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白銀陽翠は泣けない

「至急この場所に急げ。浄化師が6人やられた。」


麗奈との見回りの最中、スマホと連動したスマートウォッチにこんな通知が届いた。


「麗奈、行こう。」

「陽翠、急ぐよ。」


浄化師が6人やられた?そんなに強い魔物、、、早く向かわないと。

ついた先にはとても気持ち悪い魔物と気持ち悪い光景。

まず魔物の姿。腕が四本。もうすでに気持ち悪い。そして足が六本。目玉が六個。きもいきもいきもい。それに加えて


「嘘、、、でしょ?」


浄化師の制服を着た人達が転がっていた。転がっていたというのか、全員死んでいた。どれもこれも複雑に潰れていて。まるで、、、()()()()()()()()()()()()()()


「んん?なーんだ、女か。1人は水晶持ちかい?なかなかうまそうだ。」

「逃げろッ!!そいつはッ、、、」


言いかけた男の人は一瞬で目の前から消えた。


「何があってもそいつに直接触れるなッ!!」


刹那、空から降ってきた男の人は地面にぶつかって肉塊と化した。


「落下攻撃、、、」


どうしよう。私は羽衣で戦えるし落下の衝撃も羽衣で受けられる。けど麗奈は、、、


曙光優美(しょこうゆうび)


麗奈が弾丸を心臓に撃ち込んだ。撃ち込んだけれど、柔らかく吸収されて心臓に届いていない。


「チッ!」


相性が悪すぎる。前の魔物は単なる引っ掻くという攻撃しかしていなかったけれどこいつはおかしい。


「そっちの栗毛の女からかたづけようかねぇ。」


そう言って麗奈に触れようとした手の間に羽衣をねじこんだ。とにかく麗奈は触られてはいえないんだと。麗奈が触られたら羽衣で受け止められない限り確実に死ぬ。


「邪魔すんじゃないよ!!」


そう叫んでこちらに手を伸ばしてきた。速い。速いけれど、、、これなら何とかかわせ、、、


「陽翠!後!」


背後にたくさんの手が迫っていた。どうしよ、、、


「ッ!!」


見ず知らずの浄化師の男の人。私と魔物の間に体を滑り込ませた。


「お前錬成武器使えんだな!!そんなん守るしかねぇじゃねぇか!!俺はこいつに今触れられたから二分後には皆みたいにぶち上げられて死ぬ!だから俺が二分間お前らの盾になる!」


はっ、、、!?何言ってんのこの人。見ず知らずの私助けて死ぬんだよ!?それでもいいの!?


「ほら避けろ!俺の命を無駄にすんじゃねぇ!もっとも、美女助けて死ぬんだから本望だけどな!!」


羽衣で次々と迫り来る腕と足をなぎ払っていった。こんな人を死なせるわけにはいかないんだ。裁ききれなかった分は男の人が短刀で切り裂いて麗奈が弾丸を浴びせて。真っ直ぐ心臓へ飛び込んでいく。どこだ、どこだ。攻撃の隙間を探せ。抜けろ、抜けろ、、、!!!


「ちょこまか動くんじゃないよ!!さっさと落ちな!!」


羽衣が心臓目がけて伸びたとき、魔物の太い腕が麗奈を襲った。男の人は麗奈に向けられた腕を全身で受け止めて、


「そこの三つ編みの嬢ちゃん!俺のことはいいからあのつり目の嬢ちゃんを助けな!」


と叫んだ。麗奈の弾丸が魔物の六つの目を襲い、羽衣が心臓を貫いた。

もしかしたら、魔物が死んだら術も解けるかも。そう思って振り返ろうとすると。


背後からものすごい音がした。


私達を助けてくれた男の人は


「あんり、、、」


と小さく呟きながら死んでいった。麗奈はぽろぽろと泣いていた。でも私は泣けなかった。だってこの人のことを何も知らないから。こんな人を死なせてはいけないとか勝手に思ったくせにいざ死んでも何も思わなかった。


「陽翠、、、」


なんで麗奈は泣いているのに私は泣けないんだろう。助けてくれた人なのに。冷や汗が肌を伝ったけど目は必要最低限しか潤っていなかった。


そして気づいた。


ああ、私は空っぽなんだなって。


助けてくれた人が目の前で死んでしまっても泣けない。そのことに抱くのは焦りばかりだった。死が身近にあった環境で自分の命の価値を感じていないと同時に人のことも価値を感じていないのかな。


でも、だって、いつか死んじゃうじゃん。それがたまたま今日になっただけじゃん。そんな責任逃れな感情と考えの逃避行が恐ろしかった。


麗奈は優しかった。麗奈は怒らずにただただ真っ直ぐにその人を見ていた。事後処理の人が来てその人の名前を初めて知った。延寿浜一希(えんじゅはまいつき)、という人らしかった。名前を知っても何も思えなかった。


ふらふらしながら家に帰って出帆とご飯を食べても、おやすみって言っても違和感は消えなかった。


寝るのは諦めてリビングに戻り、月明かりしかない部屋の中冷えた空気で肺を満たす。


規則正しい寝息。

穏やかで、柔らかい、崩れそうになる心を静かに支える音。耳を澄ますとドアの向こうから聞こえてくる気がしてくる。


「出帆、、、」


小さく名前を呼ぶ。

返事はなくていい。

ただ、生きて、そこにいてくれるだけでいい。


今日改めて死を近くに感じたから出帆が生きているのを確認できて安心した。


そこで、あの光景が鮮明に蘇る。


血。

叫び。

落ちた延寿浜さん。

失う時はいつも一瞬。


最後に残ったのは私と麗奈。


(どうすれば、、、助けられた?)


