茨の片鱗
「では、改めて私が気になった点に関し、ご説明いたしますわ。こちらをご覧ください」
そう言うと、彼女は先ほど渡してきたノートの一点を指し示した。
「これは……鉄鉱石の採掘量に関する項目だね」
「えぇ、スライブ領でも特に重要な収入源でございますね」
我がスライブ領の北部には「レアニスタ山脈」と呼ばれる場所があり、そこには主に鉄鉱石が採掘できる「ジュエラ鉱山」がある。
隣接部は海しかないため、他領と権利関係で揉めることはなく、質の良い鉱石が採れるのも相まって、長らくスライブ領の財政を支えてくれる存在だ。
「この鉄鉱石がどうしたんだい?」
「はい、どうにも採掘量の変動の仕方に違和感を感じておりまして……。こちら、流行病が起こってから二年間は採掘量が減少しております。理由は明白、流行病による人手不足ですわね。しかし三年目にはその点が解消されたためか、以前と同程度まで採掘量が回復しております。問題はその後です。四年目には前年の半分に、そして五年目はさらに半分の量となり、それ以降は同程度を維持しております」
「ん? それはおかしいことなのかい? 自然のものなんだ、掘っていた場所の資源が枯れたりしても珍しくないんじゃ……」
「確かにその可能性もございます。しかし、その場合は鉱石の質が落ちてきたり、不要な岩石も増えるはずですが、そのような報告は見受けられません。また、採掘量の推移に関しましても、もっと緩やかに減っていくのが通例です。このように突然、前年の半分、さらにその翌年も半減して以降は横ばい……という変動の仕方は、どうにも不自然に思えるのですわ」
「なるほど……」
地質学には詳しくないので、フィラナ嬢の説明に対し、「そういうものなのかぁ」程度の感想しか出てこない。
「……ちなみにこの鉱山の採掘に関しては、どなたが管理されているのですか?」
「え? 父の代から世話になっているネイブ商会だけど……」
我が家にも貴族らしく、お抱え商人というものがいる。父が若い頃からの付き合いだと聞いたことがあり、その信頼性から鉄鉱石の取り引きを任せているらしい。
「左様でございますか……」
それを聞いた彼女は、何かを考えるような様子を見せた後、静かにこちらを見返した。
「それでしたら、一度その商人の方から詳しい話を伺った方がよろしいでしょうね。こうして机上の数字だけを見ていては分からないこともございます。現地に赴き、実際に労働している者の声を聞いた方が、問題解決の糸口が掴めるかもしれませんし、視察を兼ねて鉱山に赴くのがよろしいかと」
「し、視察かい? ……うーん、それは僕も行ったほうが良いとは、思っているんだけど……」
彼女の提案に、目を泳がせながらなんとも歯切れの悪い返事をしてしまう。それもそのはず、僕の机の上には大量の未処理の書類が鎮座しているのだから。
他にも仕事があるだの、出歩く体力も無いだの、あれやこれやと言い訳を重ねていく僕。それまでのフィラナ嬢の様子は、まるで陽だまりに咲く一輪の花のように美しかった。
しかし、突然彼女の纏う空気が冷ややかなものと化す。
そう感じた瞬間――。
「失礼を承知で言わせていただきます。旦那様、何を寝ぼけたことをおっしゃっているのでしょうか。鉄鉱石の採掘が領地再建にどれほど重要なことかお分かりでございますわよね?このままでは、貴重な収入源がなくなり、公爵家が没落する可能性もあるのです。旦那様の代で潰れてしまってもよろしいので?嫌ですわよね?であれば、旦那様が今すべきことが何なのか、もうお分かりになりますわよね?分かったら今すぐ視察に行くご準備をなさいませ!時間は待ってはくださいませんのよ!」
「わ、分かったよ……!」
どんどん熱を帯びていく彼女の覇気に完全に押されてしまった僕は、 慌てて視察の支度に取りかかるのだった。
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