白銀陽翠の行く先は
「あれ、陽翠、その髪ゴムどうしたの。すごくかわいい。」
いつもの見回りの最中麗奈が言った。
「出帆に貰ったの。かわいいでしょ。あと、もう一個貰ったんだけど、、、」
「なになに、なにもらったの?」
「簪。」
そしてその三秒後。あ、やば、と思ったときには麗奈の絶叫が冬の静けさの街に響いた。
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「えぇーーーーーーーーーっ!?」
冬の静寂を切り裂くような私の絶叫が響いた。
「そっそっそれって!?どういう!?」
私、天音麗奈は大困惑をかました。だって、だって!簪って!あれじゃん!あのアニメの「やる。」のやつじゃん!!
「麗奈っ!後ろっ!」
後ろから魔物の気配。ノールックで銃を撃った。多分あたったな。魔物のうめき声聞こえてるし。こんなことで乙女17才がとめられると思うな。
「それでっそれでっ!?何があったのっ?」
こんなん追求するしかない。
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麗奈の怒濤の追求の後、私はやっと解放された。見回りを終えて実に40分。今日は独立魔物の浄化依頼はないから訓練かな。麗奈は弟に彼女ができたとかでお祝いをするらしい。
「みこちゃんって言うんだって!服どうしよう!どんな髪型で行ったらいいかな!?」
ばたばたと帰っていった麗奈を見送って私は訓練場に向かった。珍しく榊さんはまだいなかったので行きつけの居酒屋で本願寺さんがよく拾ってくる(拾ってくる!?)岩を砕いて待つことにした。どんどん精度と硬度が上がってきていて羽衣は私の手放せない武器だ。もっとも、錬成武器を手放すと言うことは不可能なのだけど。
「こんにちはー!陽翠ちゃん!遠距離攻撃担当のうちが来ましたよーっと!!」
「本願寺、落ち着け。」
にっこにこ笑顔で登場したのは本願寺さんと榊さん。
「遠距離練習させたいな、、、って呟いたらついてきたんだ。」
と榊さんが言っていた。
「わ!うちの岩ばらばらになっとる!また拾ってこなあかんわ!」
「二度と拾ってこないでね。」
どうやら本当に本願寺さんが拾ってきているらしい。ていうかこんな大岩、よく持ってくるな、、、
「さ!陽翠ちゃん初めよ!技なし武器あり体術訓練!光太郎、合図言って!!」
「はいはい。」
「構えて。よーい、」
スタート、と言った瞬間本願寺さんが動いた。本願寺さんは動いていない。大量の短刀がこっちに飛んできた。
「うわっ!?」
羽衣で盾を作り、短刀から身を守る。ふわっと本願寺さんが飛んで背後に回り、短刀を放つ。
やばい、やばいぞこれ。上、上に向かえ!
思いっきり飛んで、さらに羽衣で床を押し、もう一本の羽衣で本願寺さんを狙う。
「えーいっ!!」
壁に短刀で羽衣が固定された。そんなのあり!?羽衣は切れてもちぎってもまた再生するけれど、、、
「んっ!」
短刀ごと羽衣を抜き去り、ひっくり返して短刀をとる。遠距離からの攻撃。逆に近距離じゃやりづらいのかも。本願寺さんは身体から短刀を飛ばすことに特化しているし。
羽衣をいけるところまで伸ばしまくる。ぐるぐると螺旋を描くような形状は相手を錯乱させる。その羽衣の上を
全速力で走った。
「えっ!?」
本願寺さんがこちらに短刀を飛ばしまくるが当たらない。もらった!!
「なーんてな。」
くるりとふりかえって手に持った短刀を私の喉元に突きつける。しまっ!!!
♪ピーンポーンパーンポーン
え?放送?
「月のクインテット、本願寺さん、本願寺月乃さん。至急会議室に来てください。なんで急にいなくなるんですか。もう五分前に会議始まってますよ。早く来てください」
♪ピーンポーンパーンポーン
えっ?まさか、本願寺さん、会議、、、
本願寺さんは呆然と立ち尽くしていた。すっごい目泳いでるし汗だらだらかいてるし。
「本願寺、、、」
すっごくアホを見る目をした榊さんがあきれた様子で名前を呼んだ。
「終わったっ、、、どないしよ!今の綾星ちゃんブチ切れモードやん!!会議あったなんて覚えてないってぇ、、、」
頭を抱えてうずくまった。
「なあ、このまま会議行かへんくても、、、
「だめだよ。」「だめです。」
「やんなぁ、、、わぁ、どないしよマジで、、、やばいってぇ、、、」
榊さんと私にうずくまったままずるずると引きずられながら本願寺さんは運搬された。
「ふぅ、、、本願寺、何やってるんだよ、、、」
ぱんぱんと手を払いながら会議室に本願寺さんを放り込み、榊さんが言った。貼り付けた笑みの桜月さん、怖かったなぁ、、、
「本、願、寺、さーん?私言いましたよね、会議あるって。その様子じゃ白銀の訓練見に行ってたんですかね?何やってるんですか。」
あれほどまで怖い桜月さんは今世紀最後だろう。
「中断されてしまったね。白銀さんの機転と応用は素晴らしかったよ。遠距離の相手に対して逆に距離を詰めるのは良い判断だ。だけど、今回の場合は、、、」
榊さんの伝わりづらいアドバイスは何とか理解した。
「ただいまー」
「ん。おかえり。」
結局出帆よりも帰るのが遅くなってしまった。
「あ、つけてくれてるんだ。」
出帆は私の髪のリボンを指さして言った。
「うん、つけてるよ。ありがとうね。」
高い位置のポニーテールとその上に乗ったリボン。似合うか心配だったけど本願寺さんにはグッドサインを貰った。出帆は満足そうににこっとした。
「今日の会社での放送聞いた?なんか月のクインテットの人が会議忘れてたらしいよ」
「聞いたよ。面白くて笑っちゃった。」
おもしろいね、と笑いあう。ふと、出帆が真剣な顔で聞いてきた。
「ねえ、陽翠は死んだらどうするの?」
どうするの、とは?
「どうするのって、、、何かあったの?」
「今日目の前で一般の人が死んじゃって、、、この人って死んだらどうなるんだろうって」
どうする、どうするかぁ、、、
「どうもしないよ。多分私が死んでもみんなが私のこと忘れるだけじゃないかな。」
そう言うとものすごく出帆が嫌そうな顔をしていた。忘れるは禁句なのか。
「あっ、私、死んだら星になろうかな。」
「星?」
「そう。星。」
「そのあとは?」
そのあと!?そのあとなんてあんの!?
「生まれ変わる、、、?」
ふふっと出帆が笑った。笑う要素どこ。
「そうだよね。みんな、生まれ変わるんだ。」
聞いてきたくせに欲しい答えは決まっていたのか。聞いてきた意味ないじゃんか。もうっ。
「それがどうしたの?」
「なんでもないよ、別に。」
「?」
「ご飯作ろうよ。今日何作るの?」
「雀宮さんからさつまいもいっぱい貰ったからさつまいもで何か作ろうよ」
「いいね。」
小さな問いと迷い。はっきりさっぱりしないほうがいいのかもしれない、と訳のわからないことを思った。
おまけ
「死んだら星になろうかな。」
その言葉が僕の頭を巡った。星っていうのは何光年も輝く物らしい。その先で君とまた出会えたら。
一昨日のページに書かれた「そうだよ。」の文字。どこか自信なさげで頼りないけど。僕は今日のページにはっきりと書いた。
「僕は陽翠がすきだ」




