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月下美人・月

「うっわぁ!あぶな!あんたら強いねんな!もーうち光太郎達のとこはよ行きたいのに」


遠くに飛ばされたのは陽翠ちゃんと涼ちゃん、綾星ちゃん。心刻に近くて恐らく心刻と今交戦してるのは光太郎、水滝原くん、流凪くん。神楽くんと四ツ木くんは生徒の安全確保、てとこかな。


有明月ありあけづき!」


二体の魔物は同時に襲いかかってくる。


「腹立たしい腹立たしい!ちょこまかと跳ね回るな!」


「憤怒、そんなに怒らないでよぉ」


七情。喜・怒・哀・楽・悪・愛・欲、、、やったっけ?この男の方の魔物は憤怒ってことは怒?女の方の魔物は、、、


「んー?おねぇさん、その髪の毛の毛先綺麗!欲しいなぁ」


私の桃色の髪の毛先が大きな鋏によって切り取られそうになった。


「うわあっぶな!もーやめてぇやうち気に入ってんのに!」


さっきの発言からするに人の物を欲しがる、、、欲?武器は大鋏か?


「てゆーか自分、さっきからワァワァうるさいねん。、、、、、、そんな熱苦しい火ぃ吹いて、ご近所さんに迷惑やろ?」


怒の魔物が放つ猛烈な熱風。


うちの背後に浮かぶのは、きれーな月。その青白い月光を浴びた瞬間、全身から嫦娥じょうががジャラリと溢れ出した。


腰、腕、脚、さらには衣の裏側まで。全身に備えられた無数の短刀が、月の光を反射して冷たく輝く。


「うちはな、熱いんは嫌いやねん。、、、、、、月の光は冷たいで? あんたのその煮えくり返ったドロドロ、全部一瞬で冷やしたるわ」


魔物が怒りに任せて火柱を上げるけど、うちは踊るような足さばきで肉薄する。


身体をひとひねりさせるたび、全身から放たれた短刀が月光の軌跡を描きながら魔物へと向かう。


「玉兎の舞」


夜空に舞う無数の刃が、まるで月が砕けたかのように美しく、そして冷たく魔物を包み込んだ。


「、、、、、、そんなに吠えんといて。耳、痛いわ」


攻撃を受けてなお目の前で逆巻く炎を見つめながら、うちは小さく吐息をついた。


魔物が撒き散らすのは、理性を焼き尽くす純粋な「怒り」。その熱気に当てられれば、普通なら恐怖か、あるいは同じような憤怒に呑み込まれてまう。


けれど、うちの心は、冬の夜の池のように静まり返っていた。


(怒って、疲れるやん。自分を燃やして、周りも焼いて、、、、、、あとに何が残るんよ)


うちが全身に纏う無数の短刀。それは、かつてうち自身が抱え、やり場を失って結晶化した「心のとげ」そのもの。


人知れず泣いた夜も、不条理に拳を握りしめた日も、うちはその感情を爆発させるのではなく、冷たく研ぎ澄まして、己の武器に変えてきた。


「うちは、あんたが羨ましいわ。そんなに真っ直ぐに、外に向かって怒れるんやから」


自嘲気味に微笑む。


跳躍し、月光を浴びる。全身から溢れ出す短刀は、孤独な戦いの証だ。


一本一本が、うちが押し殺してきた激情の欠片。それを今、うちは「怒」という名の怪物へ、慈悲のように投げ打つ。


(、、、、、、でもな、それじゃあ誰も救われへんねん。あんたも、あんたに焼かれるJKも。そして、たぶん、、、、、、あんた自身もな)


