白銀陽翠は逃げ出したい
ご覧いただきありがとうございます!このお話は記憶をなくした少年とまっすぐな少女の恋愛話にしていく予定です。ブックマーク、評価などいただけると大変励みになります!
「ねえ、ひすい。大人になったら結婚しようよ」
橙色の夏の夕焼け空が紫味がかった青に変わる。うるさい蝉の声、振り返ったあなたの影は夕日で引き延ばされて。
「約束だよ。覚えててね。」
そういうと長い髪の中性的な男の子はぱっちりした垂れ目をうれしそうに細めて笑った。
小学三年の夏休み、大きく人生の歯車が動いた────────。
ジリリリリリリ!ジリリリリリリ!
「夢か。」
目覚まし時計を叩き壊す勢いで目覚ましをとめる。
「元気かな。」
高校一年生の白銀陽翠の朝は早い。
父親がいないうちに起きていないうちに家を出て、当たり障り無く家に帰り、寝る。このルーティーンの中に父親の気に障ることがあれば待っているのは死である。
比喩表現ではなく、リアルに。母親は死んだ。直接的な原因ではないにしろ父が殺したようなものだ。
「早く迎えに来てよ。」
小学三年の夏休み、母が死んで引っ越す前日。度重なる暴力、暴言の中、守ってくれた母もいなくなり、頼れる親戚もおらず父と2人になった二週間後。
この地獄からどこか遠くに逃げよう。所詮子供の軽い約束。もう期待していないのにまだ心の中で淡く希望を持っている。
「いずほ、今どこにいるんだろう」
流凪出帆に会いたい。
「すみません、そこのお嬢さん。白銀陽翠様ですか?」
1日の授業をこなし帰宅途中。一人の若い女の人に会った。話しかけ方がイギリス紳士なのよ。
「私、こういう者でして。」
てっきりいつもの雑誌モデルかなんかのスカウトかと思ったが、明らかに違う。差し出された名刺には
「浄化師 雀宮涼」
と書かれていた。
「浄化師?」
聞き返すと
「私は雀宮涼という者です。流凪出帆という人をご存じですか。」
「えっ、」
「鹿目さんからあなたを連れてくるようにと言う指示を受けました。どうか私たちにご協力いただけませんか。」
ここで私の思考はすべて止まった。出帆の名前が出て動揺した。もう何も考えず、首を縦に振った。
「うん、協力する。」
「えっ、?」
雀宮さんが驚いている。あんたが驚いてどうする。
「あっ、失礼します。」
電話をかけ出した。
「あっ、すみません、雀宮です。あのー例の少女。もう話がつきまして、、本当です!本当です!はい、連れて行きますー。あっ、二陣三陣は必要なかったです……」
話の内容的に私は三段構えで勧誘されるところだったらしい。えっ、犯罪?
「この車に乗ってください!話は中でします」
言われるがまま助手席に乗り込む。ちょい怖い。
運転席に乗った雀宮さんは車を出した。
「えーと何から話したらいいんですかねぇ……」
そして、雀宮さんは語り出した。
「この世には魔物がいるんですよ。
私たち浄化師はその魔物を浄化することを仕事にしているんです。魔物は人間に寄生するんです。弱くて疲れ切った人間に寄生して、養分を吸って、育った魔物はやがて独立して人に被害を及ぼします。私もその育った魔物に両親殺されてて。その時助けてくれた浄化師になりたくて今の仕事についてるんです。」
じょうかし。浄化師。魔物。そんな物がいたなんて知らなかった。それに出帆とはなんの関係が……
信号待ちの間に雀宮さんはナイフを取り出した。えっ怖!銃刀法違反!
「これが対魔物用の武器ですね。あ、浄化師は政府公認なので大丈夫ですよー。特殊な金属で作られているんですって。これは月の光の持つ浄化の力をたっぷり吸い込んだ物らしいです。凄い人は身体から武器を作り出せますけど、ほとんどの人はそんなことできないです。だから私みたいに対魔物専用の道具で戦うんですよ。大体の魔物はこれで切っちゃえば終わりです。寄生していた魔物がとれて浄化完了です。育って独立した魔物は心臓を刺します。」
そしてどこかの建物の駐車場にたどり着く。一言で言うとでかいビル。すごーい。
「じっとしててくださいね。私車庫入れ苦手なんですよ。ここ二回ぶっ壊しましたからね。」
何をしてんだ。雀宮さん。クール系で登場した彼女は意外にも破天荒らしい。
無事に車庫入れを完了し、車からでてカードキーをかざした。
しばらくするとガチャッと鍵が開いた。
「入って入ってー。」
中に入ると、またドアがあった。今度はボタンを押して雀宮さんがスピーカーに向かって
「浄化二課の雀宮です。」
そうするとこっちのドアもガチャリと鍵が開く。
「ついてきて。」
彼女はとことことエレベーターに乗り込み、十二階のボタンを押す。
「いまからここのトップの鹿目さん、私のいる浄化班のリーダーの桜月さんにあいにいくよ。」
ゆっくりドアが開く。
そこは高級ホテルのような作りの場所だった。数個先のドアにノックをして入ってった。私もついて行く。
「浄化二課の雀宮です。例の少女を連れてきました。」
「ありがとう。雀宮。雀宮はそこで待っておいてくれるかな。白銀さんはこっちに。」
いってらっしゃい、と小さく言って背中を押してくれた。
「そこに座って。」
言われたまま椅子に座った。もふっとした感じのいい椅子だ。
「私は浄化団のトップをやらせてもらっている鹿目愁というよ。よろしくね。」
肩ほどまでの髪の毛の男の人はゆったりとした口調で言った。
「浄化二課の桜月綾星です。」
なんだか怖そうな印象の黒髪セミロングの女の人が名乗った。
「どこまで雀宮からきいたのかな。」
ここまで聞かれたことをとりあえず覚えている限り話した。
「なるほど。そこまで聞いているなら話は早いかな。」
すう、と息を吸い込んで鹿目さんは話し始めた。
「君の幼なじみの流凪出帆は魔物に襲われた。」
え。出帆が?どういうこと……?
