流凪出帆は贈りたい
「なにこれ。」
今日も爆発した前髪をかき上げながら僕はベッドサイドに置かれた小さなノートのすみっこをみた。
「僕は陽翠がすきなのかもしれない」
そう書かれた文字の筆跡は僕の物だったけどさっぱりわからなかった。
(昨日の陽翠、悲しそうだったな、、、)
何があったかはわからなかったけど何となく気になってしまった。
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「白銀に何か贈りたい?」
見回りを終え、独立魔物を二件ハシゴして祓い、ジュースでも奢って先輩風を吹かせてやろうと思っていたときに流凪が唐突にそんなことを言い出した。聞けば何だか昨日悲しそうな顔をしていたので元気づけたいと。できれば身につけれる物を贈りたいらしい。
(昨日延寿浜が死んだんだったな、、、)
天音から報告があった。浄化師の男の人が目の前で死んだと。天音は気がついていないようだったが延寿浜は、、、まあいいか。
時刻は午後三時半。流凪は仕事が速いので大分時間がある。
「よし、私がいいところに連れて行ってやろう。」
とりあえず本願寺さんが言っていたアクセサリーショップに連れて行ってやることにした。
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「ここだ。自分で選べ。」
流石に選ぶのは流凪なべきだろう。腕を組んで流凪を観察する。この店は最近の小物やアクセサリー、古風な簪や手鏡まで揃っている良い店だ。
(そういえばお金の管理はできているんだろうか。)
2人はお互いに必要な生活費を出し合い、余った分は自分のお小遣いにしているらしい。16歳同士にしてはとてもよくやっていて立派だと思う。
流凪は店全体をぐるっと回っていた。そしてしばし迷った後何かを手に取り、さらに奥に向かった。
(二個選ぶのか。)
それにしても流凪は白銀に会って変わった。成長したと言うべきだろうか。何も選べず意見も出さず、笑わず虚ろな目でぼんやりとした彼は生きているのにここにいないような感じがしたんだ。こんなことを考えて勝手に感傷的になるのは二十歳を過ぎたからか。この前そんなことを本願寺さんに言うと
「二十歳なんてまだまだやわ。うちなんか最近アニメの中盤のようわからんとこで泣いたで。」
と返された。ちなみに私は当時15歳で私を拾って育ててくれた本願寺さんは母のように思っているが頑なに本願寺さんは姉のように思えや、と言い張る。三十を過ぎてまだ結婚していないのに焦りを感じているのか。
そろそろ流凪の様子を見ようと追いかけると簪を選んでいるようだった。なかなか古風な趣味をお持ちで。
「流凪、決まったか。」
「はい。ふたつ贈ろうと思って。一つは決まったんですけど、、、」
そう言って手に持っていたのは白いリボンのついたヘアゴムだった。確かに白銀に似合いそうだ。
「あのポップみて簪贈ろうと思って、、、」
指さされたポップには
「簪。簪は貴方を守るという意味があります。昔は求婚などで贈られていたこともあったようです。」
と書かれていた。
えっ、えっ!?白銀の片思いじゃなかったのか!?あれっ!?いや、待て。落ち着くんだ桜月綾星。この仕事柄、守るというところに重点を置いているのかもしれない。多分そうだ。両片思いとか青春すぎて塵になって消えそうだ。
「うん。いいんじゃないか。」
流凪はまた迷った後、白い簪を選んだ。虹色に光る貝がはめ込まれていて上品さが溢れている。お値段1500円。
(高くないかね、贈り物にしては)
この手のものなんだったら安い方なんだろう。確かに浄化師って給料いいしな。結構たくさんもらえるのだ。いや、かなり。まあ、命かかってるし。
和紙でプレゼント包装を施してもらい、簪での髪のまとめ方の紙も親切な店員さんがつけてくれていた。優しい世界だ。
「なんか買ってやろう。ついてこい。」
そう言って来たのは某有名喫茶店。緑と白のロゴの人魚マークのあそこである。
(いつ見ても高い。)
金銭感覚が高い給料でバグる人も多い中、なかなか貧乏根性が抜けないけれど今日くらいは流凪に買ってやろう。私も久々に飲みたい。流凪は抹茶ラテを頼み、私は上にクリームののったホットコーヒーの牛乳多い版のような物にした。
「ありがとうございます。」
流凪がノートを取り出した。おっ、あれ使ってくれてんだ。何でも良いから書いていけと。スマホで大まかに浄化師のことは記録し残りの日常のことをノートに書き込んでいるらしい。そしてちらりと見えた昨日のページ。そのページのすみっこには
「僕は陽翠がすきなのかもしれない」
と書かれていた。
青っっっっっっっっっっ春っっっっっっっっっっ!!!!!!!!