刃が魔物の肉体に食い込むたび、うちの指先には、魔物の「熱い叫び」が伝わってくる。


それは、誰かに気づいてほしくて暴れている子供のような、悲しい熱量だった。


「もうええよ。もう、熱くなくてええ。これでおしまいや。」


光風霽月こうふうせいげつ


最後の一撃を放つ瞬間、魔物の瞳には、敵への憎しみではなく、どこか祈るような色が宿っていた。


魔物の炎が消え、静寂が訪れる。


バラバラと地面に落ちた自分の短刀を、愛おしそうに見つめた。感情を武器に変えるたび、うちの心の一部は少しずつ削れていく。それでも、うちはこの戦い方をやめない。だってこれしか知らへんもん。いつものオーバーリアクションは何も感じなくなってきた心を隠すためのファンデーション。


背後から迫ってきた鋏に気づけず、太ももを切られた。


「いったぁ、、、次はあんたやな。えらい可愛い服着てるやん。若い子はええなぁ。」


うちと同じような露出の多い服。


目の前に鎮座するのは大鋏を携えた白髪の女。


「雪月花」


千手千求せんじゅせんぐ


どれだけ攻撃を仕掛けても食われる。これが、欲。うちは基本的に質量で押し切って戦うスタイルやから厄介かもな。


「自分、なんぼほど食べたら気が済むん? 街の灯りも、人の思い出も、全部自分の胃袋に入れな気が済まへんの?」


うちは短刀を全身に纏いながら、嫌悪感を隠さず吐き捨てた。


「その光、、、綺麗!欲しいなぁ!」


「あいにくやけど、これは非売品や。、、、、、、それに、自分みたいな『空っぽ』に貸してあげる義理もないわ」


うちは地を蹴った。


全身から溢れ出す短刀が、月の光を受けて一斉に射出された。しかし、放たれた刃は魔物の肉体に吸い込まれ、逆に魔物を肥大化させていく。


「、、、、、、っ、ほんまに卑しいな。人の攻撃まで自分の糧にするんか」


うちの心に、一瞬の隙が生じる。


(このまま勝てるんか?応援を呼ぶべき?)


うちの武器である短刀は、うちが押し殺してきた感情の結晶。


「愛されたい」「認められたい」「もっと強くなりたい」――うちの心の奥底にも、確かに「欲」の種はある。魔物はその心の揺らぎを逃さず、うちの精神を侵食しようと甘い声を響かせた。


「おねぇさんも欲しいものあるじゃん。強欲なくらい。のぞみ、びっくり。そんなすました顔してるのにね。」

「、、、、、、、、、、、、。せやな。うちは強欲や。自分でも引くぐらい、欲張りやで」


うちは冷たく微笑み、全身の力を抜いた。


今度は短刀を飛ばさない。逆に、全身の刃を内側へと引き込み、月光を自分自身に凝縮させる。


「うちの欲はな、あんたみたいな『何でもええから欲しい』っていう安もんやない。、、、、、、うちは、『みんなを守りたい』っていう、最高に贅沢な欲を持ってんねん」


うちの身体から、かつてないほど鋭く、青白い光が放たれた。


全身から出た刃が、今度はうちを中心に巨大な満月の輪を形成する。


「食えるもんなら食ってみぃ。うちの『心』、飲み込むにはちょっと強すぎるかもな!」


うちは光の渦となって魔物の中心部へ突っ込んだ。


魔物はうちを飲み込もうと口を広げたが、内側から数千、数万の月光の刃が突き出し、その肥大化した肉体を内側から切り刻んでいく。


光風霽月こうふうせいげつ。欲に呑まれて自分を失うなんて、一番『損』な生き方や。ばいばい、欲張りさん。」


光が弾け、魔物は霧散した。


後に残ったのは、静まり返った夜の闇と、少しだけ息を切らしたうちだけ。


「、、、、、、ふぅ。、、、、、、さて。ほんまに強欲なこと言うてもええかな?」


うちは夜空を見上げ、独り言のように呟いた。


「、、、、、、生きて帰れたら次の休み、光太郎とうまいもん、お腹いっぱい食べたいなぁ。、、、、、、こればっかりは、月光の短刀じゃ手に入らへんねん」


うちは自嘲気味に笑うと、消えかかった月の光を背に、ゆっくりと歩き出した。




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