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爛漫たるとき・唱和する心

「陽翠、まだかな。」

「もう少しじゃないか?」


そわそわして落ち着かない。黒いタキシードを着ていつもよりちゃんと髪の毛をセットして。


彼女にふさわしい僕になれますように。


扉が開いた瞬間、ざわざわしていた会場が一気に静まった。


「え、あんな子いたか?」

「綺麗、、、」

「どこの組の子?」

「もしかして高等部一年の、、、?」

「あーあの学年一位の!?」

「ていうか友達もやべえぞ」

「うわー全員美人!俺誘ってこようかな」


入り口に立つ彼女の姿。いつも見慣れた快活な彼女とは違う、夜の静寂を纏ったような深い紺色のドレス。繊細なレースの隙間から覗く白い肌が、シャンデリアの光を反射して淡く発光しているように見えた。


特に目を引かれたのは、その全体の佇まいの美しさだ。姿勢良く立つ姿は、彼女の内なる強さと繊細さを同時に感じさせるようで、心臓がどきどきした。


あ、あれ。


僕があげた簪、、、。


彼女が少し首を傾げるたびに光を反射し、洗練された印象を与えていた。いつもとは違う、丁寧にセットされた髪型は、彼女の首筋をすっきりと見せていた。


彼女がこちらを向いて、少し微笑む。その瞬間、周りのすべてが霞んで見えた。ただ、そこに立つ彼女の存在感に、僕はただ見惚れることしかできなかった。


「出帆。」


ゆっくりと近づいてきた彼女はどこまでも美しかった。長いまつげはぱっちりと上がってて目元もなんかきらきらしてるし唇もぷるぷるしてるし、、、


「すごく、、、似合ってる。綺麗、、、」


僕はそう言うのがやっとだった。だって、あまりにも綺麗だから。出来合いの言葉で飾ったって無理だから。この世の何よりも綺麗な彼女はこの世の言葉で表せなかった。


*****

出帆が差し出した大きな手に、震える指先をそっと重ねる。


エスコートされるままフロアの中央へ進むと、オーケストラが奏でるワルツの旋律が、魔法のように足元から這い上がってきた。


見上げると、いつもより少し緊張した顔の彼と目が合う。


「…すごく、綺麗。」


耳元で囁かれたその低い声に、顔が熱くなる。


彼の右手は私の腰を優しく、でも確かな力強さで支え、もう片方の手は私の指を温かく包み込んでいる。


音楽が加速し、私たちが一歩踏み出すと、重なり合う裾がふわりと宙を舞った。足元には白いヒールが覗いた。この日のためにたくさん練習した。足首に巻かれたリボンは美しく揺らめいた。


視界が万華鏡のように回り始める。きらめくシャンデリア、談笑する人々、揺れるキャンドルの火。それらすべてが光の帯となって溶けていき、最後には目の前にいる出帆の真っ直ぐな瞳だけが、世界のすべてになった。


ステップを刻むたびに、ドレスのシルクが脚に触れ、出帆が纏うシトラスの香りが鼻腔をくすぐる。


「ねえ、転ばないか心配なんだけど」


私が小さく笑うと、彼はさらに腕の力を強めて、私を自分の方へと引き寄せた。


「大丈夫、僕が絶対に離さないから」


その言葉と同時に、私たちはひと際大きくターンを描く。


まるで夢の中を泳いでいるような浮遊感。


この時間が永遠に続けばいいのに。私は心の中で密かに願いながら、彼の胸にそっと顔を寄せ、リズムに身を任せた。


ワルツが少しアップテンポな曲調に変わると、それまでの緊張が嘘のように解けて、私たちは顔を見合わせて笑い合った。


「あ、今のステップ、ちょっと怪しかったでしょ?」


「バレた? でも、陽翠が上手くリードしてくれるから助かるよ」


そんな軽口を叩きながら、リズムに乗って軽やかにフロアを駆け抜ける。くるりと回るたびに、ドレスの裾が大きな花びらのように鮮やかに広がり、足首に心地よい風を感じる。


シャンデリアの光がスパンコールに反射して、私たちの足元に小さな星屑を散りばめているみたい。


「ほら、あっちまで行ってみよう!」


出帆が少し悪戯っぽく笑って、私をフロアの端から端までエスコートしてくれる。


ステップを一段と速めると、景色がキラキラと光の帯になって流れていく。


重力から解き放たれたような感覚に、思わず


「ふふっ」


と声が漏れた。彼はそれに応えるように、私の手をぎゅっと握り直し、一段と高く私を回してくれる。


弾む息。高鳴る心臓。


ドレスを翻し、笑い転げそうになるのを必死に堪えながら、私たちは光り輝くフロアを滑るように踊り続けました。まるで世界中の「楽しい」を全部集めて、二人で独占しているような、最高の気分。


横目で皆を見ると葵子や椿、まどかも踊っている。真姫は朱音と踊っていて花手毬先輩は背の高い男の人と、梅宮先輩は宇佐美さんと。まどかは柊組の女の子と踊っていて皆それぞれ楽しそうだ。


数曲踊り終えた後に出帆が


「飲み物、取ってくるね」


と言ってカウンターへ向かった。


白いテーブルクロスのしかれたテーブル。料理はビュッフェスタイルでもう少ししたら取りに行きたいかも。


ぼーっとしていると賑やかなパーティーの喧騒の中、一人の男の人が私に話しかけてきた。多分上級生。


「一人?君可愛いね。一緒に踊らない?」


見知らぬ男性からの突然の誘いに、私は少し戸惑った。


「えっ、あのっ今とっ友達が、、、」

「いーじゃん。ちょっとくらい。」


そう言って近づいてきた男の人からは心地良い出帆の香りとは違う甘ったるくて深いな匂いがした。


沈黙を肯定と受け取ったのか男の人は私の腕を強引に掴んで引き寄せようとした。


「!やだっ、、、」

「ごめん、待たせたかな」


振り返ると、そこには出帆が立っていた。少し申し訳なさそうな顔で、、、。いや、怒ってる。にこやかな笑顔の裏に物凄い怒気をはらんでいる。


「僕の大切な人に何か用?今すぐに手を離して。」


冷ややかな目で出帆は言い、男の人は少し残念そうな顔をしたあとすぐに立ち去った。出帆は私の手を取り、人混みを避けて少し静かな場所へ移動した。


「大丈夫だった?」


彼の優しい声に、私は安堵の息をついた。


「ごめん、ありがとう。」


「腕、大丈夫?なんともない?」


ゆったりとした袖に包まれた私の腕は肘まである長い手袋に包まれている。


「うん。大丈夫だよ。ご飯、食べる?」

「そうだね。なんか食べよう」


パーティーはまだ始まったばかりだ。









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