姫抱
「久しぶり。玲くん。」
「お久しぶりです。陽翠さん。」
七日後、俺達は任務に出掛けていた。
「桜月さんから戦う姿を見せてやれって言われてね。一旦身体の使い方とかを見ておいて欲しいな。たくさんいるからそのあとに応用。身長とか体格が全然違うから自分流にアレンジしてね。終わったら一緒に稽古しにいこう。」
「はい。」
「魔物の気配がするね。行こう」
俺達は走り出す。白銀さんは走るのがとても速い。
「いた。見ててね。」
路地裏に潜んでいたのは大きくて気持ちの悪い姿をした魔物。
「光芒流し」
目の前で繰り広げられているのは、暴力というよりは、あまりに苛烈で繊細な「演武」だった。
陽翠さんの動向は、まるで薄氷の上を滑るような危うさと、絶対的な正確さを孕んでいる。魔物が放つ、コンクリートを抉るほどの鋭い触肢。それを彼女は、わずか数ミリの差で見切っていた。翻るスカートの裾が空気をはらみ、彼女の体が宙で柔らかな曲線を描く。
「、、、、、、すごい、、、、、、」
俺の視界の中で、彼女の操る羽衣が細かな光を散らす。ゆらゆらと揺れる羽衣は蝶の羽のようでとても美しかった。
剣先が魔物の硬質な皮膚をなぞるたび、凍てついたような青い燐光が、結晶のように舞い散る。
彼女の足運びには一切の迷いがなく、スニーカーの底が地面を叩くかすかな音さえ、どこかリズミカルで心地よい。
魔物の咆哮が空気を震わせても、彼女の睫毛は微動だにしない。
ただ一点、獲物の核を見据えるその瞳は、深海の底のように静まり返っている。
一歩、踏み込む。
彼女が地を蹴った瞬間、舞い上がった砂塵が淡い光に透け、彼女の周囲に光の輪を作った。
「玲瓏ノ雨」
吸い込まれるような刺突。
魔物の胸元を貫いた刃から、溢れ出した光が彼女の白い頬を冷たく照らし出す。
戦っているはずなのに、彼女は少しも汚れていない。
飛び散る魔物の残滓さえも、彼女の強さを際立たせるための装飾品に過ぎないように見えた。俺はただ、その圧倒的な「差」に打ちのめされながら、心臓の鼓動が耳の奥で激しく鳴り響くのを感じていた。
この人は、すごい。
速くて正確な動き。小さな体格を生かして壁を蹴るようにして飛び回り、撹乱させる。
俺なら、どうするだろうか。
細身に見えるが筋肉はある。同じように壁を蹴って移動するのが得意で、銃弾がどのように動くかを計算しながら戦えば、、、
「えっと、、、玲くーん、玲くーん!!」
「あっえっ、はいっ!!」
「どう、、、だったかな。」
「凄かった、、、です。」
照れたように笑う陽翠さん。戦いなんて感じさせない可愛らしさと可憐さ。前にあったときよりも表情が豊かな気がする。
「もう少しいるね。玲くんも祓えそう?」
「はい。」
太陽の光が届かない路地裏。静寂は、鉄錆の臭いと共に塗り潰された。
「、、、、、、数が多いな。」
「そうだね。死角からの攻撃には気をつけて」
独り言を拾われた。はずい。
背後の暗闇から殺到する十数体の魔物を察知した。先ほどまでの静謐な空気は一変し、戦場は暴力的な熱を帯びる。
俺は走った。壁を蹴り、宙を舞う。その体勢のまま、逆手で保持した銃を連射。
――タパァン、タパァン、タパァン!
正確無比な三連射。跳弾を計算に入れた軌道が、先頭の三体の心臓を砕いた。
着地と同時に、俺は地面を滑るようにして敵の懐へ潜り込んだ。
「秋陽」
至近距離。銃口を敵の胸元に押し当て、零距離で魔力を注ぎ込む。閃光が炸裂し、魔物の巨体が後方の群れを巻き込んで吹き飛んだ。
しかし、敵の増援が天井から降り注ぐ。俺の視界を、無数の鋭い爪が埋め尽くした。
「っ、、、」
頬が切られた。
素早く飛び退いて壁を蹴る。宙に舞いながらマガジンを叩き出すと、同時に腰のポーチから真鍮色の弾倉を抜き取り、空中で装填した。ボルトが閉鎖される金属音が、戦囃子のように響く。
「夕照・閃々(せんせん)」
銃身から溢れ出した光が、青白い炎となって吹き上がる。
――ドドドドドドッ!
繊細な演出を捨て、暴力的な制圧力へと転じた弾幕が、放射状に広がる。一発一発が意志を持つかのように敵を追尾し、肉を、心臓を焼き尽くしていく。
「うわっ!!」
着地がうまくできなくてこけた。
足首に鈍い痛みが走る。うわっこれ、、、
「玲くん!大丈夫!?」
俺の倍の魔物を祓った陽翠さんはこちらに駆け寄ってきた。
「頬も切れてるし、、、足首、ちょっと触るね」
足首は腫れていって熱を持っていく。体重をかけようとすると激痛が走って歩くのは絶対に無理な感じだった
陽翠さんの冷たい手が触れる。手、、、小さいな。
「捻挫、、、かも。冷やすやつ、、、」
陽翠さんがホルスターから清潔な水を取り出して薄い生地のハンカチにかけ、ぶんぶん振り回して足首に当ててくれた。ひんやりとした感触が熱を冷ましてくれて気持ちが良かった。
ハサミで羽衣を切り取って(切り取って!?)簡単に固定をする。
その後陽翠さんは頬の傷を処置してくれる。
細い指先が顔に触れる。血を優しく拭き取っていく手つきは、、、僅かに震えていた。
「ごめんね、、、頼りなくて、、、」
「いや、、、大丈夫です。俺が怪我してだけなんで。」
それでも震える手を俺は握った。
「大丈夫ですよ。こんくらいの怪我じゃ死にません。」
そうかっこつけた数分後。
俺は陽翠さんに抱えられてビルまで行った。
正確には陽翠さんと陽翠さんの羽衣に抱えられてだが。
(はずいはずいはずいはずい!!!!)
人目につかないように路地裏などを爆速で走って行っているがそれでもはずい。
「しっかりつかまってて。」
前に抱えられていて陽翠さんの腕を羽衣が補助する形になっている。そして、、、その状態だと腕を回すのは陽翠さんの首になるのだ。
(死にそう)
15才にして姫抱をされるとは。
陽翠さんはこの世のものとは思えないスピードで駆けていった。
陽翠が玲が怪我をしたときに羽衣の力を使わなかったのは普段は使わないようにと榊さんに言われたため。終焉具の力の代償が陽翠の寿命だけである確信が今のところないからです。




