白銀陽翠とお友達
「どうすっかなぁ、、、」
白銀と天音がバディになって三週間後。桜月綾星の手には書類。かなり手強い独立魔物の浄化依頼だった。
「流凪と私、白銀と天音、、、行けんのかな。」
この魔物は推定300人以上食っていて浄化師も15人ほどやられているみたいだ。爆弾を使って戦うようで遠距離攻撃のできる白銀と天音は欲しい。
「どおしよー」
と机にぐでーっと突っ伏した後、覚悟を決めた。しかし、桜月綾星は見逃していた。その魔物が襲った被害者一覧。その中に
「アマネヒナタ」
の文字があったことを。
*********
「明日の1時、会社に来てくれ。独立魔物の浄化依頼が来ている。」
2人のスマホに同じメッセージがほぼ同時に送られてきた。
「あれ、これ陽翠と一緒に仕事するの?」
「そうみたい。」
しばらくすると麗奈から
「明日の1時独立魔物の浄化だって。陽翠届いた?」
というメッセージも入ってきた。
「てことは桜月さんと私達、麗奈で浄化するのかな?」
「そうだと思う。」
出帆と仕事をするのは初めてだった。それに、4人も一緒で浄化をしに行くとは。かなり強い物なんだろうか。
「まーいーや、寝よっと。」
「おやすみ、陽翠。」
「うん、おやすみ。」
──────────
「4人で浄化に向かうなんて、今回の魔物は強いんですか?」
「ああ、かなりな。推定300は食っている。」
そんなに。前の魔物は150人ほど食ったらしいと聞かされたが、前の倍ほども強いのか。
「覚悟をしておけよ。もしかしたら、もしかしなくてもこの中の誰かが死ぬ可能性は十分にある。」
そんなこと、言われなくてもわかってる。初めて魔物と対峙したときからずーっと、そして延寿浜さんのことでもっと。わかっていた。あっけなく死ぬ。身体能力も全てが上の魔物の前では命なんか平等に軽いって。
「ここだ。用心しろよ。」
ついたのはビルが集まる裏。治安が悪そうで昼から酔っ払った人達がごろごろしている。さらにその奥深く、誰も居ない場所にそいつはいた。
今まで会った中でも一番強そうだった。見た目はパーカーを着た清潔感のある男の人。だけど、禍禍しい。その正体はすぐにわかった。ゆっくりとこちらを見ると。
「あれぇ、浄化師じゃん。女の子が3人に男の子が1人。美味しそうだねぇ。」
「僕に勝てるのかなぁ!!」
その男の人の身体は爆発した。爆煙が立ちこめる中、もやが晴れていったその先には疑いもなく魔物な悪気と殺気に満ちた怪物に変貌していた。
「光風霽月」
真っ先に動いたのは桜月さん。続いて麗奈も動き、私達も錬成武器を取り出す。
「明鏡止水」
「玲瓏ノ雨」
「愛日」
四方向から狙われた魔物はにやりと笑うと自身の下の地面を爆発させた。
「ッ!!」
「?」
「!?」
「!!」
散乱する瓦礫に肩を切られた。
「光明輪」
羽衣を男に向かわせ、その動きとあわせるように
「雪消の水」
出帆も斬撃を繰り出す。羽衣が腕を切り、刀が脇腹を切った。チッと舌打ちをした後に男の人は千切れかかった腕をちぎり、こっちに投げてきた。火薬の匂いがする。咄嗟に出帆と私の身体を羽衣で覆った。
バァァァァァン!!!!!!
羽衣に衝撃が伝わる。ちぎった手足を手榴弾として投げられるのか。厄介だな。
「陽翠!無事!?」
「大丈夫!麗奈は集中して!」
麗奈はこちらを心配しているけど余裕はなさそうだ。迫り来る爆煙を走りながら何とかかわしている。
「青天白日!!」
麗奈の銃弾が魔物の頭にめりこんだ。
「雪月花」
桜月さんの落ち着いた声。何となく安心して羽衣を伸ばし、攻撃に走った。出帆が
「水鏡」
と鋭く突くような素早い攻撃を心臓に打ち込もうとしたが外れてただ下腹部に刺さっただけだった。
「眩き」
「秋陽」
私は上から、麗奈は横から攻撃を食らわした。バンッ!という銃声と羽衣が男の顔を削り取る手応え。
「んん?お前、見たことあるなぁ」
男が麗奈の顔を見て言った。
「玉兎の舞!」
桜月さんの勢いの良い斬撃が胴を両断した。落ちる前に腕で胴をつかみ、くっつけた。気持ち悪。それよりも麗奈のことを見たことがあるって、、、
「んんー?そうだ!やっぱりそうだ!お前、アマネヒナタの娘だろう!似てるなぁ、髪の色とかそっくりだ!!」
え?
