた。


───

マンションの敷地に下ろされた瞬間。なんだかいたずらな気持ちになって


「たっち。出帆、鬼ね」


と言ってしまった。


「ええ……鬼ごっこするの?」


「早く捕まえたら?」


「まあ、僕の方が速いけどね」


夜。街はまだ深まってはいないけど充分日は沈んでいる。


「わっ!」


「速……」


つまずいても、転んでも追いかけあい、逃げあう。


あの夕焼け空の時。八年前の花紺青。


9才の少年と少女のように────。


足りない心と降り積もる想い。


「いつもありがと!」


そう君に伝えたくなった。これが言えずに終わるのはあまりにも勿体ない。回りには滑稽に見える青くさい幸せ。それがあまりにも尊い。


「あはは!もう遅いよ。冷えるし、家入ろう」


大好きだ。

───

「ふ………」


お風呂の浴槽に雫が一滴落ちる。


陽翠の方が冷えてるから先に入ってきて、と言われてどっちが先に入るか少々もめたあと、私が先に入ることになった。


目の前の身体。


腕は……汚い。傷だらけだ。掴まれたところも、前までの火傷も。


爆発によってできた古傷は羽衣の力では治らなかった。瓦礫で切った痕や魔物に抉られた痕。凛の炎に焼かれた部分も位置によっては治りきっていない。


鏡の結露を手で拭き取り、顔を見る。


顔には傷がついていない。ついても、治っている。


(もうちょっと可愛い顔立ちだったらな……)


むっと目を下げてみるけど日野さんのような可愛らしい雰囲気はでない。吊り目、怖いよなぁ。


(そのくせなんか……子供っぽいんだよね、全体的に)


身長も小さいし。でも脂肪が部分的につく体型をしているし筋肉もあるから体重自体は………身長的に見たら普通っちゃ普通だけど。いや、もう少し痩せてたほうが良いのかもしれない。


(身長-体重が113。普通……か?)


(大人っぽい方が出帆好きかなぁ………)


***

(身体、めっちゃ小さかった………細すぎない!?あれ大丈夫なの!?)


まだがたがた手が震えている。


(抱えた瞬間落としたのかと思ったよ!!軽すぎるって!!)


しかも水吸っててあの重量!?なんであんなに軽いの!?!?


びびりながら僕は水でも飲もうとキッチンに向かい、電子レンジに移った自分の顔を見た。


(垂れ目……やだな。)


格好よく見られたい。ぐっと指で目を吊るけど水滝原さんや桜月さんのような大人びて知的な雰囲気はでない。


(髪の毛……切ろうかな。でも陽翠嫌がったんだよな……)


背中程まである髪の毛。男にしてはかなり長い。


「これはアニメでしか許されない髪型。だけどいずは現実でやって許された。これ、この世の理不尽。顔整ってんねぇ」


そう誰かに言われた気がする。誰だったっけ。いつもアホらしいこと言ってた気がする。雀宮さんかな。


道を歩いてたら女子に間違えられる髪型と目元。せめて髪だけでも切ろうと思ったら


「え………」


と絶望顔をされたから切るのはやめた。髪の毛を後で高い位置にまとめてみる。陽翠と同じ髪型。


「て、ますます女子じゃん。」


どうやったら格好よくなるんだろう。身長?陽翠よりは高い。流石にね。雀宮さんよりは高い。水滝原さんと桜月さんは無理。ん?桜月さんは一緒くらい?


服装?水滝原さんと榊さんが選んだ服。普通……だと思う。違和感はない。


雰囲気?流石に無理がある。


(陽翠はなんであんなに可愛いんだ……)


ちまっとした身長。大きな黒い吊り目。長いまつげ。感情の起伏が小さいように見えて実は表情豊か。服は可愛い感じの服で最近はメイクもするようになった。


(目、かな。可愛いんだよなぁ……)


吊り目なのがいい。中身とのギャップがある。少し桜色っぽい頬と黒目がちな瞳が可愛らしさに拍車をかけている。


「──!─帆!出帆!」


「わっ!」


「上がったよ。ごめんね、先入らせて貰っちゃって」


「ううん。いいよ。」


ふんわりと香るせっけんの香り。長い髪の毛は濡れたまま下ろされていてパジャマは薄いTシャツと短パン。


全方面どこから見ても可愛かった。


「入ってくるね」


死ぬまで君だけを守るよ。






























さらりとアホらしいことを言うのは雀宮さんと言い切る出帆。(本当は宇佐美が言ってました)


こぼれ話

陽翠は家の中で半袖を着るときは包帯を巻いて腕の傷を隠しています。

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