桜月綾星
四眷属の一人が倒された。
停滞していた歯車が一気に動きだす。
「───」
ゆっくりと目を開ける。無機質な病院の天井が見えた。
「桜月!!!!桜月が目を覚ましたぞ!!!!」
碧の絶叫が病院内に響き渡った。
私、、、生きてんのか。
体中が全て痛い。この痛さは生きている証拠なのか。
雀宮、、、雀宮、、、
「涼は!?!?!?!?!?生きてるか!?!?無事か!?!?!?」
ばんっと跳ね起きた瞬間死にそうな程の痛みが襲いかかってきた。
「起き上がんな!!!!!」
碧のものっすごい大声が聞こえてこいつこんなに声出せたのか、と思う。
「雀宮は無事だ!!!容態も安定してきているから!!!無事じゃないのはとりあえずお前なんだ!!!」
やっと、やっと姉妹に戻れるんだ、、、
───
雀宮千織。雀宮家長女として生まれた。
『お願いっ、、、この子だけはっ、、、!!』
涼が一歳の時、私達家族は魔物に遭遇した。そして両親は、、、涼を守るために私を魔物に差し出した。
今まで円満な普通の家族だと思っていたから心底驚いた。悲しくて辛くて、泣きそうだった。
家族は逃げ、迫り来る痛みを受け入れて目を閉じた瞬間。
「鏡花水月!!!!」
あの人に救われたんだ。
一撃で魔物を倒してその女の人はこちらを振り返った。
「大丈夫!?!?怪我しとらん?お父ちゃんとお母ちゃんは?」
捨てられた、と言う事実は明確になってしまっていて私は泣きながら首を振った。
「っ、、、うちは本願寺月乃。あんた、名前は?」
泣きすぎて泣きすぎて答えられなかった。
私はもう雀宮じゃないんだ。だって、捨てられちゃったから。
「うーん、、、と、り、あ、え、ず、、、うちに連れて帰りましょう!!」
夜桜が綺麗で星は紺碧の夜空に映えて。光り輝く月を背景に美しく佇む命の恩人。それが本願寺さんとの出会いだった。
「桜、、、桜、、、?月、星、、、」
ぱたぱたと足を動かしながら私の名前は考えられた。名前なんてなんでもいい、と言ったらとびきり素敵なんつけたる!!と言われて考えられていった。
「自分の名前、言いたくないん?うーん、、、」
「繋がりを大事にできて人を導ける子になって欲しいから、、、綾?あっ、せや!!」
「綾星ちゃん!!「星」って昔は旅人の道標やったって聞いたことある!!『自分の人生を紡いで周囲を照らす光になる』って感じでどう???」
それが桜月綾星との出会いだった。
「綾星ちゃん、何か欲しいもんあるー?」
「今日のご飯、何がええ?」
「これかわいないー??」
「ランドセル!!買いに行こ!!!」
「授業参観!?行く行くー!!」
「綾星ちゃん足めっちゃ早いやん!!かけっこ一位やったで!?」
「綾星ちゃん歌も上手やったな!」
「テスト今まで全部百点!?天才!!」
「中学の制服、似合いすぎ!!」
「定期テスト500点満点!?学年一位!?オール五!?!?」
「体力テスト全国トップクラス!?!?」
「高校受験主席合格!?!?!?なんかもうバケモンの域まで来てない!?!?」
「大学行かずに浄化師なる!?!?!?高校の先生ぶっ倒れるんちゃう!?!?」
本願寺さんは私のことをたくさん褒めてくれた。私を愛してくれた。
この世界に生まれて来て良かった。
本願寺さんと出会えて良かった。
浄化師になれて良かった。
生きがいを見つけられて良かった。
涼ともう一度出会えて良かった。
愛して愛されてきた浄化2課リーダー「桜月綾星」で──────良かった。
───
「白銀がまだ目が覚めていないんだな。」
「はい。かれこれもう、、、一ヶ月くらい。」
一応退院して自由な生活を手に入れた。涼の見舞いに行きがてら会った目の前の流凪は泣きそうな顔をしていた。
「羽衣の反動、か、、、」
涼が天国だかどっかでアイと会って聞いてきたらしい。んなアホなことあるか、と思ったが本当にそのようなことが記された文献が見つかった。
