桔梗の愛・夕顔の恋
投稿し忘れていました!本当にごめんなさい
さらに私達は踊った。
ゆるやかなテンポの曲を。楽しげなテンポの曲を。
そのどの瞬間を切り取っても私は最高に楽しくて出帆は最高にかっこよかった。
「ねえ、外出ない?」
いいよ。と返して私達は外へ出た。冷たい夜風が頬を撫でて火照った肌を冷やしていく。
「ちょっと暑かったね」
彼女が言うと、隣に立つ彼が小さく頷いた。普段話す時よりも距離が近い気がする。着慣れないドレスと少し高いヒールで、なんだか落ち着かない。
「星、綺麗だね」
彼が夜空を見上げながら言った。つられて彼女も空を見上げる。確かに、澄んだ空に星がきらめいていた。でも、本当は、星よりも隣にいる彼の横顔ばかり見てしまう。
会場から漏れる音楽は遠くで小さくて、ここでは静けさが二人を包んでいる。風が木々を揺らす音が聞こえる。
「こういうのもいいね。」
「うん。」
時はゆるやかに私達を見守って月光藍の影を落とす。月がこちらをのぞいて笑っていた。
「あの星、、、なんて言うんだったっけ」
そう言って出帆が指さしたのは光り輝く星。
「あれはデネブ。あっちがアルタイルでベガ。有名な夏の大三角形だよ」
そう言うと出帆はその三つを目をこらして探した。
「織姫は、、、いたけど彦星がわからないや。これじゃひとりぼっちになっちゃう。」
そっと出帆の手をとって指ささせる。
「あれだよ。ちゃんといる。ひとりぼっちじゃないの。」
真っ暗な世界と隣の君。
私はそれ以上何も言えなかった。
「僕と踊ってよ」
その言葉を合図に私達は再び踊り出した。
微かに聞こえるワルツを聞いているふりをしながら聞こえているのは私の心臓の音だけ。しっとりとした曲調はこの雰囲気にあっていた。
ドレスの裾が舞い、星が煌めく。
くるりと回るたびにのぞく白い靴は地面に藍色の影を落として。
残された横髪は動きに合わせてゆるやかに揺れた。
月の光を受けて光る簪が。
私を見つめる大きな青い瞳が。
手のひらから伝わる温度が。
こんなにも愛おしい。
「綺麗。」
月が綺麗。ドレスが綺麗。簪が綺麗。星が綺麗。あなたが、、、綺麗。
「そろそろ戻ろっか。」
名残惜しさが残る中、私達は再び喧噪の方に足を進めた。
*****
「は?」
思わず口から漏れ出た声はあまりにも低かった。流凪が陽翠に何か囁いて、陽翠と2人でどこかへ行った。
「凛!次私!」
次々とパートナーを変えて友達達と踊る。でもその中に陽翠はいない。
何してるの。
目の前に集中できないけど必死に練習したダンスは滞りなく進む。
何で私を見ないの?
私だけを見ててよ!!!!!!!
