流凪出帆は覚えてない・白銀陽翠は笑いたい
出帆だ!!出帆がでたぞ!
「…誰?」
夏の入道雲みたいに浮き足だってた私の気持ちがあっけなくしぼんだ。肺の上の方だけでするような浅い呼吸を繰り返す。
「この子は白銀陽翠。今日からお前の世話役をしてもらう。仲良くなっておくように。俺たちは退出する。」
「そう。」
「ちょっと、水滝原さん、、」
背の高い男の人が桜月さんを部屋の外に押しだし、自分も部屋の外にでて扉を閉める。
興味なさそうに窓の外を見ていた出帆はドアが閉まる音に反応してもう一度こっちを見て
「誰?」
とつぶやいた。
「白銀陽翠だよ。よろしくね。」
笑えてるかな。優しく優しく笑えてるかな。
「…そう。」
「ねぇ、君の名前は?」
「白銀陽翠だよ。覚えにくかったら何回でも聞いてね。」
「ごめん、もう一回、、、」
「白銀陽翠だよ。」
「ひすい、、、」
泣きそうなのにそれを隠すために笑って。
「ひすい、よろしくね。」
「うん、よろしくね。」
出帆はゆっくりこっちに近づくとじーっと私の顔を見て
「なんで、泣いてるの。」
と言った。
「泣いてないよ。」
「僕、何か君にしちゃったの?」
「何も、してないよ。」
「なんで、泣いてるの。」
「なんでなんだろうね。」
泣いてなんかいない。肌に涙の感覚があるわけじゃない。目元が霞んでいるだけで、泣いてるんじゃない。
覚えていないことが悲しいんじゃないから。泣いてないから。優しい貴方の横で泣いてなんかいないから。
「君の名前、教えて。」
「ひすいだよ。白銀、陽翠。」
私は、出帆はどこにもいなくなったような感覚になった。生きているのに、どこにもいない。
────────────
ガチャリ。ドアが開く音がした。
振り返ると背の高い女の人と小さい女の子。
「いずほっ、、、」
小さい女の子が小さく僕の名前をつぶやいた。なんでしってるの。会ったこと、あったっけ。覚えてないや。
「…誰?」
「この子は白銀陽翠。今日からお前の世話役をしてもらう。仲良くなっておくように。俺たちは退出する。」
「ちょっと、水滝原さん、、」
窓の外を見ているとドアが閉まる音がして、小さな女の子だけが残されていた。
「誰?」
「白銀陽翠だよ。よろしくね。」
「…そう。」
笑っているような女の子。しろがねひすい。しろ、、、ひす、、、。し、、、ひ、、、。
「ねえ、君の名前は?」
「白銀陽翠だよ。覚えにくかったら何回でも聞いてね。」
ひすい。ひす、、、。
「ごめん、もう一回、、、」
「白銀陽翠だよ。」
「ひすい、、、」
女の子の目には涙がたまっていた。
「ひすい、よろしくね。」
「うん、よろしくね。」
ゆっくり近づいて女の子を見た。きれいな顔。揺れる黒い瞳。あれ、、、
「なんで、泣いてるの。」
「泣いてないよ。」
「僕、何か君にしちゃったの?」
「何も、してないよ。」
「なんで、泣いてるの。」
「なんでなんだろうね。」
いや、泣いてるよ。なんで、なんで、、、。なんで、君は、泣いて、、、名前、、、
「君の名前、教えて。」
「ひすいだよ。白銀、陽翠。」
腰まで伸びた髪の毛を背中に流した髪型の大きなつり目の女の子。右目の下のほくろ、、、
**********
「いいんですか。2人だけにして。」
「知らん。だが俺たちがいてもどうにもならないだろう。」
「それはそうですが、、、」
水滝原碧。水のクインテットだが本当に得体の知れない人だ。
「今の流凪の状況は?」
「前と変わらん。今回白銀がどのような影響を、、、「ガチャッ」
「えっ?」
流凪が白銀の腕をつかんで部屋から出てきた。白銀はものすごく困惑した表情をしていた。
「ねえ、ヘアゴム、持ってない?」
へっヘアゴム?えっなんで?