胸の奥で問いが消えない煙のように広がった。


昔の自分であれば、泣いたのだろうか。


けれど――今はもう涙は出ない。


母が死んだ日。心がパリンと砕けて以来、涙という感情がせき止められたままだった。


一度だけこの前泣いたっけ。出帆が私のこと覚えてなかった時に。それは自分のために泣いていた物だった。人のためには泣けない。


だから今も、胸はぎゅうっと締めつけられているのに、こみあげるものは何も無い。

ただただ苦しさが胸をえぐる。それすらも自分のためで吐き気がする。


「ごめん、なさい、、、」


誰に向けて謝ってんだろ。自分でもわからない。

助けられなかった仲間に謝っているのか。延寿浜さんに謝っているのか。


出帆の寝息だけが聞こえるここを安心する場所と認識した。

でも同時に、自分がどれだけ壊れかけているかも痛いほどわかる。


強いのにどこか脆い。

涙は枯れ切っているのに、本当は泣き叫びたい。


(空っぽ)


どこか冷め切っていて行き場のない煙は心を渦巻いていた。

********

妙な胸騒ぎと心が締め付けられる不快な感覚。さっきまで寝ていたはずの僕はぼんやりと目を開けた。


(水でも飲もう)


水分を求めて体を起こし、リビングに歩いて行くとソファに陽翠が座っていた。


深い深い黒い瞳。

冬の湖の如く凪いだ無表情。


「ひすい、、、?」


小さく呟くとくるっと陽翠がこっちを向いて


「わ、ごめん。起こしちゃった?」


と先程の表情とうってかわって笑顔でこちらを見た。その完璧な表情はなぜか記憶を刺激した。あってないような記憶の奥底でなにかが動いたような感覚に襲われた。無性に陽翠の隣にいたくなった。


「なに、、、?どうしたの?寒かった?」


違う、そうじゃない。君にそんな顔をしてほしくなかった。2人しかいないじゃん。この部屋には。なんでそこまで完璧を追い求めた人形の表情をするの。


「なにかあったの?」


また僕はなにかしたんだろうか。数分前の記憶も霞み、なにもわからないようなあてもなく走っているような中、君だけには笑ってほしかった。


「なんでもないよ。大丈夫だよ。」


今回も僕の言葉のターンで終わった。終わりそうになった。


「ほんとうに?」


「ほんと。ちょっと考え事してたの。」


大丈夫。大丈夫。よくいうなぁ。君に出会ってから何回も聞いたような気がする。大丈夫、と言われたらそれ以上深追いするのはしてはいけないと思って止まってしまう。


君の目はいつも寂しそうな光を灯していた。この世の理をひっくり返すほど綺麗なのにどこまでも孤独で。その大きな目の下の黒子。何も覚えていないはずなのにその特徴が頭を駆け巡る。



「ねえ、僕たち、どこかで会ったことある?」



どうしようもなく僕は無力で。何もわからないし覚えていないかったけれど、君は僕の頭の中に残るんだ。毎日毎日聞いて聞いて、やっと覚えた水滝原さんに桜月さん。他の人の名前なんて忘れた。でもなぜか君の名前は覚えた。君の笑顔は心を巡った。君が泣いていたら悲しくて、笑っていたら嬉しくて。流星みたいな表情の移ろいを片時も離さず見ていたい。



「わかんない。」



暫くの沈黙の後には彗星を束にして作った花火のような澄んだ君の声が聞こえた。


「そっか。」


そっか。そうか。そうだよね。会ってたはずないもんね。


「もう寝ようか。陽翠、風邪ひいちゃうよ」

「そうだね。おやすみ。」


音のなくなったリビングを後にし、ベッドサイドに置いた小さなノートとシャープペンシルを手に取った。


「全てこれに記録しろ。倒した魔物のこと、日常の些細なこと。全て記録して、思い出したかったら思い出せ。」


桜月さんに渡されたこのノートの今日のページ。そのすみっこに


「僕は陽翠がすきなのかもしれない」


と書いた。





こぼれ話

延寿浜さんは杏里さんという3つ下の妹がいましたが2人で浄化師になり、杏里さんは亡くなってしまっています。


こぼれ話

陽翠がわからないと答えたのは下手に記憶を刺激してはいけないと判断したからです。


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