しばらくすると陽翠が戻ってきた。早く取り戻したくて駆け寄り、さっと手を取った。
「陽翠。私と踊ってよ」
「いいよ!!」
くるりと振り返ってこちらに向けられる笑顔はさっきまで私じゃない人に向けられていた笑顔。
「出帆、行ってきてもいい?」
「いいよ。僕はここで待ってるから。陽翠が踊ってるの見てる。」
へえ。陽翠、流凪のこと名前で呼ぶんだ。他の人は名字さん付けなのに。その人はどういう存在?ねえ。
抑えきれない醜い感情が黄色いドレスに爪を突き立てた。このドレスだって。向日葵みたいなあなたをイメージしたドレス。これを着て2人で踊りたかった。
「え、ごめん!!もう出帆に誘われちゃったんだよね!後半少しなら!」
さっきから、ずっと。
会場の隅、テーブルクロスのかけられたテーブルと椅子が並ぶ暗がりに、私は逃げるように座り込んでいた。
フロアの中央では、陽翠が踊っている。その隣には私じゃなくて、、、流凪。オレンジ色の照明に照らされて、クラスメイトたちの笑い声が重なり合っていた。
視線の先には陽翠がいる。今までになく楽しそうに笑って流凪と手をとって。そんな目でそいつのこと見てないで。私だけを見ててよ。
(……笑ってる)
陽翠のあんなに楽しそうな顔、自分と話しているときでも見たことがない。流凪が何かを囁き、陽翠が少し照れたように髪を掻く。その何気ない仕草ひとつひとつが、私の胸の奥を鋭く刺した。
ただの学校行事だ。誘われたから踊ってるだけ。形式的なダンスに過ぎない。頭では分かっているのに、陽翠の手が自分ではない誰かの体温に触れているという事実が、どうしても許せなかった。
「……バカみたい」
私は膝の上でスカートの裾をぎゅっと握りしめた。
こみ上げてくるのは、惨めなほどの独占欲だ。陽翠の視界の端にすら入っていない自分が、勝手に傷ついているのが滑稽でたまらない。
「ねー凛!踊ろー!」
友達が駆け寄ってきてその手をとった。ひんやりとしたその手は私の欲しい体温じゃないのに─────。
私と陽翠は手を取り合って踊り出した。
スローテンポな曲に切り替わり、会場の空気がしっとりと色を変える。
踊り始めると、ドレスの裾がふわりと宙を舞う。彼女から漂うシャンプーの甘い香りと、会場の華やかな香水の匂いが混じり合い、頭がぼーっとする。至近距離で見る彼女の肌は、照明を反射して透き通るように白く、緊張のせいか頬がほんのり桜色に染まっていた。
「凛、楽しいね。」
彼女が上目遣いでそう囁く。その潤んだ瞳に見つめられると、ステップを踏む足がもつれそうになる。繋いだ手からは彼女の鼓動が伝わってくるようで、自分の心臓の音も彼女に聞こえてしまうのではないかと不安になった。
周囲の喧騒は遠のき、スポットライトの中に二人だけが取り残されたような錯覚に陥る。彼女がくるりと一回転するたび、綺麗に整えられた髪がさらりと揺れ、その一挙手一投足から目が離せない。
今言ってしまおうか。
この心の内を。
私は踊りながら言った。
「ねぇ、この曲終わったら、屋上、行こ。」
「?いいけど」
手を取って屋上に連れて行った。パーティー会場とは違う棟にあるそこは2人でよく来た思い出の場所。
「陽翠。」
嘘っぱちのファンデーションも全部今夜のため。きらきらに塗った目元も整えた爪と手も。黄色いドレスも白いリボンも。
「好き。」
「、、、え?」
「貴女のことが好き、、、って言ったの。」
ここでは何も音が聞こえない。誰もいない。私と陽翠だけだから。
「ずっと、好きだった。陽翠の優しさと明るさに憧れてた。ねぇ、前に言ってたよね?応援するって。なら、、、私のこと、好きになって」
困惑したような表情。白い手袋に包まれた長い指は左腕を右腕で掴んでいる。
「えっと、、、ごめん。私、、、」
、、、好きな人、いて。
「えっ、、、えっ、、、なんで!?前に聞いたとき、、、「そういうのって他の人に言うものじゃないと思ってたし、、、ごめん、でも凛は友達としては大好き、、、
「違う!!!!!!!」
大きく地団駄を踏んで言った。
「友達なんかになりたくない!!!ねえ、なんで!?なんで!?私よりその人のこと好きなの!?!?私の方がっ、、、!!!
先に好きになったのにっ、、、、!!!!」
やだやだやだやだやだやだやだやだ!!!!!
「ねぇ、覚えてないの、、、?私達、昔会ったことあるんだよ、、、?」
泣きながら膝をついて、陽翠の腕を掴んだ。でもその腕はゆっくりとほどかれた。
「絶対私の方が陽翠のこと好きだから!!ねっ、なんで!?」
胸の内の黒さが湧き上がってどくん、と大きくなった。
「陽翠!!!!!!!!!」
大声が聞こえてくる。流凪の声だ。黒さが身体の外に出て、仲間を呼び寄せる。私以外の6つの心が近づいてきて、それと比べものにならないほど大きな黒さも膨らんでいくのを感じた。
だってしょうがないじゃん。
好きだったのに。
あーあ。もういいや。
「陽翠!そいつは!!!!!!」
「四眷属の手下だっ!!!!!!」




