晩ご飯
「ただいまー」
帰ってきたのは午後5時。あの後に魔物を4体祓ってきた。
「おかえり。お疲れ様」
「あれ?珍しい。小説読んでんだ。」
リビングのソファの端で小説を読んでいた出帆に声をかけた。
「面白い?どんなやつ?」
出帆はページをめくる手を止めて、ひょいと表紙を見せる。
「これ?。設定がちょっと凝りすぎてて、頭使う。」
「ふーん。貸してよ、読み終わったら」
「いいけど。あ、やっぱだめ。」
「なんでだよー。」
私はそう言いながら、手元のスマホを置いて大きく伸びをした。夏だから日が長くて外はまだ明るい。
「あれ?それ「春一」じゃん。まどかが持ってた」
『春が始まったら一番に君に会いに行く』
前世で恋人だった四分の一エルフの女の子と王子の男の子が転生して再開するっていう話。魔王を倒す旅で女の子が死んじゃって叶えられなかった夢をなぞるっていう純愛恋愛小説だ。
「それバッドエンドだよ」
「えっ嘘でしょ!?!?」
「うん。嘘。」
「なんだぁ」
むっとした出帆は小説をぱたんと閉じてばしばしソファの隣を叩いて座るように促してくる。
「私ヒロインの子好きだなぁ。最初は忘れちゃってたけど思い出すまでの書き方とか」
「僕は主人公の人かな。ていうか途中ででてくる「東の島国の花」って多分桜だよね?主人公の人の名前も「理桜」だし」
「だよね。ヒロインの子も最初に持ってた「紫苑」から多分名前来てるし。」
「物語の構成がわかりづらくて駄作って言われてるけどいい話だよね」
「わかる。多分ここはこうで、、、」
「、、、陽翠。」
「寿命の事、聞いた?」
「うん。聞いたよ」
私の寿命は四分の一。長くても三十には死ぬだろう。
もし出帆の記憶が戻って結ばれても、、、私達の進む時間は長くはない。
「やだよ、、、陽翠がいなくなるなんて」
ぎゅっと手を握って不安そうに言う。出帆はどこまでも優しいから。
「大丈夫。まだあるんだから。」
***
「白銀の寿命は四分の一になる。」
そう桜月さんから聞いたときに目の前が真っ暗になった。
「っ、終焉具、ってどうやったら発現するんですか」
「まだ詳細は分からないが、、、強い感情を持つことで錬成武器が進化することで発現するらしい。」
陽翠を絶対に一人にはしない。したくない。
僕も終焉具を発現させたい。
そして記憶を取り戻したら絶対に伝えるよ。
君が好きだ。
───
「流凪くん!これあげるわ」
「?なんですか、これ。」
「んー、小説!面白い話やからさ!」
毛先が桃色の女の人から小説を貰った。
家に帰ってゆっくりと小説を読み始める。
前世で恋人だった女の子と男の子の話。
前世では剣の使い手の「リオ」と魔法使いの「シオン」が千年後に「龍音寺理桜」と「忍守詩音」として再開するっていう話。
(女の子の名字、前世「ハートアンダーブレード」だったから今世「忍守」?直訳すぎでしょ)
女の子は前世の記憶が無くて男の子は落ち込む。だがアプローチを続けていく。女の子は前世を関係なしにもう一度恋に落ちる、、、
そして二人は前世で平和な世界で見ようと言っていた桜を見たときに記憶を取り戻す。
「ただいまー」
知らない間に随分と時間が経っていたみたいで陽翠が帰ってきた。
「おかえり。お疲れ様」
「あれ?珍しい。小説読んでんだ。」
少し乱れたポニーテールを揺らしながら陽翠は僕に声をかけた。
「面白い?どんなやつ?」
僕はページをめくる手を止めて、ひょいと表紙を見せる。
「これ?。設定がちょっと凝りすぎてて、頭使う。」
前世の記憶を失った女の子と男の子の話で、、、うん?
前世の記憶を失った女の子→僕?
支えてくれる男の子→陽翠?
