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結びと恋のおまじない

屋上が気に入ってもう一度放課後に屋上に行った。


夕焼けが綺麗に見える。


春の夕日は夏とも秋とも、冬とも違っている。夕焼けは毎日毎日違う顔をしていて面白い。橙は大分押されていつかの花紺青に染まりかけていた。


「陽翠。」


声をかけられて振り向くと凛が立っていた。


「凛。どうしたの?」

「何もないよ。陽翠はなにか用事?」

「私も。特に何もない。」


凛も横に立って並んだ。私よりも幾分か高い背と身長の差によって不揃いなスカートと影。編み下ろしが風に吹かれて緩やかに揺れていて、私達の耳には吹奏楽部の物静かな演奏が流れてきた。


「ねえ、陽翠。おまじない、知ってる?」


おまじない。なんのおまじない?知らない。


「知らない。なにそれ。」


「、、、恋が叶うの。」


恋のおまじない。世の中にありふれすぎるほどありふれている代物。


「へえ。どんなの?」

「紙に相手の名前を正確に書いて、中庭のベンチに置くの。そうしたらその夜に階段を後ろ向きに上ったら、扉が現れる。その扉の向こうに天使がいて願いを叶えてくれるんだって。」


やけに詳しく知ってる。


「へえ。凛、誰か好きな人でもいるの?」


「、、、いたら?」


「応援するよ」


「もし、陽翠なら、どうする?」


「?」


「陽翠が好きな人がいて、その人と確実に結べるならおまじない、やる?」


私はまずまずそんなもの信じない。この世の中にはそんな都合のいい話はないし嬉しい不思議なんて百に一つもない。


もし、出帆と結ばれるなら。おまじないで確実に両思いになって、デートに行っていつまでもいつまでも一緒にいれる。そんなことが叶うなら。


私は、、、どうする?


「やらないかな。」


「えっ、、、?なんで?」


「私は確実なんてものに頼りたくない。不確かで些細な毎日だからこそ、隣で笑えるように努力するんだ。それが、楽しいんじゃない?」


空はどんどん花紺青に染まってその色すらも暗い紺碧に塗られていく。


「っ、、、」


凛は言葉に詰まっていた。


「凛はさ、そのおまじない、やったの?」


黙って頷いた。それで結局何も起きなくて結果にがっかりしたのかな。


「どう、、、だったの?」


彼女は答えない。黙ったままだ。これは四眷属に繋がることだ。絶対に。直感でわかる。このことは神楽さんに報告して出帆にも連絡を回しておこう。


「そう。でもね。」


凛の手を取った。少し上にある瞳を見上げた。驚いた表情で彼女は半泣きのような状態だった。


「そのくらい、その人のことが好きってことだよ。真っ直ぐに人のことを好きでいれるのは凄いことじゃないかな。」


「っ、、、」


凛は泣きながら手を握り返した。


「っ、、、でも、大丈夫。おまじないは失敗したから。真っ直ぐに好きでいられる」


凛の涙はきらきらと銀色の筋を描いて頬を滑っていった。迷える少女の恋を救うことができたのか。


「ねえ、陽翠。私のこと、どう思ってる?」


そんなん決まってんじゃん。一つしかないよ、答えなんて。


「最っ高の、友達!!!!!」


夜空に颯爽と光る一等星、その下で私達は天を仰いで笑った。

********

「それが、楽しいんじゃない?」


真っ直ぐなあなたらしい言葉。確かに楽しいのかもね。でも、楽しいだけじゃないんだ。


狂うような恋。

燃えるような恋。


真っ赤に燃えて、赤い糸さえも焼いて。


狂うような恋は楽しいんじゃない。あなたが他の人と喋らないで欲しい。私だけを見てて欲しい。他の所なんて見ないで。


でも、見ないで欲しい。


こんな醜い私を。1人になりたくないくせに自分の領域の中に他の人を入れたくない。


孤独感と不快感が戦いあって混じって壊れて消えた。どちらをとるのも不愉快で、かといって選択しないのは逃げで。


おまじないは失敗した。私がおまじないを行ったのは存在を知ったとき。大して考えず、すぐに行ってしまった。


「白銀翡翠」


私は決定的な間違いをしたんだ。思い人の名前を書けなかった。翡翠、じゃなく陽翠、だった。音声だけではわからなかった。


その結果私は天使に触れた。


「正しい言葉じゃないと繋げないの。正しく繋ぐことはできないけれど正しくなく繋ぐことならできるわ。その代わり、あなたにやってもらうことはあるけれど。だけど、絶対に誰にも言ってはいけないの。言ってしまったら、、、」


天使は美しい女性だった。着物を着ていてかぐや姫みたいだと思った。その後の記憶なんてなくて気づいたら私は部屋に戻っていた。


正しくなく繋ぐ、とはどういうことか。わからなかった。とりあえず願いは聞き入れられたようで安心した。これで。これで。


「ねえ、陽翠。私のこと、どう思ってる?」


絞り出すように言った。まだおまじないの効力はでていないだろう。なんとなくわかるんだ。でも、聞きたかった。




「最っ高の、友達!!!!!」




ああ。どこまでも残酷な答えだな。友達、かあ。友達以上になりたい。友達なんかで終われない。


私はそんなに良い子じゃない。もっともっと。


思い通りにならない世界なんていらない。


思い通りにならない世界なんかありえない。


欲しいのは一つ。


ハッピーエンドに向かうべきだ。恋はハッピーエンドで終わる物なんだ。そのためだったら何でもできる。何でもする。何でもやる。


運命の赤い糸、それを血で染めたんだ。友情の白い糸でも赤くなればいい。この身全てを捧げてもいいから。


もう二度と間違わないように。


真っ赤に塗り尽くせ。


恋を燃やせ。


恋に焦がれろ。


この手で光を掴み取れ。





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