待って、まってまって。両片思いじゃん!学生時代友達がよく言っていたやつじゃん!!!
ていうか「すきなのかもしれない」ってなんだよ!言いきれよ!
そんなことは特に気にとめていないかのようにさらさらと記入していった。よく考えたらのぞき見じゃん。だめじゃん。落ち着け。落ち着け。そう言い聞かせてストローで飲み物を一口飲んだ。
「熱っっっっ!!!!!」
ホットコーヒーにストロー刺したバカは誰だ。迷うことない。私だ。ダイレクトにきた体感90度の液体が喉を焼いていき、たまらず携帯していた水を一口飲んだ。
(今日絶対トマト食べんとこ。)
ぴりぴりする口内にそう誓った。
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「ただいま。」
出帆が帰ってきた。
「おかえり。」
「ねえ、プレゼントあるの。あげる。」
両手でちょこんと差し出された和紙の包みはとても綺麗だった。
「いいの?こんなもの誕生日でもないのに、、、」
「いいよ。僕があげたかったんだ。ねぇ、僕の前で開けてよ。」
開けた包装紙からはまず白色のリボンのついたヘアゴム。
「かわいい、、、」
こんなの小さいとき以来だな。これからはこれでポニーテールにしよう。
「ありがとう、すっごくうれしいよ、、、!」
「もう一つあるの。開けてみて。」
細長い箱に入っていたのは簪だった。白くて虹色に光っていて。かわいい、綺麗、、、
ん?簪?簪って、、、
「ねーねー陽翠!このアニメ面白いよ!ヒロインに簪贈られるところが本当に胸キュンで!簪って求婚とかで贈られてたんだって、素敵!」
麗奈のライン。とある中華風ファンタジーのアニメにはまっているらしく、簪の意味が素敵だと報告してきた。
簪。簪!?簪!!!!!
まてまてまて。そんなわけがない。おちつけおちつけ。簪には貴方を守る的な意味もあったはず!多分そっちだ!うん!平常心レッツゴー!!
「ありがとう、こんなに綺麗なのもらっちゃって。またおかえしするね。」
「ねえ、つけてみてよ。つけてるとこみたいなぁ」
上目遣いでこっちを見る出帆。胸キュンやないかい。入っていた簪の使い方を見ながらお団子に結ってみた。
「どうかな、、?」
「すっごくかわいいよ。似合ってる。」
お日様みたいな笑顔はかわいすぎて頭が爆発しそうになった。ぱしゃりと出帆が写真を撮って、またいつも通りにご飯を食べて寝た。
その頃桜月綾星は。
「連れて行ってくれてありがとうございます。喜んでくれました。」
というメッセージに添えられた2人のツーショット。簪をつけて頬を赤らめた白銀と柔く微笑んだ流凪の姿に桜月綾星は灰になった。
おまけ
その夜、流凪出帆。
僕は昨日のページに書かれた「すきなのかもしれない」の文字を見つめた。簪のポップを見たときに湧いた感情。僕が守りたい。そう思った。これが恋だとするなら。
昨日の文字の横に「そうかもね。」と書き足した。




