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第四十二話 ランチに華が添えられて

 一時緊迫した瞬間が有りつつも、食事会はつつがなく進んでいく。


「最近はどうなんだ?」


 そんな最中、橘は凛鈴に問いかける。


「あまり変わりないわ。おいしいお肉がたくさん食べれて、とても充実しているの。この前なんて本場のバーベキューが出来たわ」


 肉を頬張りつつ、笑顔で応える凛鈴。


「でも、ここのお肉だと少し物足りないわ。やっぱりあのお肉じゃないと……」


「……そうか」


 そんな彼女の反応とは大正的に、若干表情を曇らせる橘。

 相変わらず凛鈴は普通の食事ができないこと、そしてその日々の食事のために後ろ暗い仕事の一端に関わらせ続けなければならないことに心を痛める。


 かつての恩人の死に際して、彼女の後見を引き受けたのは良いが、トラウマを抱えた凛鈴の闇は今尚深く、晴れる気配がない。


「……そう言えば、他にもゲストがいるって聞いたけど、まだ来ていないのかしら?」


 凛鈴はそんな橘の胸中など気にするでもなく、思い出したように他の招待客の話題を出す。


「ん? あぁ、あいつか。多分そろそろ……」


「あい、こんちゃーっす! 今日はお招きありがとうございまっす!」


 橘が凛鈴の問いに答えかけた瞬間、けたたましい声と共に勢いよく襖が開け放たれ、一人の女が現れた。


 この場には不釣り合いにラフなファッションに派手な髪色、そしてなんと和室にスニーカーのまま上がり込んでいる。


「おぉ〜、美味しそうな料理だね〜、ちょっとも〜らい」


 そして唖然とする一同の雰囲気などどこ吹く風と言わんばかりに、目についた料理を手掴み口に放り込んだ。

 

「ん〜! おいしい! さすが高級料亭!」

 

 そんな闖入者を見て思わず目元を手で覆い天を仰ぐ橘。

 

「……神谷(カミヤ)華蓮(カレン)コイツがもう一人のゲストだ。」

 

 そしてうんざりするように、彼女の紹介をする。

 凛鈴も比較的マイペースではあるのだが、この彼女──華蓮もなかなかフリーダムなようである。

  

「……どいつもこいつも礼儀がなってねぇ! 揃いも揃ってどういうつもりだ!」

 

 短髪の若い男が、ついに堪え切れず声を荒らげた。

 凛鈴に対しても内心鬱憤が溜まっていたところに、このラフすぎる新参者だ。

 言葉は止まらず、男は畳を踏み鳴らして立ち上がる。


「お前、ここがどこだかわかってんのか!」


「えー? どこって、ゴハンのとこでしょ?」


 怒気をはらんで詰め寄る男にたじろぐことなく、華蓮は頬張った肉を咀嚼しながら首を傾げる。

 挑発する気はない──いや、ある意味では挑発そのものだった。


「テメェ……!」


 怒鳴りざまに短髪男が胸倉を掴もうと腕を伸ばす──が、次の瞬間、空気が切り裂かれた。


 華蓮の動きはあまりに滑らかで、見た者の脳が状況を処理できない。

 気づけば彼女は卓上の割り箸を手に取り、男の喉元に寸分違わず突きつけていた。


「……え?」


 短髪男の瞳が恐怖で開く。


 華蓮はにっこり笑い、声を弾ませる。


「ねぇ橘さん、この人殺しちゃっていいの?」


 その場の空気が、一瞬で氷のように冷えた。

 凛鈴は肉を口に運びながら、口角だけをわずかに上げる。


 橘は深く息を吐き、箸を置いた。


「やめろ。飯の席だ」


「はーい」


 華蓮は素直に返事をして、割り箸を皿の上に置く。

 短髪男は汗を滲ませながら、ゆっくりと席に戻った。


 橘は華蓮と凛鈴を交互に見やり、静かに酒を煽る。

 ──この組み合わせは、間違いなく面倒なことになる。


 短い沈黙が場を覆い、男は苦々しげに視線を逸らす。

 橘はグラスを置き、ゆっくりと口を開いた。

 

「……なぁ、磐田(イワタ)。俺は事前に”今日会う奴らは普段の身内とは別枠だ”と伝えたよな? まぁ結果はこの通りだが。もちろん特別枠で、周囲から”依怙贔屓”と揶揄する声も上がっているのは知っている。だがそれでも、コイツラは組織にもそれなりに貢献しているし、何より俺は家族として見ている。そこに組織の上下を持ち込まないでくれ」

 

 諭すように短髪の男──磐田へと告げる橘。

 

「……ハイ……すみませんでした」


 磐田は一人空回りしたところを諭され、更に女一人にいいようにやられて気まずそうに頭を下げた。


 そんな二人のやり取りを余所に──、


「うンまっ! なにこれ!? めっちゃうまいんですけど!」


 凛鈴の皿にも手を伸ばし、載せられたローストビーフをひとつまみ食べては歓声を挙げていた。

 その食べっぷりに、凛鈴も一瞬呆気にとられるが、目の前で美味しそうに頬張る姿に好感を覚え、微笑ましく見つめる。

 

「なかなかいいお肉よ。それにしても美味しそうに食べるのね。よかったらこれもどうぞ」

 

「あざっす! えへへ、うまい料理はそれだけで正義よ」

 

「ふふ、それならいつか、私の料理も食べてほしいわね。きっと楽しめるはずよ」

 

 この食べっぷりならきっと気にいいってくれるだろう、そう信じて華蓮を誘う。

 

「ホントっすか!? たのしみ〜!」

 

 そんなやり取りが聞こえた橘の表情はただただ渋かった。

 この二人、引き合わせて本当によかったのか? と。

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