「これからどうするんだろうか、、、」
奇跡の代償。四分の一の寿命。
1人になったあとぐるぐると考え続けた。
「外出よ。」
困ったときは外に出ればなんとかなる。
「んー、目がちかちかする。」
病院の屋上から見る夜景は結構光が多かった。
ちょっと寒い。パーカーか何か持ってくるべきだった。
自分の手を見る。ちゃんも五本指がついた手。白銀のおかげで出血が多くても一命を取り留めた。
「よーよー、先客かよ。ついてねぇ。」
「神楽。」
パーカーが欲しいと思ったらバカが来た。言葉の響きしか似てない。ちなみにこの「よーよー」というのは大して重要なことでもないのに構って欲しいときの神楽の口癖だ。
片足がもげた神楽は義足を付けて歩いていて両手にはビニール袋がぶらさがっている。
「お前も呑むか「呑む」
病院の屋上、二人してビールを飲むという謎の構図が出来上がった。
「お前、何しに来たんだ。診察か?」
「いーや。俺はもう怪我は治ってんだよ」
「足もげてんのに?」
「四ツ木のことを見に来た。」
「ああ、、、」
四ツ木実舟は右腕がもげた。白銀の術で死にこそしなかったものの腕は元には戻らなかった。神楽の足もだ。
「浄化師。やめるんだとよ。俺もやめることになった。」
「そりゃそうだ。」
涼も浄化師をやめることになった。これからは私と一緒に住む。
「今回、生き残れたん奇跡だよなぁ」
「ああ。」
死亡者58名。平浄化師は大分やられた。
「お前、雀宮、名乗るのか?」
「いや、私はもうしばらく桜月でいようと思う。」
「なんでだ?」
「この名前には良い思い出がありすぎる。捨てるには、、、あまりにも、惜しい。」
「そうか。」
「ん?お前、二本目のまねぇのか?」
ビールの二缶目に手を伸ばして、、、手すりに置いた。
「ビールあんまり好きじゃない。甘いやつのが好きだ。」
「前まであんなに飲んでたのに?」
最近甘いやつしか飲まなくなっていた。甘いやつは碧が好きだから。
「気分だよ。」
「ふーん。」
冷たい風が頬を撫でた。手すりに肘をついて前を眺める。
「煙草、吸わないのか?」
「ここ病院だぞ。」
「酒飲んでんのに?」
「、、、煙草はもうやめた。またライター貸せなんて詰め寄られたら困るからな。」
「仕方ないだろう。死にそうだったんだから。」
「まあ、健康にもいいしな。」
また沈黙。風が吹いて髪を揺らす。
「お前、変わったな。前までもっと氷みたいな奴だった。」
「そうかもな。」
「もっとも、今のほうがずっと良いと思う。」
「そうか。」
「新しい技、創ったんだな」
「ああ。」
「お前、さ。」
はあっと一呼吸置かれた。髪の毛がさらさらと風に靡いていく。
「なあ、俺達、付き合わねぇ?」
「あ?」
「ずっと好きだったんだ。お前の何にも媚びないところが。真っ直ぐなところが。」
「そう。」
「努力し続けて面倒見も良くて。お前はずっと俺の憧れだったんだ。」
前までなら、、、返事は変わっていたかもしれない。もう宙ぶらりんじゃなくなった。大切なものができた。隣に立ちたいと、、、思う人ができた。
「悪いな。その誘いには、、、乗れない。」
「だよなぁ。」
神楽が頭をがしがしと搔いた。
「水滝原か?」
「そうだよ。」
「水滝原には勝てねぇなぁ。」
あはは、と乾いた笑みを神楽はもらした。
「ほい。」
「は?」
ぐっと、手すりに置いていたビールを差し出した。
「フラれてたから慰めようと思って。お前にふさわしい女なんていくらでも居ると思うぞ。」
「フッたのはお前だろ。」
「そうだな。」
「じゃあな。寒いから私はもう帰る。、、、フラれたからって飛び降りたりすんじゃねぇぞ。」
「しねぇよ、ばーか。」
「そりゃよかった。それじゃ。」
「「またな。」」




