最初の仕事
「それでは、補佐官の業務にあたりまして、まずは台帳を確認させていただけますか?」
「え?今からかい?王都から来たばかりで疲れてるんじゃ……。明日からでも構わないよ?」
早速仕事を始めようとするフィラナ嬢に休息を提案するが、
「いえ、私のことはお気になさらず。それよりも、現状の把握を優先すべきですわ」
と、一蹴されてしまった。
彼女の仕事に対する意欲に感心しつつも、疲労は無いのか心配にもなる。
まぁ本人が平気そうなので、僕は書斎に案内することにした。
「一応これが最新の台帳だよ」
そう言って僕は、一冊のノートを渡す。
「拝見いたしますわ」
フィラナ嬢は台帳を受け取ると、パラっとページをめくっていく。
と同時に眉間に皺が寄っていく。
「……中々、個性的な記載でございますね」
「あ〜……、そうなんだよねぇ……。僕も何とか過去の書き方を真似して書いてはいたんだけど、どうにも、ね?」
彼女の険しい表情に圧倒され、いたずらを誤魔化そうとする子どもみたいな反応をしてしまう。
まぁ、誰かに教わったわけではないので、彼女からしたら見づらくても無理はない。
「はぁ、これは一度整理した方が良いかもしれませんね。旦那様が記載を始められたのはいつからでしょうか?」
「流行病が起こった時だから……6年前からだね」
「では、そのあたりから整理し直しましょう。その時の台帳はどちらに?」
「あ、あぁ。隣の保管室に置いてある。案内しよう」
そう言うと僕は、フィラナ嬢を連れ立って保管室へと向かう。
「ここにあるのが6年分の台帳だよ。横に置いてある書類がその資料だ」
積み上げられた書類を彼女に見せる。
「ありがとうございます。それでは、3日ほどお時間をいただけますか?その後、この先どうやって再建していくのかご相談させていただければと」
「分かった。手間をかけるけど、よろしく頼むよ」
***
3日後の朝。
いつものように書斎で大量の書類に囲まれていると、扉をノックする音が聞こえた。
入室を許可すると、美しい赤髪をなびかせながら、フィラナ嬢が入ってくる。
「失礼いたします。例の台帳に関しまして、ひととおり整理し終えましたので、報告に上がりました」
そう言うと、彼女は1冊のノートを手渡してくる。
「こちらがこの6年間の収支を要点ごとに整理したものでございます。数字と簡単な説明を添えておりますので、大まかな流れをご確認いただけるかと。年ごとの基の台帳につきましては、整理したものを保管室に収めておりますので、詳細を確認されたい場合はそちらを」
「あ、あぁ。ありがとう……」
渡されたノートを開くと、端正な筆跡で年度ごとの収支の増減や要点が一目で分かるようになっていた。まさか台帳の要点までまとめていたとは思わなかったため、彼女の勤勉さに舌を巻いた。
「それでは、台帳の整理に伴い、私が気になった点に関しまして……」
「ちょっ、ちょっと待ってくれ……!たった3日でこれだけまとめてくれたんだ。徹夜でもしたんだろう?一度きちんと休んでから、改めて話を聞くよ……!」
僕なら泡を吹いて倒れそうな仕事量をこなした彼女を心配し、休むよう促した。
しかし、
「いえ?特段寝不足になるような仕事はしておりませんので、私は問題ございませんわ」
なんと彼女は小首を傾げながら不思議そうな顔でこちらを見返したのだった。
どうやらこの令嬢は、僕が思っていたよりも相当仕事人間らしい。
……諦めて彼女の話を聞くとしよう。
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