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花紺青の夢の中

「うん、いいじゃあねぇか。悪くない。」


私が今着ているのは青藍学園の制服だ。懐かしいな、この感じ。私が通っていた高校は珍しくセーラー服だったけれど青藍学園はかなりデザインがいい。

深い青色のジャンパースカートと白いシャツ。赤色のリボンがついていてとても人気な制服らしい。


「流凪も似合ってるじゃねえか。」


出帆はスカートと同じ色のズボンにシャツ、赤いネクタイとズボンと同じ色のブレザー。出帆の制服姿は見たことがないのでとても新鮮に思えた。


「白銀は二年楓組、流凪は二年柊組になる。流凪は記憶のこともあるから基本別室で寮で様子を探ってくれ。白銀はクラスメイトとルームメイト、あわよくば上級生などからも情報を集めてもらえると大変助かる。」


「目星はついているんですか?」

「それがなぁ、、、」

「この学校は変な先生がとにかく多いんだよ。喧嘩を二階の窓から飛び降りてとめに行く教師だろ、生徒の恋愛をがちサポートする先生だろ、体育祭で原付に乗って走った先生だろ、、、」

「お嬢様学校ですよね?」

「お嬢様学校なんだよ。」


癖の強い教師が多すぎて魔物特有の異変を察知できないらしい。なんつー学校だ。


「僕たち同士の連絡はどうしたらいいの。」

「それはスマホやスマートウォッチでとりあう。そしてお前らにこれを渡しておく。」


そう言って神楽さんは指輪を取り出した。


「小型のマイクとGPSが仕掛けてある。絶対に離すな。何があってもな。紐でも通して首にかけとけ。」


「了解です。」


「それと、だ。」


「あそこまで桜月に念押しされたんだ、お前らは必ず返さなければならない。絶対に死ぬな。命を懸けるな。やばいと思ったら迷わず逃げろ。そして応援を呼べ。わかったな。」


「「はい」」


「よろしい。今日の所はもう帰っていいぞ。来週から潜入を開始する。」


そして私達は家に帰っていった。


***********

なんだったのあの人。


陽翠との任務中に急に来て急に長期任務を決めてしまった。全寮制、とか言ってたししばらくの間陽翠といつもの家に居られないってことだ。そう考えるとむっと不機嫌になった。


「長期任務かぁ、、、初めてだね、こういうの。」

「そうだね。」

「強い魔物がいるんだって。生きて帰れるかな。」


生きて帰るか?だって?そんなの決まって、、、はない。どれだけ帰りたくても帰れない、なんてこともざらにあるらしい。実際目の前で何人か人が死んだ。最初はぎょっとしたけど慣れてしまった。


まあ、いつか死ぬしね。そんなことを考えて当たり前のように頭の隅に放っておいた。でも陽翠には死んで欲しくない。


「夕焼け、きれい。」


陽翠がつぶやいた。会社とマンションまでの短い距離の間で見る夕焼けはいつも綺麗だった。夕焼けはゆっくりと紫がかった深い青に変わっていく。その様子を見るのが陽翠は好きなようだった。


花紺青はなこんじょう。」


「え?」


「あの、紫がかった青、花紺青っていうらしいよ。どっかで知ったの。」


ふーん。あの色は花紺青っていうのか。夕日に照らされた陽翠の顔は一層美しく輝いて見えた。


「私、夕焼け好きなんだ。」

「僕も。」


特に景色に思い入れはないタイプだけれど陽翠が好きなら何でも好きだ。


それに、この色と夕焼けはなんだか懐かしくなる色だった。記憶なんてないのに。




───────その晩僕は夢を見た。 



小さな2人の子供がいる。1人は高い位置に髪の毛をまとめた女の子でもう1人は背中に流した男の子だった。蝉の声が聞こえた。


2人は並んでベンチに座った。女の子は泣きそうな顔で俯いて男の子と喋っている。


2人の顔までは見ることができない。なんだか視界が掠れていて夢なんだな、と認識した。


橙の夕焼けは紫味がかった青に変わっていく。男の子が何かを言い、笑っているように見える。女の子は泣き笑いのような表情で四つ葉のクローバーを握っている。


どこ、ここ。誰なの、あの子。その女の子のことが気になったが本当にわからない。わからないのに知りたくなった。夢なんだから、どうせたいしたことじゃないし。そう思うけどわかりたくなった。


