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恋鎖

「ねえ、陽翠!」


寮内の図書館で声をかけられ、振り返ると凛がいた。


「凛も図書館来たの?」

「そう。あたし頭悪いからさぁ。勉強しなきゃなんだよね。」


凛は私が抱えている本をちらりと見た。


「陽翠、そういうの読むんだ。恋愛小説?」


私が手に持っていたのは数冊の恋愛小説。たくさん本があってせっかくだから借りようと思ったんだ。


『これ絶対読んで!面白いから!』


椿に激推しされて手に取った数冊の恋愛小説。どれも表紙からして可愛くて普通の高校生っぽくて好きだ。


「そう。面白そうだと思って。」


「へぇ、、、」


凛は鞄を下ろして隣に立ち、本棚を眺めた。


「ねぇ、陽翠はさ。好きな人っているの?」


「さあね。居たらどうするの?」


人に聞くことでもない。そう思うようになった。好きっていうのは心にしまうもの。ださないもの。


「、、、どうしようかな。」


凛は目を伏せた。長い睫毛が強調される。


「陽翠はさ、、、同性愛って、、、どう、思う?」


「どうって、、、」


こんなことを聞いてくるなら凛は、、、こんなデリケートな話には触れられないし触れたくない。凛が今悩んでいるなら、正しい答えを導き出したい。


「別に、良いと思うよ。人が人を好きになるのは普通だしその対象は人それぞれだと思ってる。」


「、、、ほんと?」


「ほんと。そんなことで見る目は変わらないよ。」


「そう。ありがとう。」


これが正解。正しい答え。凛の顔は晴れて笑顔が溢れていた。ゆる巻きの髪の毛はふわふわ揺れて回りに花が咲いたように明るくなった。


「勉強、教えてよ!陽翠!」


「いいよ。」


私と凛はデスクコーナーに向かった。


***********

やった。やった。やった。うれしい。うれしい。


東屋に現れた女の子。やっと会えた。長い黒髪を一つにくくっていて、大きな黒い目と小柄な身体。どこまでも完璧で美しくて、目を奪われた。


「初めまして。白銀陽翠です。凛。よろしくね。」


そう言った声は彗星を束にして作った花火のようで優しく美しく惹きつけられた。辺りに漂う柑橘と花の香りさえも少女を彩る羽衣のように思えた。


今まで否定されてきた。要領はよくなかった。努力に見合う分の結果なんて付いてこなかった。努力を実らす才能はない癖に努力し続ける才能はあった。


自分が女子が好きだと気づいたのは中等部の頃だった。とある女子に心を奪われた。少し離れたところに用事があったとき。繊細な仕草。長い黒髪を揺らした天使のように美しい女子。落としたハンカチをさっと拾ってくれた。


恋に落ちた、というのは初めての経験だった。雷に打たれたような、甘い甘い糸が身体を巻き付けるような。


「あっ、あの、名前!!」


思わずそう聞いた。ゆっくりと振り返り、彗星の声で


「ひすい」


とだけ呟いた。その瞬間私の初恋は走り出したんだ。走り出した、といってもまた会えないかとその辺をうろちょろするだけ。寮を何度も抜け出してその近辺に行った。


揺れる黒髪を探して。大きな黒曜石の瞳を探して。彗星の声を探して。私の光を探して。


何もないまま二年が過ぎた。あの女の子はそれ以降見かけることはなくてつまらなかった。特に思い入れもなく、皆と同じように年をとる、それだけ。


寮を抜け出したことがばれた。親を呼ばれて問い詰められたとき、お父様とお母様に正直に話した。ひすいという女の子のこと。その子が好きなんだって。


「そんなものは異常だ!!二度と言うな!!」

「私が育て方をっ、、、間違えたからっ、!」


それ以降私は外にあの女子を探しに行くことがなくなった。できなくなった。監視はどんどん厳しくなって、


春になった。

転入生が来た。流凪出帆、という男子だった。私は同性愛者だと知られたくなかった。異常だと言われたその日から事実を隠して生きていた。イケメン好きのミーハーを演じていた。興味のない転入生に代わり映えしない毎日。






「楓組にも転入生来たんだって!!女子!めっちゃ美人らしいよ!えーと、白銀、、、陽翠?って子だって!」





頭の中を電流が走り抜けた。ひすい、なんてそうある名前じゃない。


絶対に会いたい。椿にお昼一緒に食べよう、転入生ちゃんも誘って!って言って次の日皆でお昼を食べることに決まった時は本当に嬉しかった。


いつもより丁寧にナチュラルメイクをして失敗しないように髪を巻いた。ほんのりと香るムスクの香水を首元に忍ばせて鏡の前で笑顔を作って。


そして、中庭で私と貴方は再会したんだ。


「初めまして。白銀陽翠です。よろしくね。」


あなたにとっては初めまして、だったけれど私にとっては二回目。思い続けてきた相手と再会できたんだ。初めて見たときと変わったところは高い位置に結ったポニーテールと上品なリボン。あの時よりも柔らかく、優しい笑みを湛えたあなたはもう一回私を恋に落としたんだ。


貴女が欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。


この気持ちは海より深くて空より広い。


繋がった連鎖れんさ恋鎖れんさ。運命の赤い糸は私達を結んでたんだ。


諦めなくて良かった。


願い続けて良かった。


祈って良かった。


私達を繋いだ恋鎖はもう切れない。


誰かのものになんてならないで。


恋愛小説を持っていたとき、ぞっとした。実は好きな人がいるんじゃないかって。


いないって言ってくれて安心した。


あい。相。愛。哀。


愛して哀した相対する感情。


「ここはこの公式に当てはめて考えたらね、、、」


絶対に、離れないでね。



 










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