「あるぞ。やる。」
なんであなたが持ってるんですか。前髪でもくくるんですか。
「俺のじゃない。流凪が持ってたものだ。」
「そうですか。」
どうでもいいわ。
「ん。」
白銀の正面に立ち、白銀の髪の毛を後ろでくくった。
「こっちの方がいいや。」
「っ、、!!」
顔がじんわりと赤くなった白銀は見るからに動揺してあたふたしている。
「流凪、今日から白銀と一緒に住んでもらうことになる。」
「、、、?」
会話の流れを理解していないような流凪は小さく首を傾げている。
「白銀陽翠。よく覚えておけよ。」
「わかりました。」
「桜月、こいつらをデートにでも連れて行け。」
「はい?」
「これから一緒に住むのにこの関係なのはあまりにもかわいそうだろう。仲を深めさせてやってくれ。」
「わかりました。ショッピングモールにでも連れて行きます。じゃあ水滝原さん、車を、、、」
「二度とお前には貸さん。」
「あのときの運転は本願寺さんですよ。私は隣で座っていただけです。」
「お前が本願寺に運転を任せたんだろう。」
なんて屁理屈を。私がぶつけるのは生涯雀宮の車だけだ。
「わかりましたよ。流凪、白銀、ついてきて。」
混乱した白銀の腕をつかんで
「陽翠、いくよ。」
と覚えたてであろう名前を呼ぶ流凪くんと顔を赤らめた白銀がうなずく様子を見て絶対に事故は起こさないでおこうと決めた。
「白銀、流凪、何にする。」
アイスクリーム屋さんに3人で並んでいる最中、後ろ2人に聞く。
「何でも良いです。」
「特に、、、」
くっそぉ、やりづれえ。本願寺さんなんか食べたいものをばんばん言っていくのに。
にしても、、、横目で2人を見る。慣れないところで不安なのか流凪は白銀の服の袖をつかんでいる。白銀は初恋の君とご対面で混乱しきっているのに加えて冷静であろうとしているのが見て取れる。
とりあえず、二人用にハートのチョコレートが入ったラズベリーアイスを頼んでやった。私のは抹茶。
「はいよ。席はとってるから。」
自分のカバンを置いておいた席ついて二人が食べるのを見ていた。流凪はぱちぱちと瞬きをした後にゆっくりと口にアイスを運んで、それに続いて白銀も食べた。
「ありがとうございます。美味しいです。」
どうやらささやかな嫌がらせには白銀は気づいていないようだった。
「えーと、明日から二人は二人で住むわけだが、大きい家具は買っているものの食器やらなんやらは買っていない。そして私はこれから仕事がある。よって、」
がさがさとカバンをあさってメモと長財布、三つ折りの財布を取り出し、いくらかのお金を自分の長財布から三つ折りの財布に移した。
「このメモに買わなければいけない物はすべて書いた。仕事が終わったら迎えに来るから二人で買い物をしていてくれ。それじゃっ!!」
一口で残りのアイスを口に押し込み、財布とメモを机において席を立った。
「えっ、ちょっと桜月さん!!」
悪く思うな白銀。お前達の初々しいきらきらは恋愛経験ゼロにはキツいんだ。二人だけで楽しんでくれ。
ぽかーんとした2人を残し恋愛経験ゼロの23才独身は走り去った。
こぼれ話10
昔の陽翠は髪の毛をポニーテールにしていました。きれいな髪の毛だと出帆に言われたため、昔のまま伸ばし続けています。
こぼれ話11
陽翠や桜月さん、出帆はたくさんかかわっていますが本来はクインテットは雲の上の存在で実際に話したことがあるだけでもすごいのです。