君は、誰。誰。誰。


ねえ、君は、、、


わけのわからない黒い塊が近づこうとした僕を掴んだ。やだ、離して。場面が切り替わる。


僕に似た男の人が叫んでいる。何言ってるの、聞こえないよ。何か大きな物体がこちらに伸びてきた。


怖い、怖い。何これ。


ふと頭の中に浮かぶさっきの女の子。笑っているような仕草を僕は正面から見ている。ぼやけた視界が顔を見ることを防ぐ。うざったらしくて嫌になる。女の子に向かって手を伸ばした。


そこで夢は途切れた────────。


「っ、、、はぁっ、、、何この夢、、、」


時計は朝の三時を指していた。冷や汗で髪が首筋に貼り付いていて気持ち悪かった。


「ねえ、出帆、大丈夫?なんかうなされてたけど、、、」


少しだけドアを開けて陽翠が覗き込んでいた。


「大丈夫。たぶん、、、。水飲もうかな。」


陽翠が一緒にリビングまで行ってくれた。陽翠も水を汲んで飲む。


「起こしちゃった、、、?ごめん」

「ううん、私も起きちゃったの。」


髪の毛は後ろに下ろしていていつもと印象が違う。いや、最初はこんなんだったかも。最近、結んでるなぁ。あれ、なんで結んでるんだったっけ。あの女の子、、、


「どうしたの、、、?」


「なんでもないよ。ちょっと、、、うっ!!」





僕はコップを落とした。急に今までにない頭痛が襲いかかってきて立っていられなくて床に倒れ込んだ。





「出帆!?出帆!!」

「っ、、、ぐっ、、、うっ、、、」



痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。



なにこれ。身体に力が入らない。視界が暗く、狭くぼやけていて陽翠の顔もよく見えない。思わず手で押さえても頭が割れそうな痛みが続く。うまく息が吸えない。息を吸おうとすれば吸おうとするほど呼吸が苦しくなっていく。


「落ち着いて!ゆっくり息吐いて!!」


陽翠が僕の口元を覆って叫んだ。ゆっくりと呼吸を繰り返すと頭の痛みは少しだけひいた気がした。


「ガハッ、、、はあっ、、、はあっ、、、っ、、、」


それでもまだ痛くて頭を抑えたまま立ち上がれなかった。陽翠の小さな手を関節が白くなるほど握って痛みに耐えた。

陽翠は僕の肩を抱いてくれていた。ゆっくりと背中をさする。小さな手が背中を行き来する感覚で少し落ち着いた。


次第にズキズキとした痛みが和らいできた。左側だけを抑えるような鈍痛に変わってきてぼやけていた視界も開けてきた。


「っ、、、はあっ、、、」


まだ立てそうになくてふらふらする身体を陽翠に預けた。

陽翠がどこかに電話を掛けていて、しばらくすると桜月さんと水滝原さんが来た。


「流凪!」

「流凪、病院に行くぞ。立てるか。」


水滝原さんに抱えられるようにして車に乗せられ、病院に向かった。


その頃には僕は夢のことなんて覚えていなかった。





「脳に異常はありません。なにか頭痛が起こるきっかけなどはわかりますか?」


「、、、わかりません。」


未だに頭の左側は痛んでいて辛かった。

薬を貰って様子を見るということで一旦家に帰された。


「明日の仕事は来なくていい。休め。白銀、お前もだ。」


「わかりました。」


家に帰ると時間は午前5時だった。日が昇りかけているのに静かでここだけ別の世界みたい。


「なんかあったらすぐに言ってね。」


そう言って戻ろうとした陽翠の袖を反射的に掴んでしまった。やだ、はなれないで。そばにいて。やだ、やだ。


「どうしたの?」


「一緒に、、、いて。はなれないで。」


陽翠は驚いたような顔をしたけれどベッドの端に座った。


「しょうがないなぁ。」


「、、、いっしょにねないの?」


さらっと自分が口走ったことに自分で驚いた。まてまてまてまて。待て。陽翠は顔を赤くしてぽかーんとしていた。


「、、、いいけど」


そう言って陽翠は僕のベットに入った。陽翠の体温は僕よりも低くて火照った身体が冷えて気持ちが良かった。


小さいなぁ。


僕よりも15㎝くらい低くて小柄な身体。この身体で戦って沢山の人を守っているんだ。


陽翠の手を握ると頭痛が和らいできて急に眠気が襲ってきた。


「、、、おやすみ」

「おやすみ」


僕たちは手を繋いだまま眠った。











こぼれ話

出帆に似た男の人、というのは出帆の兄の出雲です。

こぼれ話

陽翠が夕焼けが好きなのは昔出帆の告白を受けたときが夕方だったからです。

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