未練
ずるずると身体を引きずりながらみんなの元へと急いだ。
血だまりと炎の跡。全員が重傷を負っていた。このままじゃ、、、だめだ。
私はゆっくりと膝をついた。
指を組み、目を閉じる。
羽衣からのまばゆい光が辺りを包む。
「天降る慈光、我が手に集え。
荒ぶる熱を、柔らかなる白妙に封じ、彼の者の痛みを我が糧と成さん。
――解け、そして癒えよ!!!!!!!!!」
もう殆ど力も残っていない。欠損した身体を治す程までにはいかなかった。でも、、、
「良かった、、、みんな、生きてる、、、」
みんなの姿を見て安心したのも束の間。
「涼!!涼!!」
桜月さんが雀宮さんを抱きかかえて名前を叫んでいる。
「毒っ、、、」
魔物の血を混ぜた毒。皮膚は紫色に変色している。
私の術でも治らなかった、、、
「はっ、、、そうだっ、、、!!!」
****
(ここは、、、どこ?暗い。)
私は朝日の中で心臓貫かれて死んだ。もう後悔なんてない。
一つの扉があった。
青藍学園の中庭。皆でご飯を食べて、たくさんふざけて、、、
みんなで行ったショッピングモール、、、
屋上。陽翠と二人っきりで話したんだ。
一番大きな扉を開けた。
「っ、、、」
誰も居ないパーティー会場。陽翠だけがそこに美しく立っていた。
私は陽翠の手首を掴んで踊り出す。
聞こえてくるのは二つの小さな心臓の鼓動だけ。
窓から差し込む琥珀色の光が、陽翠のスカートの裾を透かし、柔らかな輪郭を描き出す。破れてぼろぼろになったはずのスカートも皮膚も全部治っていて。
激しい音楽に合わせて私は一歩、また一歩と踏み出す。
目の前の大きな黒い瞳は戸惑いと驚きの滲んだ瞳。大好きな人の目には自分だけががはっきりと映っている。
「あはははは!!!!あっははは!!!!」
現実では指先さえもう触れられないのに。この幻の中で狂ったように笑って笑って踊り続けた。
少しずつ陽翠が消えていって回りの景色も混ざって溶けていった。
また景色が変わった。満天の星空と浮かぶ満月。
「おやおや、これはこれは。凛さんじゃないですかぁ。」
間延びした声。振り返ると浄化師が立っていた。
「あなたは、、、雀宮涼?でしたっけ。あなたも死んだんですか?」
「はい。心刻の毒にやられましてねぇ。ずっと探していた姉に出会えたのに。」
「あの背の高い女の人、あなたのお姉さんだったんですね。」
「はい。そうですよぉ。今まで気がつけなかったんです。びっくりですよねぇ。」
「悪かったですね。心刻様に殺されてしまって。」
「本当ですよぉ。やっと姉妹に戻れたというのに、哀しいことです。」
「しょうがないじゃないですか。私だって、夢を叶えたかったんですよ。」
「陽翠が欲しかった。なのに私だけを見ててくれなかった。魔物になんてなりたくて成ったわけじゃありません。どうしても愛されたかったんです。私には、、、陽翠しかいなかったから。」
「世界は優しくなんてなかった。全部全部普通から外れてしまった私は異常だった。壊すこともできずにそのまま消えた。陽翠の隣には私じゃない。それが嫌だった。」
「、、、へぇ。随分と深い愛をお持ちなんですねぇ」
「この感情すら違うと言われましたよ。それはただの独占欲だって。」
「独占したいと思っても愛は愛でいいじゃないですかぁ」
「涼さんは、この世に未練とかあるんですか?」
「未練?ありまくりですよぉ。姉と過ごしたかった。もっとたくさんの物を守りたかった。もっと美味しいものをみんなで食べたかった。もっと、、、生きたかった。」
「同じような願いですね。私達。」
「そうですねぇ。あなたが魔物で私が人間。その関係じゃなかったら、お友達になれたのかもしれませんねぇ。」
「そうかもですね。来世に期待、ということでしょうか。」
「陽翠と再開してからは世界にちゃんと色がついていたんです。本当に綺麗だった。あの景色を見られたことが、、、幸せだったんですね。」
「幸せ、、、ですかぁ。幸せってなんなんでしょうね。」
「感情を食って生きる魔物からしたら感情を持てることが幸せだと思いますよ。」
「そうですかねぇ。難しいことはわかんないです。」
「ねえ涼さん。知ってますか?」
「はい?」
「あの陽翠の羽衣。並々ならぬ水晶の力と溢れ出る感情。武器としての域を超えて存在したあの羽衣、、、そして持ち主の陽翠のことです。」
「遠い昔、あのようなものを発言させた方がいらっしゃったそうです。」
「大凶様をあと一歩まで追い詰め、心の臓を貫きかけた者。ですが、、、」
「あの奇跡を起こした者は例外なく寿命は四分の一となります。」
「、、、え?」
「陽翠の残りの寿命、、、百年生きるなら二十五年。百二十年生きるなら三十年。それが奇跡の代償なんです。」
「へぇ、、、」
「人間側も文献を漁ったらこのことに気がつくでしょう。その時、、、陽翠はどう感じるのか。」
「それは、私達にはもう干渉のしようもないことですねぇ。」
「そうですね。、、、では、そろそろいきましょうか。」
「はい。まあまあこの人生も、、、?
ん?雨?
違う。この雨赤い、、、
「ギャアアアアアアアアアア!!!!!!!」
何この雨!!!!痛い!!!痛い!!!細胞がっ、、、焼けて、分解されて、、、
「これっ、水晶の血っ、、、!!!!!」
涼さんの雨にあたった部分は光に包まれていく。この死の世界から、彼女は薄れていく。
「、、、凄いですねぇ。私はまだ、この世にいられるみたいです。」
「やっ、、、やだっ!!!!一人で死ぬのっ
、、!?!?」
赤い雨に打たれ、愛と哀の融合は消えた。
****
「っ、、、」
雀宮さんの目がゆっくりと開いた。
「やったああああああああ!!!!!!!」
『水晶の力って、、、魔物の細胞を破壊するんですよね!?魔物の血を分解することができるなら、、、!!!』
私達の血は雀宮さんの中の魔物の細胞を破壊した。
「涼っ、、、良かった、、、生きてて、、、良かった、、、」
「おかえり、、、、、涼。」
「た、、、だいま、、、お姉、、、ちゃん」
美しい朝日は今日を迎えた。
私達の、勝ちだ。
「陽翠!!!!!」
出帆の声が響く。安心した身体は役目を終えたかのようにゆっくりと倒れていった。




