紫丁香花・陽
(もうここには居られないのか、、、)
浄化師である自分の姿を見て皆はどう思うだろうか。
「早く逃げて!!!」
そう大声で叫んだ。
「早く!こっちよ!」
先生達が生徒を誘導している。そういえば、浄化師って政府公認の組織だもんな。
そんなことを考えながら私の目は、ただ一つの目標に固定されていた。異形の「魔物」は、パーティーの華やかな装飾をなぎ倒し、混乱を引き起こしていた。
私が身にまとっているのは、皆で選んだ濃紺のドレス。ヒールは戦えなくなるからその辺に脱ぎ捨ててしまった。視界に入るのは、見慣れた光を放つ羽衣。周囲では逃げ惑う人々の悲鳴が響いる。
(絶対奪わせない)
私はひるむことなく、魔物に向かって駆け出した。
床に並べられたクリスタルグラスが砕け散る中を巧みに飛び越える。スカートの裾が翻り、動きに合わせて舞い上がる。魔物の巨大な爪が振り下ろされるのを、間一髪で避ける。
「あはははは!楽しいのう、楽しいのう!」
武器の一閃。羽衣がぶつかる高い音が会場に響き渡る。魔物の硬い皮膚に傷がつき、奇妙な色の体液が飛び散る。しかし、冷静に次の攻撃へと繋げる。
(もう感情に任せて動いたりしない。今、最善の判断を。)
シャンデリアの光が横顔を照らし出す。この異常な状況の中でもまるで訓練された戦士のように、的確な動きで魔物と対峙していた。
豪華絢爛なパーティー会場は、今や戦いの舞台と化している。その中心で、一人の女子高生が、大切な場所を守るために立ち向かう。
パーティー会場の喧騒と破壊の中で、私の視界に信じられない光景が飛び込んできた。
「……嘘、あそこに誰かいる……!」
崩れた大理石の柱の陰で、血の流れた腕を庇うように座り込んでいたのは葵子。その隣には葵子を守るように立つ和水さん。
「和水さん!葵子抱えて逃げて!死なせたら許さないから!」
「光芒流し!」
「逃げて、二人とも!!」
叫びと同時に、和水さんは弾かれたように地面を蹴った。葵子を素早く腕に抱えて走り出すその背中に降りかかる魔物の爪を腕もろとも羽衣で切り落とした。
ガシャン!と、背後のビュッフェテーブルが粉々に砕け散る。破片が飛んできて頬に血が伝った。
「美しい!美しい!!なんと綺麗な友情!喜ばしいことじゃ!」
再び武器を構え、狂ったように咆哮する魔物の正面へと踏み出した。私の背中にはたくさんの守るべき命がある。奪わせるわけにはいかない。
裸足の足の裏にはガラス片が刺さって血が流れている。
「玲瓏ノ雨」
雨のような斬撃を魔物に向かって降らせても硬くて攻撃が通りづらい。
しかも魔物が放つ一撃は重すぎて避けるのが精一杯で反撃をする暇が、、、
焦りが募る中、魔物の素早い攻撃が私を、捉えた。肩辺りと布と皮膚が裂ける音。
「あぐっ……!」
痛みで視界が揺らぎ、床に倒れ込んだ。口の中に広がる苦い味。乱れた髪の間から見える魔物の姿が、威圧的に見下ろしていました。
「ハァ、ハァ……っ……」
「ええっ、、まだ立つのか!!普通の娘なら痛い痛いと叫んで気を失っておるのに!凄いのぉ、喜ばしいのぉ!!」
「うるさい。」
痛むごとに足の裏と肩から血が流れて赤く染める。
「光明輪!」
こんなのは本体じゃないから。ここで足を止められるわけにはいかない。
「あはははは!凄いのぉ!お前もアイのように魔物として心刻様に使って頂こう!」
「アイ、、、?」
「そうじゃ!アイ!哀と愛の融合、七情最強の魔物!お前の言う「ユウキリン」!あそこまで人の形を保ち、記憶も保持したままの魔物、どれほどの心だったのだろうかな!」
凛、、、
「魔物となれば永遠の時を生きられる!万の富も永遠の美貌も願えば叶うんじゃぞ!!」
「そんなものいらない。」
「はっ、、、?」
初めて狂喜が困惑した表情を見せた。
「そんなものいらないって言ったの。」
なんだか面白くなってきて笑い出した。
「永遠の時を生きられる?そんなの何の価値があるっていうのよ。」
羽衣が光を増して輝く。垂れ下がった羽衣の触れている箇所の怪我が、、、治っていく。
「好きなアニメもなくなっちゃうし好きな人だっていなくなっちゃう!そんな寂しい永遠なんて手に入れてなんだっていうの?万の富と永遠の美貌?そんな幻どうだっていい!!!!!」
光を増して伸びた羽衣。激情が抱えきれずに羽衣を伝っていったような。
「あっ、、、あぐっ、、、」
光に浸食された狂喜は喉元を抑えて苦しみだした。
「貴様っ、、、何をしたっ、、、この水晶の力、、、心臓がっ、、、」
黄色色の靄が抜けていく。段々と狂喜的な笑顔は消えていく。まるで人間としての感情を失ったような、、、
───やっとわかった。この羽衣が強い意味。魔物に対する強い力。
『今は昔、竹取の翁という者ありけり。野山にまじりて竹をとりつつ、、、』
竹取物語のかぐや姫。その最後のシーン。かぐや姫は天の羽衣を着せられて感情を失い、月に帰る。
魔物は感情、心を食って生きる。だから心臓が弱点なんだ。もしこの羽衣が天の羽衣ならば、、、
「喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜喜」
羽衣で締め上げて心臓を破壊した。最期の魔物の表情は感情のない真顔。
「早く、行かなきゃ。皆の元へ、、、」
使える。この羽衣で皆をまもるんだ。




