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私の抱えているもの

「白銀が今抱えているもの、全部。」


心臓が止まるかと思った。止まるかも思った心臓はどんどん鼓動が大きくなって増えていって胸を破ってでてきそうだった。


「私は白銀のことをよく知らない。今まで何があったのか。どうしてここにいるのか。何も知らないのに知ったふりをしていた。」


「教えてくれ。お前のことを。」


「っ、、、」


善人が嫌いだ。いい人が嫌いだ。無条件に優しくて損得考えずに人を助ける人が、、、嫌いだ。善か悪か。白か黒か。はっきり分かれて芯を持つことができない、自分が嫌いだ。こんなに優しい人の前で何も言えなくなる自分が嫌いだ。


私こんな人じゃない。もっと明るくて優しくてさっぱりしててかっこいい人なんだから。


「小さいとき、出帆の家の近くに住んでて。」


抱えたものを一度だけで良いから下ろしてみようと思った。


────────

7年前、、、かな。私は出帆の家の近所に住んでて。昔からうちのお父さんは昔気質な人でした。亭主関白、、、っていうのかな。


とにかく気に入らないことがあれば怒鳴るし手も上げる人でした。何回も殴られそうになってお母さんが守ってくれてて。でも。


お母さん、飛び降りて死んじゃったんです。


海岸から海に飛び込んで。自殺、といわれましたが私は父が殺したようなものだと思っています。


母の日記が見つかったんです。


『九月二十日

最高に可愛い天使が私の家にやって来てくれた!この子は陽向で清く育つように陽翠っていう名前。』


『十月十五日

こんなに可愛い子がいるの!?私の指を握って何かお喋りしてた。愛おしいなぁ。』


こんな調子が五冊くらい。でも、私が七歳になった辺りから狂っていったんです。


『六月五日 今日は楽しかった』

『六月六日 今日は楽しかった』

『六月七日 今日は楽しかった』

『六月八日 今日は楽しかった』


今日は楽しかった今日は楽しかった今日は楽しかった今日は楽しかった今日は楽しかった今日は楽しかった今日は楽しかった今日は楽しかった今日は楽しかった今日は楽しかった今日は楽しかった今日は楽しかった今日は楽しかった今日は楽しかった今日は楽しかった今日は楽しかった今日は楽しかった今日は楽しかった今日は楽しかった今日は楽しかった今日は楽しかった今日は楽しかった今日は楽しかった


『陽翠、大好きだよ。お母さんこんなんでごめんね。強くてかっこよくて、明るくて優しい陽翠が本当に大好きだった。笑顔が大好き。みんなに頼られる明るくてかっこいい人になってね。』


そんなメモが最期のページに挟まっていました。


お母さん、優しい人だったんです。優しくて強くてかっこよくて。そんな人がここまで追い詰められるなんて本当におかしいと思いました。


私は持ち前の明るさを失っていきました。


「チッ、めんどくせえな。母親なんだったら最後まで育てろよ。オイ、お前。何もせずにうちの家で食っていけると思うな。働かざる者食うべからずだ。これから家事はお前が全部しろ」

「なんでそんなこともできないんだ?本当にお前はあの女に似てバカだな。」

「また問題起こしたって?めんどくさいことすんなよカスが」

「高校はここに行け。白銀家として恥ずかしくない高校じゃないと許さん」

「いてもいなくても変わらない命なんだからよぉ」

「死ね」


所詮私なんてそんなもの。

────────

私は一気に話し終えて氷がほとんど溶けたオレンジジュースを飲んだ。


まずっ。めちゃくちゃ薄まっててやばい。


「、、、そうか。」


「あっ、こんなこと聞きたくなかったですよね。ごめんなさ、、、

「今まで辛かったよな」


「確かに辛かったですけど私はなんかもう、、、良いかなって。」


昨日ゆっくり考えて導き出した自分なりの答え。


「私は麗奈が遺してくれた手紙に『陽翠に救われた』って書いてあったときからずっと。1人でも多くの人の命を救いたい。身体だけじゃない。心まで救えるヒーローになりたい。」


「もう私はシンデレラじゃないんです。」


待っているだけのシンデレラじゃない。私は。救いに行くヒーローだ。


「そうか。良かった。白銀は私よりもしっかりしてるんだな」


柔く笑った顔。でも、瞳には常にどこか悲しみを湛えている。


「桜月さん、あなたもです。」


「っ!」


「なら、あなたが抱えていることも教えてください。」


「私のは、、、簡単に教えられないんだ。誰にも言えない。いってはいけないから。」


「私は白銀が思うよりずっとずるい人間なんだよ」


「いいです。これでいってくれたらフェアですから。プラスマイナスゼロ、平等です。」


小さく笑った。


「なら、良いかな。誰にも言うなよ。」


恋バナの最初みたいなことをいってから桜月さんは小さな声で言った。


「私は───────。」


「え、、、本当に?」


「本当だ。嘘なんてついてどうする。」


「全然気がつきませんでした。」


「まあ、長すぎて流石に慣れたからな。」


私は上司の特大の秘密を知ってしまったようだった。

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