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輝きを求めて

「そういえば、旦那様。この小瓶の中身について、少々気になる点がございますの」

 

 フィラナ嬢は、小瓶を僕に返しながら告げた。


「こちらの石の欠片、どういったものなのかはお調べになったことがございますか?」


「ん?いや、特に調べたことはないね」


「では、先ほど"海で拾った"とおっしゃいましたが、どちらの海でしょうか?」


「領内の海だよ。ほら、ジュエラ鉱山の北側にあるだろう?あのあたりの海岸で拾ったんだ」


「石の欠片が拾えることをご存知の方は?例えば、ベン様や他の炭鉱夫の方々はご存知ですの?」


 小瓶の中身がよほど気に入ったのか、問いを重ねるごとに、彼女の瞳の輝きが増しているように見えた。


「え?ええと、兄上から"秘密の場所だ"と聞かされたから、多分知らないかも。海沿いの領民は知っているかもしれないけど……」


「左様でございますか」


 そういうと、フィラナ嬢は何かを考えるように、そっと握った拳の人差し指を下唇に添えた。


「ど、どうしたんだい?先ほどからやけに興奮しているようだけど……」


「旦那様、もしかすると、こちらの石の欠片は宝石の原石かもしれません」


「ええっ!?あそこは鉄鉱石が採れる鉱山なんじゃ……」


 予想外の返答に思わず大きな声が出てしまう。


「別種の鉱物が採れる事例は、珍しいですがあり得る話です。鉄鉱の鉱脈にマグマ由来の鉱物が混ざることもあります。この欠片を見ますと、ただの色とりどりな石というより、透明度が高く、光を受けた際の輝きも見事です。断言はできませんが、宝石質の鉱物である可能性は十分ございます」


 随分と自信満々な様子で語る以上、彼女の言っているとおりなのかもしれない。

 しかし、ここで一つ疑問が浮かぶ。


「でも、今までそんな話は聞いたことないんだけど……。本当にあり得るのかい?」


 新たにプロスペル商会との契約を交わすにあたり、商会の者やベンたち炭鉱夫との話し合いの場でも、そのような話は出なかった。

 まぁ、ダルトンたちが隠蔽していた可能性もある。

 しかし、彼らの利益に繋がるほど採掘できるのであれば、自然と他の炭鉱夫に知れ渡っているはずだ。 


「現在の採掘場は鉱山の南側でございます。ですが、旦那様が石の欠片を拾われたのは海岸――つまり鉱山の北側からです。そちらを調査すれば、あるいは……」


 初めて見る彼女の不敵な微笑みに、背筋がピンとする。

 その眼差しは、何かを確信している者のそれだった。

 すると突然、フィラナ嬢は手のひらをパンッと叩くと、

「そうとなれば、旦那様!今から早速ジュエラ鉱山に向かいましょう。まだプロスペル商会の担当者も残っていらっしゃるでしょうから、調査の話も進めやすくなりますわ」


「い、今からかい!?それは……ちょっと、急すぎるんじゃないかなぁ」


 僕は、今日こそのんびり過ごすと決めていたのだ。

 以前のように休日が潰れてしまうのは、なんとしてでも避けたい。


「フィ、フィラナ嬢。いったん落ち着こうか。ほら、何度も先触れもなしに行ったら、ベンたちも困るだろうし……。今日ジュエラ鉱山に行くのはやめて、明日以降で日程を調整するというのはどうかな……?」


 なんとかフィラナ嬢を宥めようと、行かない理由(言い訳とも言う)を告げた。


 ――瞬間。

 

 その場の空気がすっと冷えた。

 これは……、まさか……。


「失礼を承知で言わせていただきます。旦那様、何を戯けたことをおっしゃっているのでしょうか。本当に宝石類が採掘できるとすれば、スライブ領にもたらす利益は、現在よりも格段に上がります!収入が見込めそうなものが目の前にあるかもしれないのに、手を伸ばそうとしないのは愚か者の所業ですわ!領民のことを考えるのであれば、今すぐ出かける準備をなさいませ!」


「わ、わかったよ。すぐ準備しに行くよ……!」


 フィラナ嬢の言葉の嵐に見舞われて、僕はすぐさまテラスを後にした。

 やれやれ、結局僕の休日は潰れる運命なのかもしれないな……。

 そんなことを考えつつ、僕は身支度を整えるのであった。

 


 身なりを整え、屋敷の玄関へ向かうと、すでにフィラナ嬢とクラムが僕を待っていた。

 ……どうやら、前回クラムにこっぴどく叱られた効果が、早速出たようだ。


「クラム、すまないな。急にジュエラ鉱山に行くことになって」


 僕は、急な話に振り回されたであろう、自身の執事を労るように声をかけた。

 そんな主人に対し、当の本人は大げさな礼をしながら、

「いえ、旦那さま。主人の願いを叶えてこその執事でございます。それに、今回はきちんと行き先を教えていただきましたので、何も問題はございません」


「は、はは……」


 クラムのやつ、頭を下げてはいるが、前回自分だけ除け者にされたことを、まだ根に持っているらしい。


「では、早速向かいましょう」


 いつになく上機嫌なフィラナ嬢に促され、馬車に乗り込むと、御者台に座ったクラムはゆっくりと手綱を引いた。

 馬車の中では、フィラナ嬢が待ってましたと言わんばかりに、鉱山の地図を広げた。


「では、旦那様。どのあたりを優先的に調査するか、目星をつけておきましょう。その方が、着いた後の話が早くなりますわ」


「それは良いけど、目星なんてどうやってつけていくんだい?」


 正直、鉱物のことは僕にはさっぱりなのだ。

 専門的な話など分かるはずもないのだが……。


「本職の方には劣りますが、ある程度の予測は立てることができますわ」


 そういうと、フィラナ嬢は地図に目を落とした。


「まずは、石の欠片を拾うことができる場所は、どのあたりでしょうか?」


「そうだね、北の海岸沿いなら拾えたはずだよ。あのあたりは崖も砂浜も長く続いていて、正直どこで見つかってもおかしくないくらいなんだ。だから、特にこの場所って決まってはいないかな」


「なるほど。では、海岸に流れ着いたということは、もともとの鉱脈は崖の上、あるいはその近辺にある可能性が高いですわね」


 フィラナ嬢は、地図上の北側を指でなぞりながら続ける。


「南側は鉄鉱石の採掘が進んでいますが、北側はほとんど手つかず。地形も複雑ですし、崖の断層に別の鉱脈が走っていても不思議ではありませんわ」


「それじゃあ、海岸で拾えたということは、崖のどこかから崩れ落ちてきた可能性があると?」


「はい。その上で、風や雨で崩れた鉱石の破片が波に流され、海岸へとたどり着いた——そう考えるのが自然です」


 彼女の指がすっと止まる。


「この崖の麓……ここが、まず最初に調査するべき場所かと存じます」


 僕は地図を覗き込みながら頷く。


「なるほど。この辺りなら海からそれなりに離れているから、もし鉱脈があれば、すぐに採掘作業ができそうだ」


「では、第一候補はこちらとしましょう。続いては……」


 その後も、何ヶ所か採掘場所の目星をつけていく。

 嬉しそうな笑みを浮かべるフィラナ嬢を見て、自然と期待感が高まっていく。

 もし、本当に宝石が採掘できるとしたら、その時は……。

 そんなことを考えながら、僕は静かに揺れる馬車の座席に身を委ねた。


読んでいただきありがとうございます!

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