女の子は前世関係なしにもう一度恋に落ちる、、、
「ふーん。貸してよ、読み終わったら」
「いいけど。あ、やっぱだめ。」
あの派手な女の人、やってくれたな。
(別に、こんな恋愛小説になぞらえてるわけじゃないけど)
こうだったらいいのに。記憶が曖昧でもはっきりと目に見える愛を貰って愛を返したい。
ストーリーを紐解いている間にどんどん不安が膨れ始める。
寿命のこと。
陽翠はそのことをどう思っているだろうか。割とあっけらかんとしているかもしれない。気にしないかもしれない。
でも僕は、、、気にしてしまうんだ。
怖いよ。いなくならないでよ。
「大丈夫。まだあるんだから」
まだって。でも本来よりは大分短いじゃん。やだよ。一緒にいたいよ。
「ほら、泣かないでよ。」
透明な雫が輪郭を描いて陽翠の小さな親指が僕の頬を拭ってくれた。
「こっちまで、、、悲しくなってくるじゃんか」
「僕も終焉具が発現したら、、、一緒だよ。一緒に生きて一緒に死ねる。」
「そうかもだけど、出帆には死なないで欲しいな。いくらでも生きて生きて、好きな物、綺麗な物、いっぱい見て過ごして欲しい」
好きな物も綺麗な物も全部陽翠だよ。
僕が終焉具を発現させるのは絶対に陽翠を守るときだ。
「お腹すいちゃったね。なんか作ろうか」
「僕が作るよ」
「え?」
何となく僕がご飯を作りたい気になった。
「え、出帆作れる?」
「作れるよう、、、多分。」
「あはは。一緒に作ろうか」
いつもは陽翠が作って僕が手伝っている。でも、今日は逆。僕が作って陽翠に見てて貰う。
和やかな時間が流れていく。
「、、、うん、次は、、、人参?」
僕は少し緊張した様子で、包丁を握り直す。
そんな僕の横顔を、陽翠は一歩引いたところから、ニコニコと楽しそうに見守っている。
「出帆、そんなに肩に力入れなくて大丈夫だよ。人参が逃げちゃうよ?」
「いや、指切ったら怖いし、、、、、。これ、乱切りでいいんだよね?」
「うん、正解! 大きさを揃えると、火の通りが均一になって美味しくなるんだよ」
陽翠は手出しをしたい気持ちをぐっと堪えて、言葉だけで優しくガイドしてくれ、隣でお味噌汁を作っている。
僕が慣れない手つきで野菜を切るたびに、「おっ、今の綺麗!」「上手上手」と相槌を打つ陽翠。かわいい。
「、、、、、、次は、炒めるんだっけ?」
「そう。お鍋に少し油をひいてね。お肉の色が変わるまで、ゆっくりでいいよ」
僕がジューっとお肉を炒め始めると、香ばしい匂いが室内に広がる。
「わあ、いい匂い。出帆、お料理してる姿、意外と様になってるね」
「、、、、、、茶化さないでよ。必死なんだから」
陽翠はごめんごめんと言って向日葵のように笑った。
僕は照れ隠しに鍋を見つめたままだけど、その口元は少しだけ緩むのを感じる。
出汁と調味料を入れ、落とし蓋をして待つこと数分。
「陽翠、そろそろいいかな?」
「どれどれ、、、、、、。うん、いい色! 最後にちょっとだけ火を強めて、煮汁を飛ばすとツヤが出るよ」
陽翠のアドバイス通りに仕上げをして、ついに完成。
「上手にできたじゃん。流石だね。」
今日の晩ご飯は温かいお味噌汁と肉じゃが。冷しゃぶのサラダを添えて食べる。
「もう夏だね。」
「うん。出帆、誕生日そろそろでしょ。」
「え?」
僕の誕生日っていつなんだろう、、、
「あれ?八月十八日でしょ?」
「そうなのかもしれないけど、、、なんで陽翠が知ってるの?」
「あ、、、いや、ま、前言ってたし?出帆忘れちゃっただけじゃない?」
声がうわずってる。そして目線が横に行ってる。
「ふーん。陽翠は?いつ?」
「九月二十日だよ。秋生まれなの。」
九月二十日。九月二十日。あとでノートにも書いておこう。
忘れちゃいけない日だから。
「早く食べないと冷めちゃうよ」
「わかった」
この大切が、幸せが。
いつまでも君とありますように。
どうでも良いことですけど「春が始まったら一番に君に会いに行く」を短編で書いてみたい。




