足りない
今私は寮の部屋でみんなで勉強をしている。
「へー!こここうやって解くんだ!ありがと!」
そう言って笑うのは天幢寺椿。医者と弁護士の一人娘というお嬢様のはずだがむしろ寿高校の生徒に近い。肩に三つ編みを垂らしたかわいい系。
「本当に頭がいいのね。あ、ここも教えて欲しいわ」
黒髪姫カットの伊集院葵子は親が会社を経営しているらしい。優雅な雰囲気でお姫様みたい。
「よーし、おっけ!陽翠、恋バナしよ!」
最後の都萌まどかはおちゃらけた印象の雀宮さん属性。低い位置でツインテールにしていて妹系。
個性豊かすぎる。人多い。名前覚えれない。
「青藍学園って大きいでしょう。私も中等部の時よく迷子になってたわ。陽翠は大丈夫?」
「今のところは大丈夫かな!」
「ねーねー、陽翠!噂知ってる?」
「噂?」
「柊組の転入生!流凪、、、出帆くん?だったかな?かっこいいんだって!」
出帆。出帆どうしてるんだろう。後でラインしよう。
「まどかはまたイケメンの話ー?」
「顔ばかり見ててもあまりいいことないわよ」
椿と葵子が口を揃えて言った。
「だってー、気になるんだもーん。陽翠かわいいしどんどん人気でてくるだろうな!もうすでに人気!?」
まどかは悪びれる様子もなく言う。ツインテールがぱたぱた揺れて波打つ。
「椿と葵子と陽翠は好きな人いないのー?」
「何回も言っているでしょう。いないわよ」
「「ほ、ん、と、に、ー?」」
葵子が椿とまどかに捕まった。
「いっ、、、いないわよっ!?」
「陽翠ー!葵子ってね、うちの組の和水さんのこと、、、
「べっ、、、別に薫のことが好きなんじゃないわよ!!たまたま家が近くて幼なじみで同じ学校に行っただけ!!」
「ふーん、「薫」って下の名前呼びなんだー!」
「はっ!?」
和水薫、、、和水、、、わかんね。
「その和水さんってどんな人なの?聞いてみたいなぁ」
「いいよー!和水さんはね、、、」
「やめてー!!!」
葵子の悲痛な叫びと椿とまどかのからかいは夕食まで続いた。
───────────
ご飯も食べ終え、お風呂にも入り、ゆったりと過ごしていたとき。お風呂はそれぞれの個室に一つずつあった。
『どうだった?』
『当たり障り無く。陽翠は?』
『こっちもだよ。それらしい情報は?』
『今のところはないよ。生徒と先生、両方に気を配ったけど特に。』
『そっか。ルームメイトはどんな人?』
『うるさくておちゃらけてる宇佐美って人と静かで勉強のできる水戸って人。仲介人みたいな楓真って人も。』
『そう。こっちは個性派の女の子たちだね。噂とかは入ってきそう。』
『こっちも宇佐美が噂沢山知ってたよ。陽翠のことも。』
『へえ。どんなこと?』
『楓組の転入生。美人で勉強ができるって。』
やめてよ。照れる。生徒間の噂で不思議なことを聞いていけば四眷属への手がかりになるかもしれない。
『陽翠は何もないよね?』
『?』
『なんか好きな人ー、とかさ。』
急にどうした。反応に困る。いると言いたいところだけど本人の前で言いたくない。いないと言ったらどうなるんだ。どっちが正解だ。
『わかんない。』
『そう。そろそろ消灯だよ。宇佐美たちが枕投げしてるから参加する。おやすみ。』
『うん。おやすみ。体調気をつけてね。』
『うん。』
「だーれと会話してるのかなっ!?」
「わあっ!まどかか、びっくりしたぁ、、、」
「陽翠ニヤニヤしすぎ!誰とラインしてるの!?」
「なんでもないよ。友達。」
「ほんとにー?」
「まどか、陽翠。そろそろ消灯だよ。部屋に戻ろう。」
「わかったー!陽翠、おやすみ!」
「うん、おやすみ。」
パタンと部屋のドアを閉めてベッドに座る。勉強机と本棚、クローゼットなど充実した部屋。トイレやお風呂、洗濯機もついていて四人共用スペースにはキッチンと冷蔵庫もある。
(充実してる、、、けど、、、)
何か足りない。何か足りない。何が足りない。
(出帆と家に帰りたいなぁ、、、)
これがホームシックか。特に思い入れもないつもりだったけど半年住んでいると感情を持つんだな。棚に飾られたくまの縫いぐるみに写真立て。朝起きたら一番に出帆におはようって言って世界中の全員を差し置いておやすみって言う。
手のひら大の鉄の塊じゃ足りない。伝わらない。あなたの温度を感じたい。無機質な液晶に表示された文字じゃなくて声が聞きたい。
『陽翠、おきてる?』
『おきてるよ。』
『なんか寝れない。』
『私もだよ。』
スマホが振動した。電話がかかってきた。
「もしもし。どうしたの?」
できる限りの小声で応答する。
「話したかったから。個室だし大丈夫でしょ。」
「ちゃんと寝なよ」
「うん。ちゃんと寝るためにかけてるから。」
「春っていっても夜は寒いね。」
「陽翠、布団かけてる?」
「、、、」
「今かけたでしょ。風邪ひくよ。」
「、、、うん。」
「もしかして眠い?」
「ねむいよ、そりゃ。」
眠気で意識が朦朧としてきた。出帆の低くて温かい声が落ち着く。
「眠いといつもそんな感じなの?」
「そんなかんじ、って?」
「なんていうか、、、ふわふわしてる。」
「なにそれ。」
「おやすみ、陽翠。」
「おやすみ、出帆」
私はこてん、と眠りについた。
*******
ツー、ツー、と切れた電話は無機質な機械音を鳴らしている。
(かわいい)
いつもしっかりした陽翠のあんなにふわふわした感じは初めてだった。なんていうか呂律が回ってないっていうか、声が低いっていうか、、、
寝るために電話をかけたのに頭が逆に冴えてしまった。隣の部屋と向かいの部屋二つではルームメイトが寝ているのだろう。
「出帆、聞いたか!?隣の楓組に美人で頭いい転入生入ってきたらしいぜ!」
「僕も聞いたよ。白銀陽翠さんっていう子。珍しい名前だよね。」
「俺も聞いた。」
陽翠は確かに可愛くて、美人で、頭もいい。料理もうまいし運動能力も高い。皆あっという間に好きになってしまうだろう。
「出帆好きな奴とかいんのか!?」
宇佐美のおちゃらけた質問が頭をよぎる。
(、、、いる。)
なんでラインであんなこと聞いたんだろう。「わかんない」という返信。
(困らせちゃったかな)
悶々としたまま僕は寝ようと努力した。
こぼれ話
まどかだけ家柄の話がでていませんが彼女は財閥の令嬢です。小さい頃に自由にできなかったため中高で寮に入り、自由気ままに生活しています。
こぼれ話
葵子のコンプレックスは過保護な親。毎日電話をかけてきたり週1で荷物が送られてくるのを本人は嫌がっているけれど最近は愛として受け入れています。




