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愛惜と涙

世界が急速に色を失って見えた。冷たくなった麗奈と全身を打ち付ける雨は太陽を使う麗奈が消えてしまったとでも言いたいのか。


「──────」


くらりと世界が回った。酩酊したような感覚。全身の痛みが今更襲ってきた。出帆の腕の中、私は意識を失った。


─────────────

目が覚めると病院だった。お医者さんたちがたくさん来て検査をされていく中ぼんやりと空を眺めた。私の心臓はいつもより弱いけど動いていて。無性に麗奈に会いたくなった。会って話がしたい。お日様みたいな声を聞きたい。


「すまない。全て私の責任だ。私が采配をしくじった。」


桜月さんが深々と頭を下げた。なんのことだろうか。確かに今回の魔物は強かったけど無事に祓えたからいいじゃないか。なんで泣いているんだろう。


「麗奈と出帆は無事ですか?会いに行かないと。今度2人でプリン食べに行くんですよ。」


「────ッ!!」


「何をしくじったんですか?誰も死ななかったからいいじゃないですか。」


その瞬間頬を張られた。ばちいっという音と共に衝撃が伝わり、身体が痛む。


「目を覚ませ白銀!もう、お前は!失ったんだ!天音を!もう天音はいない!お前の腕の中で、笑って、一生を終えたんだ!」


はぁ?麗奈は死んでない。麗奈がどこにもいないなんてことはない。あれ、あれ、、、

充満する血の臭い。忘れないで、という言葉。美しい茶色の髪の毛が血に染まって、、、

なんで、、、

どうにも解けない現実となんでこんなに悲しいのか、三週間しか一緒にいなかったのに、、、という問いが頭を回る。気づけば私は叫んでいた。


「馬鹿なこといわないでよ!麗奈は死んでない!一緒に遊びに行こうって、ご飯を食べに行こうって約束したんだよ!麗奈が、麗奈が、、、」


気がつくと私は自分の左腕に爪で傷をつけていた。白くて柔らかい皮膚に爪が食い込み、血が滲む。麗奈を救えなかった自分への罰だと思った。桜月さんがばっと手を掴む。


「やめろ白銀!まだわからないのか!天音はいない!お前が自分に傷をつけたって戻ってこないしあいつも悲しむだけだ!遺された者は天音のことを悼むことしかできないんだよ!!頼むから、頼むから、、、」


親友だったお前は、あいつのことを悼んでやってくれよ、、、


と。いたむ、いたむ、痛む、傷む、悼む。


怒鳴った桜月さんはこれ以上ないほどに泣いていて。彼女自身も部下が死んで憔悴しきっているんだろうとわかった。わかってしまった。そしてどこまでも浅慮な自分を恥じた。


「これは天音がお前にあてた手紙だ。私はもう行く。」


くるりと踵を返して帰っていった桜月さんの背中はただ寂しそうだった。

暫く呆然としたあとに手紙を開いた。


───────

陽翠へ。

陽翠がこの手紙を読んでいるときはもう私はこの世にはいないのかな。私は最期までちゃんとやれてた?立派に戦えてた?正直死ぬのは怖くってこれを書いている間も陽翠は悲しむだろうなって思って書いています。

私ね、陽翠に救われたんだよ。覚えてるかな、バス停で陽翠が言ったこと。確かに普通じゃない人生だったから陽翠にも出会えたし浄化師になって感謝される喜びをしれたのかもね。

私はお母さんが死んじゃったあとに弟達に心配かけないように頑張って頑張ってね。もう疲れたって思ってても魔物は祓わないといけなくて。でも、辛くても陽翠がいたから救われたの。

今までバディになった人は両方いなくなっちゃったの。二人目は辞職だったけどね。最初の人は悲しくて泣いて泣いて、泣きまくってたんだ。その人は死ぬ間際に「私は麗奈より先に死ねて良かった。麗奈が私を思って泣いてくれるから。だから麗奈は生きてね。」って言っていてね。それを私は支えにして生きてきたの。

だから陽翠は諦めないで欲しい。

死にたいなんて何があっても言わないで。

諦めないで最後まで生きて。

流凪くんにしあわせにしてもらって。

仲間達と笑い合って。

私がこの世からいなくなっても傍にいるから。離れてても、消えないから。親友になってくれてありがとう。ずーっとずっと大好きだよ。私のちいちゃなかわいい親友さん。

天音麗奈

────────────

「っ、、、」


涙で手紙が濡れないようにできるだけ遠ざけて膝の間に顔を埋めた。天音麗奈は強く生きて、強く生きたんだ。その一生は私が覚えていよう。死の間際でも私の幸せを願って、忘れないで欲しいと言った美しい少女のことを。


「陽翠、、、」


出帆の声がした。


「ごめん、あの子のこと僕守れなかった。大切な人だったんだよね?」


出帆の声は何も聞こえないような感覚の頭に水のように流れ込んできた。涙でぐしゃぐしゃになった顔を見られたくなくて俯いた。さっきの問いは出帆の声で全部溶けたように感じた。


「ねえ出帆、、、抱きしめてよ、、、」


出帆は頬にガーゼが貼られていて、首元や腕にも包帯が巻かれていた。痛々しすぎる姿なのにどこまでも強くて自分だけが弱く思えた。でもね、


さっぱり前を向くなんてできないからせめて貴方の腕の中で泣きたい。泣かせて。出帆は微笑んだ。


「いくらでも。」


そう答えた出帆はどこまでも温かかった。その温度すら麗奈の事を思い出して泣きそうになった。


「無理に笑わなくていいよ。無理に頑張らなくていいよ。僕が覚えてられない分、辛いこともあったんだろうね。ごめんね、覚えてられなくて、、、」


やさしい腕はゆっくりと頭を撫でてくれた。


『陽翠ちーちゃいっ!!』


そう言った麗奈も頭を撫でてくれたっけ。


「出帆はどこにも、、、行かないでね。」

「行かないよ。僕は君の隣で歩いてるから。未来のことは、、、わからないけど。少なくとも今は傍にいれる。」


安心感が体を包む。まばゆいほどの光を湛えたあなたの隣で私はここまでしてもらっても孤独を叫びそうになる。このまま明日が来なかったら良いのに。今が続け。切実に願った。


