繋ぐ
ピーンポーン
「にいちゃん、誰か来たよ」
蓮がそう言った。誰だよこんな時に、、、ガチャリとドアを開けるとそこには目も眩むほど美しい女の人が立っていた。真っ黒な髪の毛は背中に流し、大きなつり目は哀しそうな光を湛えている。右目の下の泣き黒子。この人どこかで、、、
「天音麗奈さんのバディをしていました、白銀陽翠と申します」
ああ、この人か。姉ちゃんがよく言っていた、、、
「何の用ですか。」
「渡さなければならない物があるんです。」
俺はその人を家に上げた。
「で、何の用なんですか。」
「これを、渡しに来ました。」
そう言って女の人は重厚な質感のケースに入った物と小さな封筒に入った物を取り出した。
「何なんですか、これ、、、」
「これは生前麗奈が、、、天音さんが使っていた銃です。」
開けられたケースの中には白い銃が入っていた。パールが握りについていてまるでオモチャみたいな。こんなんで本当に姉ちゃんは戦っていたのか、、、
「これは?」
「これは麗、、、天音さんのリボンです。」
「麗奈でいいですよ。姉ちゃんも喜ぶと思うので」
開けた封筒の中にはえんじ色のリボンが入っていた。
「行ってらっしゃい!」
「お弁当持った?」
「どうしたの!?」
「あはは!!」
「ありがと。」
「好きな子できたの!?」
「この子陽翠って言うんだ!」
「みて、お揃いで取ったの!」
「彼女!?みこちゃん!?会ってみたい!」
「行ってくるね!」
行ってくるね、と言った姉ちゃんの首元にはこのリボンがついていた。いつも明るくて優しい姉ちゃんの声が頭を巡った。
「この度は麗奈を助けられず誠に申し訳ございませんでした、、、これで失礼します。」
「待ってください!!」
慌てて袖を掴むとその人はひどく驚いた表情をしていた。
「姉ちゃんがどんな人だったのか、、、どんな最期だったのか、教えていただけませんか?」
女の人は、いや、陽翠さんは話しだした。
───────────
「そうなんですか。姉ちゃんは最期まで立派だったんですね。」
陽翠さんは日常のことや遊びに行ったこと、そして姉ちゃんの最期を語ってくれた。隣で蓮は泣いていた。俺も泣きそうになった。
「麗奈のことを守れなくてっ、、、ごめんなさい」
陽翠さんはずっと悲しそうだった。話を聞くに相当仲が良かったようだし、姉ちゃんもよく話していた。そうか。姉ちゃんは立派だったのか。母さんの敵をとって、最期まで戦ったんだ。
「その魔物はもう死んだんですよね?、」
「はい。麗奈が祓いました。」
ふつふつと湧いてきた怒り。陽翠さんにじゃない。何もできなかった自分にも、こんな世界にも。
「俺はどこに怒りをぶつけたらいいんですか!?姉ちゃんは死んで!!そいつも死んで!!もうどっちもいなくて!俺は!どこに!」
話し始めると止まらなかった。せき止めていた感情が濁流のようにあふれ出してきて。気づけば俺も泣いていた。
「玲、、、」
蓮が小さく名前を呼ぶ。その声で全部の覚悟が決まった。俺は無力な自分が嫌いだ。
「、、、浄化師には、どうやったら、なれるんですか?」
「!」
浄化師になりたい。いや、なろう。姉ちゃんが言っていた大凶明媚とかいうやつをぶっ殺せばこの世から魔物はいなくなるんだろ?姉ちゃんが叶えたかったことを俺も叶えたいよ。
「姉ちゃんの分まで俺が戦います。姉ちゃんの覚悟も、苦しみも、俺が全部背負って戦いたいんです。」
「ぼっ、僕もなりたいです!姉ちゃんが死んで、、、確かに怖いけど、それでも!魔物が全ていなくなったらもう魔物に苦しまされる人はいなくなるんですよね!?」
いつも気弱な蓮もそう叫んでいた。陽翠さんは俺達の言葉に涙を滲ませていた。
「浄化師になります。中学卒業したら絶対に。姉ちゃんの遺志を継いで、俺達が繋いでいきます。」
「っ、、、あっ、ありがとうっございます、、、」
「そうだ、帰る前に姉ちゃんの部屋見てってくださいよ。」
そう言って俺は陽翠さんを姉ちゃんの部屋に案内した。
片付いても、散らかってもいないそのままの部屋。何気に俺もまじまじと見るのは初めてだ。
棚には黄色い熊のぬいぐるみが置いてあって机の横にはプリクラが貼られてあった。
箪笥の上にはブラシとヘアゴムが置きっぱなしでこれまた置きっぱなしのカバンにはうさぎのキーホルダーがつけられていて。
机の上の開かれたままの日記帳には何でもない日々が綴ってある。
「これ、持って帰ってくださいよ。」
姉ちゃんの日記帳をぱたんと閉じて陽翠さんに渡した。
「そんなっ、、、これ、大切なやつじゃ、、、」
「陽翠さんが持っていてください。」
そう言って日記帳を押しつけた。ぎゅっと胸に日記帳を抱えて
「ありがとうございます、、、」
と言っていた。
家の外まで送り、ドアをぱたんと閉める。
『あはは!陽翠、いい子だったでしょ!浄化師、大変なこともあったけど、楽しい仕事だったよ!気をつけてね!大好きだよ!』
「はっ、、、!?」
「今、姉ちゃんの、、、」
蓮にも聞こえたみたいだ。涙が次々溢れ出てきて服の袖にシミを作った。
「俺も、、、大好きだったよ。」
反抗もしまくって心配とか迷惑ばっかりかけてきてた。もっとちゃんと言うこと聞くべきだったって。ありがとうって言うべきだったって。そう思っていたけど、姉ちゃんは変わっていなかった。ただ俺達の幸せを願ってくれてたんだ。大丈夫。俺達が、繋ぐよ。
「蓮、、、頑張ろうな。」
「そうだね、玲。」
家の中なのに吹き抜けた風は頬を撫でた。
何となく姉ちゃんを感じた。




