雀宮涼はおいしいご飯が食べたい
もう酔いが覚めたのか?しゃきっとした雀宮さんの後ろの席で私は車に揺られていた。
「涼は料理以外の家事なら殆どできるんだがなぜか料理だけができないんだ。申し訳ないが流凪くんと白銀が住む用意を調えている間食生活を何とかしてやってくれ」
「食材は何でも使ってくれておっけーですから。陽翠ちゃんの料理、楽しみにしてます。」
母に料理は教えてもらっていたから最近はろくなもの作ってないとはいえ何とかなるだろう。
「あっ、やべっ」
桜月さんの声が聞こえると共に駐車場の柱に軽く車が擦った。
「あー桜月さんやっちゃいましたねー。これ桜月さんの車、、、じゃない!私のだ!」
「すまん。」
とりあえず車を止めて外に出ると小さい傷ができていた。
「ま、こんくらいならいいですかぁ」
「そうだな。」
いいんかい。
マンションは少し高級そうなところで、エレベーターにのって六階のボタンを押した。
「陽翠ちゃんは七階に住むことになりますよぉ。」
「そうでしたね。」
かちゃっとカードキーをかざしてドアを開けるととてもきれいな部屋が見えた。
「入って入って。おいでませ我が家へ!」
「お邪魔します。」
流れ作業でお風呂のボタンを押すと
「お風呂を沸かします」
という音声が流れた。
「お風呂って喋るんですか。」
「最近のは喋りますよぉ」
「蛇口で捻ってためないんですか。」
「おじいちゃんの家のやつはそれでした」
うちのアパートはジェネレーションギャップがあったらしい。たしかに昔住んでた家は喋ってた気がしてきた。
「ここの部屋が空いてるのでどうぞー。たまに桜月さんが泊まりに来てくれるときに使ってるんですよー」
と言って案内された部屋は机とベッド、小ぶりな本棚がおいてあった。
「こぢんまりしててすみませんねぇ。」
「いや立派ですよ。ベッドで寝るのは初めてです。」
「今までは布団派だったんですかぁ?」
「そうでしたね。」
床派だったのかもしれない。その理屈でいけば。床で寝てたし。
「パジャマはどうしよっかなー」
と言って雀宮さんはクローゼットをあさりだした。
「桜月さん背が高いですからねぇ。私のあさりに行きましょう。」
雀宮さんの部屋はドレッサーとタンス、大きめな本棚とベッドが置かれていた。
「これとかいいんじゃないですかぁ。最近寒いからカーディガンもどーぞ。」
と言って渡されたパジャマは柔らかい素材の綺麗な物だった。
「こんなの着ていいんですか?」
「いいですよぉ。もしかしてジャージ派でしたかぁ?」
夏用制服で寝てた。今着てるのは冬用。
「もうすぐお風呂が沸きます。」
またお風呂が喋った。
「こんなことも言うんですか。」
「この後お風呂が沸きましたって言いますよぉ」
よく喋るお風呂だ。
「明日は桜月さんと私とで服とか買いに行った後に訓練をするんですよぉ。だから今日の内はゆっくりしましょうねー」
そのあとにお風呂に入ってたくさん話をして、寝た。寝る前に、
「明日の朝ご飯、頼んだ!」
と目覚まし時計を渡された。頼まれた。
───────────
「ピピ、ピピ、ピピ」
目覚まし時計の音がお上品。パチッとボタンを押してとめる。
昨日開けてもらった歯ブラシで歯を磨いて、だしてもらった膝丈の落ち着いた青のワンピースを着て冷蔵庫を開ける。
食材は結構いっぱいはいっていて一瞬迷ったあと、とりあえず目玉焼きとサラダとコンソメスープを作ることにした。
野菜室を開けてジャガイモと人参、キャベツを適当に切ってサラダ油を引いた鍋に入れて炒める。水を計っていれてコンソメキューブを二個。
フライパンをだして油をひき、四枚切りのハムを並べてその上に卵を2つ。水を少し入れて蓋をして蒸し焼きにする。
トースターにパンをいれて焼き始めたらレタスをちぎって洗ってお皿に盛る。トマトとキュウリを食べやすい大きさに切ってレタスの上に盛り付けた。
パンと目玉焼きを取り出して皿の上にのせてスープ皿にスープを注ぐ。紅茶のティーバッグを二つのマグカップにいれてお湯を注いで三分間待ったら引き上げて食卓にご飯を運んでいく。
「雀宮さん。ご飯、できましたよ」
部屋に向かって呼びかけると
「だよねぇ!いいにおいしてた!」
ワンショルダーのTシャツと細身で膝下から広がるデザインのおしゃれなパンツ。どうやら私服のセンスがいいらしい。
「えっ!?すごい!これ作ったの!?スープって自分で作れる物だったんだ!」
「冷めちゃいますから食べましょう」
「きゃー美味しそう!ちょっと待って!写真撮りたい!」
パシャッと写真を撮ってわくわくした顔で座る。
「いただきまーす!!」
勢いよく目玉焼きをのせたパンにかぶりついてパチッと目を大きくして
「おいひい!!ふごいね!!」
と叫んだ。
私も一口かじったけど普通の味で
「普通じゃないですか?」
と聞くと
「こんな朝ご飯桜月さんしか作れないと思ってた!朝ご飯なんかいっつも生食パンだけだったし!」
ものすんごい食生活なんだろうなぁ。なんでそれでそんなに肌が綺麗なんだ。
「これは流凪くんとも余裕で住めちゃうね!良いお嫁さんになれるよー!!」