「陽翠は、優しいね。大丈夫。今は泣いてもいいんだよ。君のことは僕が守るから。」


「っ、、、すっ、、、ぐすっ、、、」


私の泣き声がすすり泣きに変わるまで出帆は抱きしめてくれた。「流凪くんにしあわせにしてもらって。」という麗奈の手紙の文字が頭に浮かんだ。


(もう、しあわせにしてもらってるよ、麗奈。)


父親に虐待され、死ねと言われ続けていたから私は自分の生きる意味を見つけられていない。この光り輝く世界で私は何ができるのか。見つけられなくてもいいや、と思ったりそんなんだめだ、と思ったりしていた。


でも、私は麗奈の希望になれたんだ。それが一瞬でも、私は確かに麗奈を救えた。そして出帆がいる。これが私の生きる意味だ。もっと多くの人を救いたい。命も、心も。


泣けない、と思っていた。泣けなかったんけじゃないんだ。泣いていたのを全部全部隠して、頬を伝う前に押し込んでたから延寿浜さんの時は身体が必要ないと判断してしまったんだ。


ごめんなさい。でも、私は成長できました。本当に、ありがとう。


星の降るような夜、私と出帆は抱きしめ合った。


*********

「ぐすっ、、、ぐすっ、、、」


桜月綾星は書斎で一人泣いていた。天音は入ってきた当時から見ていた後輩だった。いつしか浄化2課の部下になってその弾丸は希望の光になっていた。もう浄化師になって5年が経ち、部下が死んでもバディが死んでも先輩が死んでも「死んだんだ」としか思えなかったくせに天音の死には涙がこみ上げてきた。


「桜月、、、」


水滝原さんがゆっくりと書斎に入ってきた。口下手なくせに励ましにきたのかよ。このやろう。


「帰ってください。こんな汚い姿、見たくないでしょう。」


化粧は落ちて背中の大きな傷は包帯で巻かれていて。灰色のスウェットには涙の跡がくっきりと刻まれていた。


「桜月、俺は今から寝る。だからお前がこれから何を話そうと、何を吐露しようと俺は聞いていない。」 


はっと乾いた笑いが出た。そういえばこんな人だったな。ここ、私の書斎なんですけど。


「部下が、死んだんです。太陽を使っていて、銃で戦うやつで。弟がいるんですって。優しいやつだったんです。白銀のバディになって三週間しかたってなかったのに、凄く仲良くなっていて。あの2人は本当に姉妹のように仲が良かったんです。それなのにっ、、、」


悔しさと後悔で髪をぐしゃぐしゃと掻きむしる。


「私が采配をしくじったからっ、、、!天音に行かせなければよかった、ちゃんと!見つけられていたらっ、、、!被害者一覧に天音の母親がいたことなんて調べればわかったはずだったのに、、、!天音が、天音が死ぬくらいなら、、、!」


私が死ねば良かったのに。


「そんなことはない。」


なんだよ、きいてるじゃんか。けっきょく。


「桜月はその年でリーダーになって、1人で独立魔物を160以上倒して、その上皆に好かれる奴だ。お前は自分を過小評価しすぎなんだ。」


過小評価?違う。これは正当な評価なんだ。部下ひとり守れず、白銀も傷つけた私に価値なんて、、、


「俺は独立魔物を300倒したが誰にも好かれていない。だからお前は凄いんだ。」


それはあなたがコミュ障だからじゃ、、、


「自分の殻に閉じこもるな。その殻は固めて内側にしまっておけ。お前の強い、強い芯になるように。」


「なにそれ。ばっかみたい。」

「馬鹿で結構。俺は元々頭が良くない。義務教育に留年制度があったらまだ俺は小学生だ。」


26の小学生。考えただけで笑いがこみ上げてきた。こんな場面で笑うわけがないのにこの人の隣は安心してしまう。


「水滝原さん。私、、、


あおい。」


「え?」


「俺の名前は碧だ。水滝原さん、なんて大層に呼ぶ必要はない。」


「碧か。昔はそう呼んでたな。入社したての時だったっけ。」


「そうだ。もう誰も下の名前で呼んでくれなくなった。俺の同期なんかみんな死んだからな。あの頃のお前はまだ可愛げがあったぞ。」


んだとこら。もう一回言ってみろや。今も可愛いだろうが。


「泣き止んだな。来い。自販機でココアくらいなら買ってやる。」


なにそれ。へんなの。

そう思っても偽りの言葉で飾っていない、飾る必要もないようなまっすぐな言葉に私は洗われたんだ。


欠けた物を必死に探していた、三日月の私でも。追いつきたい、追い越したい。もう後戻りなんてできない。天音の死は絶対無駄にしない。優しい貴方の横で笑えるように。降るような星空と光り輝く月。あの月のように私はなりたい。



「月が綺麗ですね。」



「?あぁ、そうだな。さっきまで雨だったのに星まで綺麗に見える。」


貴方はこの言葉の意味を知らない。知らなくてもいいんだ。今はまだしまっておくから。

天音、ありがとう。白銀、これからもよろしく。そして、碧。死ぬなよ。


空は誇るように光を湛えていて。この巡り巡る空と時、光あまねくこの世で私達は出会えたんだ。







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