目指す場所は?
作業小屋でベンたちとの情報共有を済ませると、いよいよ採掘候補地の確認へと向かうことになった。
人員は、話し合いに加わっていた僕とフィラナ嬢、クラム、ベン、グラットの5人に、熟練の炭鉱夫を2名追加した計7名。
調査というより、小規模な探査隊といった様相だ。
候補地は全部で三か所。
まずは、海岸沿いに広がるA地点。
砂混じりの地盤だが広さがあり、街道にも近いことから、もし採掘に適すれば運搬の手間も少ない。
次に、断崖の中腹に位置するB地点。
採掘はもっとも困難だが、鉱脈の走り方から見れば、最も見込みがある。
そして最後に、C地点。
森を抜けた先の丘陵地帯で、ほどよい広さと鉱脈の可能性を兼ね備えているが、街道から遠く、物資の輸送には難がある。
さて、問題はどの候補地から調べるか、だ。
調査に半日程度かかると想定すると、一か所しか調べることは出来ない。
しかし、うまくいけば我が領の貴重な収入源となるのだ。可能なら今日にでも成果を得たいところなのだが……。
いったいどうしたら良いのだろうか……。
などと考えていたところ、ベンが真っ先に意見を口にする。
「やっぱり、順当にいくんならここから一番近ぇA地点じゃないですかい?鉱脈が見つかりゃあ運搬も断然楽ですし」
「しかし、鉱脈がある可能性は一番低いでしょう?多少危険度は高いですが、期待値も高いB地点を調べる方が時間的・費用的に得策では?」
すかさずグラットが自身の見解を述べる。
「僭越ながら、旦那さまの執事として申し上げますと、あまり主人が危険な場所に足を踏み入れるのは控えていただきたいと存じます。ですから、安全面や期待値を考慮するのであれば、C地点を調査するのがよろしいかと」
心配性のクラムも続く。
三者三様の意見を聞き、さらに僕は頭を悩ませることになった。
いや待てよ、まだフィラナ嬢の意見を聞いていないな……。
彼女なら皆が納得するような判断をしてくれるはずだ!
そう思った僕は、期待の眼差しでフィラナ嬢に顔を向けた。
僕の視線に気づいた彼女は、にこりと微笑むと、突然椅子から立ち上がった。
「皆様のご意見、しかと拝聴させていただきましたわ!御三方とも意見が違うようでございますが、さて旦那様。どなたの意見を採用いたしますか?」
「は?僕?」
彼女の言葉に、その場にいた全員がいっせいに僕の方を見る。
唐突な無茶振りに、ポカンとしてしまったが、なんとか正気に戻ると、
「い、いや……!僕はフィラナ嬢の意見も聞いてみたいんだけどなぁ……」
なんとか抵抗を試みてみる。
しかし、
「私はあくまで補佐官ですので。この場の責任者である旦那様のご意見こそ、最も尊重されるものでございますわ」
微笑みを絶やすことなく、あっさりと僕の話は流されてしまった。
「う、う〜ん、そうだね……」
困り果てた僕に対し、フィラナ嬢は静かにこちらを見つめるだけであった。
彼女の助力を得られないとなれば、やはり何かしらの答えを僕が出さなくてはならない。
何が最善手かは分からない。
けれど――、
「僕は、C地点が良い、と、思う……」
僕なりの答えを告げる。
それに対し、クラムやベンは「旦那さま(坊ちゃん)がそう決めたのなら」とでも言いそうな顔で頷いた。
だが、グラットだけは違った。
「確かに、C地点であれば期待値も安全面も高いですが、利益を見込めるのは、やはりB地点の方では?公爵家の現状を鑑みても、最大の利益を狙っていくのも悪くないと思われますが」
静かに、けれど力強さも感じられる声音で問いかけてくる。
皆が納得しそうだったんだから、余計なことは言わないでほしいのだが……。
しかし、販売先でもあるプロスペル商会にも納得してもらう必要はあるだろう。
それは分かっているのだが……。
「え、え〜と……、それはそうなんだが……、え〜……」
いかんせん言葉が出てこない。
まぁ、ほぼカンで選んだのだから仕方がない。
再び言葉に詰まる僕。
そんな僕をじっと見つめるグラット。
重苦しい沈黙が流れ、誰も次の言葉を出せず、ただ視線だけが交錯する。
その時――、
「その点に関しましては、私からご説明いたしましょう」
凛とした声音で、フィラナ嬢が言葉を紡ぐ。
「グラット様のご指摘の通り、実を優先させるのであれば、B地点が一番でございましょう。しかし、断崖という立地上、崩落や落盤の危険が高く、調査段階でも十分な安全確保が難しい。仮に鉱脈を見つけられたとしても、採掘設備の設置や運搬路の確保に莫大な費用と時間を要します。よって現段階で手を出すのは、あまりにリスクが大きいかと存じますわ」
彼女の意見に、グラットはぐっと口をつぐむ。
が、そんな反応など意にも返さず、フィラナ嬢は言葉を続ける。
「また、A地点に関しましては、作業効率のみを見れば最善手でしょう。 しかしながら、鉱脈がある可能性は最も低く、ここで半日を費やして無駄足となれば、領としての時間的損失は計り知れません。今はまず、“見込みのある場所で確実に結果を出す”ことこそ、最も理に適う選択でございましょう」
淡々と述べていく彼女の姿に、その場にいた者全員が静かに引き込まれていくように感じられた。
「最後に、旦那様が選ばれたC地点ですが、安全面・期待値ともに申し分ありません。
懸念点である街道からの距離についても、鉱脈が見つかった際に新たな運搬路を整備すれば、長期的には採掘拠点として安定いたします。時間が無い現状においては、最も現実的で、かつ戦略的な判断かと存じますわ」
そう言うと、彼女はぐるりと僕たちを見回した。
「さて、皆様。なにか異議のある方はいらっしゃいますか?」
しばし流れる静寂――
それが皆の答えとなり、フィラナ嬢は言葉を締める。
「では、早速C地点へと向かいましょうか」
彼女の言葉を合図に、僕たちはそれぞれ装備を整え始めた。
こうして、最初の一歩が静かに踏み出されたのだった。
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