「ついさっき知ったばかりの魔物の存在に襲われたと聞いてもよくわからないだろう。ごめんね。」
鹿目さんは話し出した。
出帆は家族と出かけた帰り道、独立した魔物に襲われたこと。出帆をかばい、両親と兄が目の前で死んだこと。出帆自身も重傷を負い、二週間前にやっと回復したこと。
「彼はね、事件の衝撃で記憶を失ってしまったみたいなんだ。覚えていたのは自分の名前と寝てる間にうわごとのようにつぶやいた『ひすい』という単語だけ。日常生活のことは身体に染みついていて覚えているけどそれ以外は覚えていない。また、新しく更新した記憶を留めておくのさえ難しい。」
頭にはいってかない。出帆が記憶喪失?魔物に襲われた?すーっと身体が冷えた。出帆の両親が死んだ?兄も?特に出帆の兄、出雲は私のことを気にかけていてくれた。優しい人たちだった。
「―――っ!」
ぽたぽたと目から涙があふれた。
そっか、もう、覚えてないのか。忘れないでって言ったの、そっちなのに。桜月さんがいつの間にか横に来てくれていた。
「急なことで申し訳ないと思っている。もっと早く浄化師を送ることができればこんなことにはならなかった。こちらの責任だ。」
深々と鹿目さんは頭を下げた。
また、すう、と息を吸って彼は言った。
「もし、君さえよければなんだが、浄化師として働いてくれないかい?」
「え?」
驚いた。
「君には並々ならぬ才能があるようなんだ。もし君がいてくれたら流凪くんも記憶を取り戻すまでも、記憶を取り戻してからも安心できると思う。それに君自身も助けたい。」
何で知ってるの。出雲と出帆たち以外気づいてくれなかったのに。
―――
「とろいんだよノロマ!クズ!」
「っ、!」
父親の拳が降ってくる。
「あの女にそっくりだな!バカでなんにもできないあの女に!」
みぞおちにつま先がはいる。痛みで声が出る。その声を聞いてなにかが不快に思ったのかもっと強く蹴る。髪をつかまれ、
「いてもいなくてもかわんねえ命なんだからよお」
おとなしく死ねや。
吐き捨てられた言葉。
――――
「今考えているのは流凪くんと白銀さんを二人でどこかに住ませることだ。当分の金銭面の援助はする。ここで浄化師として働けばかなりの額のお金がはいる。君のお父さんも何とかするよ。」
あそこから逃げられる。出帆に会える。ていうか一緒に住める。
「浄化師というのは命の危険を伴う仕事だり魔物は人間より遙かに強い。安全にはほど遠い職業なんだ。正直、まだ若い十六才の少女にやらせたくない。」
「やります。」
即答した。あの場所から逃げられるなら。出帆と暮らせるなら。
「えっ、」
鹿目さんと桜月さんが驚いている。
みんな同じ反応するじゃん。
「本当にいいんですか?死ぬかもしれないんですよ?」
口を開いたのはずっと黙っていた桜月さんだ。
「いいです。やります。なんでも、やります。」出帆の助けになりたいんです。出帆のそばにいたいんです。今まで、地獄の中で希望をくれた出帆を支えたいんです。」
こうして高校一年の秋、停滞していた約束と日向への道が開けた。
こぼれ話
出帆は陽翠に告白するときに四つ葉のクローバーを渡しています。このときのクローバーを陽翠は押し花にしてずっと大事に持っているようです。
こぼれ話2
陽翠はかなり優秀な生徒で成績も飛び抜けて高く、運動もできます。顔も整っていて大きなつり目と長い髪の毛、白い肌に右目の下の涙ぼくろが特徴な美人です。コミュニケーション能力も高く友達も多い欠点のない印象ですが実は152㎝の人よりも低い身長をコンプレックスにしています。