コンソメスープを飲んだ後ににこにこの笑顔で言い放った言葉にとてつもなく驚いた。
「おっ、、お嫁さん!?なんでそれを、、、」
「そんなんなんとなくわかるしー!!記憶をなくした少年と一途な少女の恋!!さいこーじゃんか!!」
聞いてみると恋愛経験が全くもって無く、憧れているらしい。
「うちなんか雛人形ずーっとだしたままだったからね。お嫁にいけないんだよー」
それは雛人形も荷が重いのではないだろうか。うちの雛人形、どこにあるんだろう。もう全然だしてないや。
食後に片付けを2人でしているとごく自然に桜月さんが
「そろそろか。行くぞー。」
と声をかけに来た。合鍵持ちなのか。こっちはだぼっとしたカーディガンとスキニーで抜け感があってかわいい。
「はーい!陽翠ちゃん、行こっか!!」
「わかりました。」
また車に乗り込む。今度の運転は雀宮さんだ。
「陽翠ちゃんはお洋服どんなのにしたいですかぁ?会社のお金ですしたくさん買っちゃいましょう!」
「流凪との話も粗方まとまったし家具も揃えていかなくてはな。白銀は料理がうまいようで驚いた。」
「雀宮さん料理をしないという割には食材たくさんありましたね。」
「それは私が揃えているものだからな。たまに飯作りに行くし。」
お姉ちゃんかよ。駐車場の発券機が駐車券を吐き出した。
「手が届きません。」
「ドアを開けてとったら良いと思うぞ。」
お姉ちゃんかよ。
「外の駐車場は緊張しますねぇ。あてちゃったらやばいでしょう。」
「どこでもやばいもんだと思います。」
なんとか無事に車を停めたようだ。服屋が並ぶエリアに来ると
「どんな服がいい。どれでも買ってやる。」
「桜月さんのお金じゃないですよぉ」
「別に、、、どれでも。選んでください。」
特に好みはない。捕まらない程度の服装であれば良い。ぐるんっと桜月さんが勢いよく振り向いて
「言ったな。どれでも良いんだな。」
「あーあ、陽翠ちゃん。やっちゃいましたねぇ。」
「えっ、だめでしたか?」
「大歓迎だ。移動するぞ。」
階をあがり、着たのはふんわりと広がったスカート、ロング丈のかわいいワンピース、ハイウエストのミニスカートなどのフレンチガーリーな服エリアだった。
「安心しろ。白銀はきっと似合うぞ。涼は着てくれなかったからな。」
「陽翠ちゃんにぴったりな服を選びますよぉ」
どうやら大きく選択を間違えたらしい。
「いやーかわいいですねぇ。大正解でしたよ。」
「とてもよく似合っている。私の部下だと叫びたいぐらいだ。」
「やめてください。」
現在私はフレンチガーリーで全身が構成されている。ハイウエストの白いスカート、黒くて袖口にフリルのついたブラウス、レースの靴下に底の厚いパンプスが合わされている。
「会社についたら制服になっちゃいますからねぇー。」
「何でも良いって言ったんだからな。」
満足そうな笑みを浮かべる桜月さん。あなたが着てくださいよ。
「さ、帰るか。荷物重いし。」
数十着ほどの服と日用品の詰まった袋を持った桜月さんが言った。
「レディに荷物を持たせる趣味はない。」
と言って全部持っているけどあなたもレディなんです。
「よいしょー」
と言って車に荷物をすべてぶちこんで
「運転席じゃんけん、じゃんけんぽいっ」
と言い、雀宮さんと運転席じゃんけんをしている。雀宮さんが負けたみたいだ。
「会社についたら制服を着てみてくれ。サイズはあるはずだ。好きにカスタムしても良いぞ。」
「露出が多すぎると鹿目さんにとめられますけどねぇ」
「技によって適した服装を選ぶのが普通だからな。」
「本願寺さんとか凄い服装してますけどねぇ」
「ほんがんじさんって誰ですか?」
「本願寺月乃。私の師でクインテットの1人だよ。」
「クインテット?」
音楽用語で五重奏の意味だったような気がする。
「涼から聞いていないのか」
「聞いていません」
「言い忘れてましたねぇ。」
「クインテットって言うのは浄化師の中でも強い選ばれた者、浄化師の要だ。
光を扱う榊光太郎、
水を扱う水滝原碧、
月を扱う本願寺月乃、
太陽を扱う日野心晴、
煙を扱う世良煙。
この5人がそれぞれの技の頂点で神器を扱える。」
「じんぎ?」
「己の身体から武器を作り出し、それに強い水晶の力がこめられているものだ。人によって神器の形は違う。どでかい鋏を使う人もいれば古めかしく刀を使う人、短剣を使う人もいる。本当に凄い人達だよ。」
「つきましたよ!降りてくださいね!陽翠ちゃんは訓練頑張って!」
「さんきゅ。車庫入れ気をつけろよ。」
「はーい!!」
「じゃあ白銀、行くぞ。お前の適性を確かめる。」
「あっやばっ!!」
派手に車を擦る音が聞こえてきた。
「あーあ、やっちゃったな。報告しーとこっ。ついでに昨日のも押しつけちゃえっ」
この人もお茶目になってしまった。
こぼれ話5
桜月さんがかわいい服が好きなのは昔そのような服を着れなかったからです。
こぼれ話6
桜月さんは五才の時に本願寺さんに命を救ってもらい、育てられて十八才歳で浄化師になりました。




