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第四十四話 シンプルなモーニング

 清々しい朝日が差し込む部屋の中、凛鈴(リズ)はゆっくりと目を覚ます。

 ……とはいえ、体は軽くない。前日に張り切りすぎた反動と、湿り気のない暑さが全身にまとわりつく。


 昨日の夜はやりすぎた。

 肉も酒も、そして夜更かしも。


 相も変わらず気怠げな暑さに圧され、緩慢な動作のまま、ネグリジェ姿で寝室を出るとキッチンへと向かう。

 

 冷蔵庫の冷気が肌を撫で、ようやく意識が少し戻る。涼しさに癒やされながら、何を食べようか、どうやって食べようかと肉を眺めて逡巡する。


 並ぶ肉の数々に本能が反応する──が、包丁を握るほどの気力はない。


「……時短、手抜き、それでいて肉」


 即答するでもなく、冷蔵庫から戸棚へと視線を滑らせ、ふとその動きが止まったのは、袋入りのジャーキーと、戸棚の中のグラノーラ。


「……まぁ、これでいいかしら」


 アンニュイな笑みを浮かべ、ジャーキーを手に取ると、キッチンハサミでザクザクと細く刻みながらグラノーラに投入する。

 

「刻んで混ぜれば、調理ゼロで肉入りモーニングになるじゃない」


 そこに牛乳を注ぐと、ほのかに肉汁が溶け出し、淡い琥珀色の液面に変わっていく。

 乾いた肉がじわりと柔らかくなり、妙な香りが漂い始めた。


 ──その光景は、朝食なのか非常食なのか、判断に迷う一皿だった。


「うん、悪くないわ」


 だが、そんな手抜きな料理とも言えるか微妙な一品に凛鈴は満足げに頷き、早速一口。


 カリカリとした穀物に細かなフルーツ、それらと混ざりあって生まれた甘みと、塩気と肉の繊維が混ざり合い……奇妙にクセになる。

 モソモソと、しかし確実に二口、三口とスプーンで運び、気づけばボウルはあっという間に空になる。


 そのあまりの物足りなさに彼女は小さくため息をつき、小さくボヤいた。


「……足りない」


 そして、再び彼女は冷蔵庫へと赴く。

 幾ばくかの肉を口にしたことで多少はやる気が出てきたのか、次のメニューを食べる決意くらいは出来たようだ。

 とはいえ、万全とは言えない。手の込んだ調理はそのままお預け時間ともなりかねない。

 先程のグラノーラ並に時短で手軽なものが必要だ。

 

 取り敢えず、何をやっても失敗にはならないだろう、という判断で若干小さくなったベーコンを取り出すと、コンロの魚焼きグリルにセットし点火。

 火力を調整して──けれどそこまで繊細にはせずに──じっくりと焼目を入れていく。


 ベーコンを炙っている途中で今度は食パンをトースターにいれ、こちらも自分が最良だと思う時間にタイマーをセットして、焼き上がりを待つ。


 静謐なキッチンの中、ジリジリとタイマーの進む音だけが小さく響く。

 たかが数分の僅かな時間だが、彼女にとっては久遠とも言える時を彼女は目を閉じてその時をじっくりと待つ。

 

 やがて時が満ちると、タイマーのベルが鳴り、その音を聞いた凛鈴はゆっくりとトースターの扉を開く。

 焼け上がったパンの香りと蒸気が立ち昇る中、トーストの焼き面にあらかじめカットしておいたバターを一欠け。再び扉を閉じて予熱でじっくりバターを溶かす。

 

 そしてその間に、グリルに入れられたベーコンブロックを見やると、こちらもしっかりと出来上がっていた。

 表面には焼色が入り、脂が溢れんばかりににじみ出て、その香ばしい香りをキッチンに振りまいていた。

 これは見ただけでも美味だとわかる。もちろん凛鈴は見るだけで済ますつもりはないだろうが。

 

 溶かしたバターをトーストの上で延ばし、その上に焼き上がったベーコンブロックをのしかからせれば、出来上がったのはベーコントースト。

 その重さでパンがしなるほどの迫力だ。

 

「……うん、これでいい。これでいいのよ」


 その場でかぶりつくと、カリッとした歯ごたえの後に肉汁があふれ口の中にほとばしる旨味の脂。バターとともにトーストに染み込んだベーコンの風味が埋め尽くしていく。

 肉の存在感が強すぎて、パンは完全に脇役だ。

 普通の人が見れば「それはもうベーコンだけでいいのでは?」とツッコミたくなる光景だが、凛鈴にとっては紛れもない“シンプルな朝食”だった。

 

 手が脂に塗れることも厭わず、ゆっくりと確実に噛み切り、咀嚼してその味を堪能していく。

 

 時折謎の味変なのか、それともさらなる味の探求か、突然はちみつを垂らしたり胡椒を足したりして多種多様な風味を楽しみながらようやく食べ終わる。

 

「ふぅ、いいわね、この食べ方も。ひたすら暴力的で、肉に溺れる感じ。たまらないわ」

 

 その表情にようやく歓喜の色が出てきた。しかし、空になった皿を見て再び表情が曇る。

 

「……どうして食べたら無くなっちゃうのかしら……」

 

 そんな益体もない事をつぶやきつつ、指にのこった脂を舐め取って、その後味を名残惜しそうに堪能するのだった。

ストックが切れて、ここ一週間ほど1日1話で何とか執筆しています…

もしかしたら今後不定期更新になるかもしれません

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