「なんで、私の母の、名前を知っているんだ?」
困惑したような表情で銃を握りしめ、立ち尽くす麗奈。今、魔物は完全に麗奈に集中している。そっと足音を立てずに、心を空っぽにして魔物の背後に移動した。
「いやぁ、綺麗だなぁ!!その表情までそっくりだ!お前の母親の絶望は美味かったよ!」
「は?今、なんて、、、」
「だ、か、ら!お前の母親の絶望は美味かったよって!魔物に心を食われた人間は希望を失って死ぬ!お前の母親はー、、、歩道橋から飛び降りたんだったっけな?」
「う、、、嘘だ。そんな訳、、、」
「そんな訳?あるんだよ。心の美しい女だったなぁ。困っているふりをしていればすぐに助けてくれたんだ。」
「そんな、、、お母さんは、、、じゃあ、、、」
「私の部下に随分な言いようだな。」
「わぁ!かわいい女の子だね!その桜色の目、宝石みたい!」
「気色悪い。」
「有明月」
銀色の刀身が煌めき、星が降る。桜色の目にはっきりと捉えられた魔物は背後には気づいていない。
「残照」
「山紫水明」
背後からの奇襲、限界まで気配を消した私達に気づいていない魔物は桜月さんの攻撃だけを受けようとする。
「ッ!?」
羽衣が両腕を切り落とし、出帆の刀が心臓を突き刺す。それなのに。出帆の刀が負けた。バキリと刀身が折れた。
「っ!?」
出帆が即座に自分の身体に納刀し、また引っ張り出した。すると刀が復活した。
「すっごい男の子だね!もうその年で錬成武器があつかえるのか!そこの女の子も!」
「本当に、私の母を、殺したのか。」
揺れる茶色い目。
「あはは!馬鹿みたい!何怒ってんの?もう居ないじゃん!!」
「やめろ!落ち着け!」
次の瞬間。今日一番の爆発が巻き起こった。男を中心に、凄い爆風で。瓦礫が散乱し、顔を、腕を、脚を切りつける。
「がはっ、、」
壁に叩きつけられて呼吸ができなくなった。まずい。このままじゃ。ほかの、みんなは。出帆は無事だ。体勢を立て直して構えをとっている。桜月さんは。麗奈は。桜月さんは麗奈を庇うように覆い被さっていて制服の背中の部分が破れていた。桜月さんが立ち上がって
「天音を頼む。」
と私に託し、魔物を見据える。
「あっははは!よく飛んだなぁ。だーれも死んでないのがおかしいくらいだよ。かわいい顔が傷だらけで台無しじゃないか!!」
「うっさい。死ね。」
出帆と桜月さんの斬撃が魔物に降り注いだ。月の光のように。雨のように。
「ねぇ、陽翠。私をあそこまで連れて行ける?」
連れて行ける。連れて行けるけど、、、羽衣に乗せれば連れて行けるけども。そんなことしたら至近距離で爆発が、、、
「ねぇ、陽翠。楽しかったよ。もうここで死んでもいいの。死んでもいいから、、、」
「私も行く。」
「え?」
「私も行く。みんな戦ってる。2人で倒そう。2人で祓おう。」
「っ、、、」
麗奈の頬を涙が伝った。
「それに、さ。プリン屋さん、一緒に行くんでしょう?死んでらんないよ。」
「そうだね。」
「ねぇ、陽翠。明日、遊ぼうよ。」
「行けたら行くかな。」
「なによ、ノリ悪い。まあ、私も行けたらなんだけどね。」
爆音が聞こえた。熱気が頬を撫でる。
「行くよ。あの2人は死なせない。大切な人なんでしょう?」
「そうだよ。」
あなたと同じくらい、大切な人。大切な友達なんだよ、麗奈は。
「友達になってくれてありがとうね。」
「こちらこそ。」
私達は走り出した。地面が割れるほどの踏み込みで。
「白銀っ、、、天音、、、」
「陽翠、、、」
傷だらけな2人はもう余力がないように見えた。
「下がってて!!ください!!」
光の帯が、銃の弾丸が。太陽の閃光が。この三週間、2人で過ごしたから読み取れるお互いの動き。それを最大限生かした。
「れな!!!!」
叫ぶ。痛みと共に。顔の真横で爆発が起き、肩が熱くなる。構うもんか。こんなもの。男の投げられた指が爆発し、ふくらはぎを掠った。瓦礫が腹に刺さる。
「ひすい、、、」
麗奈を乗せて羽衣は伸びる。凄い速さで。爆弾男が目に追えないスピードで。もう一本の羽衣で男の身体を拘束した。
「烈日乱舞!!!!!」
麗奈は魔物の心臓に向けて、ゼロ距離で銃の引き金を引いた。心のどこかでわかってしまった。これが、天音麗奈最期の攻撃なんだと。今までにないけたたましい銃声と破裂せんばかりの光、魔物の悲鳴、響き渡る爆発音で頭が痛くなりそうだ。
巨大化していた魔物の身体が崩れる。麗奈は、勝ったんだ。2人で、遊びに行こう。プリン屋さんにいこう。ご飯を食べよう。落っこちた麗奈の身体を受け止めると、、、
そこには爆発によって左腕を失った麗奈がいた。




