高まる期待
屋敷を出てから一時間後、窓の外にふと目をやると、ジュエラ鉱山のすぐ近くまで辿り着いていた。
「フィラナ嬢、もうすぐ鉱山に着きそうだよ」
声をかけると、少し驚いたようにフィラナ嬢が顔を上げる。
「あら、もう着いたのですか?」
そう言いながら、懐中時計を取り出して時刻を確かめる。
ほんのわずかだが、彼女の眉が動いたように見えた。
「ん?どうかしたのかい?」
「いえ、思ったよりも早く着いたと思っただけですわ。それよりも、無事に連絡が届いていると良いのですが」
「心配いらないさ。ピーロは優秀だからね。今ごろはもう屋敷に戻ってるだろうさ」
ピーロというのは、我が家で飼っている伝書鳩のことだ。
領内であればどこにでも連絡できるうえ、ピーロのような一部の優秀な訓練された鳩は、王都まで飛んで行くこともできる。
今回は、ベンや商会の担当者と話をする必要があるため、屋敷を発つ前に先触れをピーロに託したのだ。
そんな話をしているうちに、馬車がゆるやかに速度を落とし、やがてその動きを止めた。
窓の外には、岩肌がむき出しになった山の斜面が広がっている。
「旦那さま、ジュエラ鉱山に到着いたしました」
「あぁ、分かった」
クラムの声に返事をすると、すぐに馬車の扉が開かれた。
目の前には、ベンと小綺麗な装いをした青年が並んで立っていた。
「やぁ、グラット殿。忙しい中、申し訳なかったね」
「いえ、スライブ公爵様より御用向きとあらば、このグラット、他のなにをおいても馳せ参じる心持ちでございます」
そう言って、青年――グラットは恭しく一礼した。
一見してまだ若いが、その動作には訓練されたような無駄のなさがあり、商人というよりも文官のような印象を受ける。
「フィラナ嬢もお久しぶりですね。本日もご機嫌麗しゅうございます」
その丁寧な言葉遣いには、以前の商談で見せた柔らかい笑みが重なる。
「えぇ、ご無沙汰しておりますわ。本日は、急な申し出に対応していただき感謝いたします」
フィラナ嬢も落ち着いた様子で微笑みを返す。
「坊ちゃん!挨拶も済んだみてぇだし、本題といきましょうか。鳩まで飛ばされて、いったい今日はどうされたんで?」
そう口火を切ったベンの声音は、わずかに心配の色が混じっていた。
新商会との鉄鉱石の取り引きも決まり、これからという頃合いに、領主から緊急の話があると連絡されれば、不安にも感じるだろう。
「実は見てほしいものがあるんだ」
僕は胸ポケットから件の小瓶を取り出すと、二人に見えるように前に出した。
「この中に入っている石の欠片を見て、どう思う?」
二人は小瓶に顔を近づけると、まじまじと眺めた。
「うーん、キレーな石とは思いますが……。まぁ、ちと透き通っている感じはしますね」
「そうですね。状態から察するに、磨かれているわけではないのでしょうから、自然由来にしては……いや、まさか!」
グラットは驚いたように息を飲み、こちらを見る。
「えぇ、この石はジュエラ鉱山の北側の浜辺で拾ったものでございますが、私どもは宝石の原石ではないかと予想しておりますの」
フィラナ嬢の落ち着いた声が響くと、二人は思わず顔を見合わせた。
「宝石の……原石、ですと?」
「宝石の……原石、だと?」
二人の驚きが重なる。
「ま、まさか……そんなもんがこの鉱山から出るなんて、聞いたこともねぇ!」
予想外の話に、ベンは興奮を抑えきれないようだ。
「もし本当に宝石鉱脈があるとなれば……それは、領の価値を根底から変えるほどの発見になります。ぜひ、現物を確認させていただきたいのですが」
一方でグラットは、さすが商人というべきか、興奮を押さえ込むように低く言葉を続ける。
その真剣な口調に対し、フィラナ嬢は静かに微笑むと小さく頷く。
「えぇ。ですので本日は、北側の崖周辺を中心に調査を進めたいと考えておりますわ」
「一応、こちらに来る前に目星をつけてきたからね。二人の意見も含めて話が出来ればと思っているんだ」
ベンとグラットは、僕たちの来訪に合点がいったという表情で頷いた。
「なるほど!そいつぁ一大事だ!ならその目星について、早いとこ話し合いといきましょうか!」
「あぁ、よろしく頼むよ」
意気揚々としているベンに促され、僕たちは鉱山調査に向けて作戦会議をするため、作業小屋へと足を運ぶのであった。
読んでいただきありがとうございます!
もしよろしければ、下部の☆マークにて評価をお願いいたします!




