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幕間 祖父、羽鳥権一郎の後悔

本日は2話更新となっております。

こちらは2話目です。

「それは罰であり、祈りであり、供養でもある。そして、自身の行為への戒めだ」


 確かそんな事を言ってた。

 まさかその戒めがこんな形で返ってくるとは思わ無かったがな。


 なんとも因果な話だ。


 ”先生”から私が引き継いだ後ろ暗い仕事、それは息子夫婦にはもちろん、孫娘になど絶対関わらせたくはなかったんだ。

 だが、さんざん人の道に外れるような生き方をした私にそんな望みを抱く資格もない、ということか。

 

 急逝した息子達の忘れ形見、孫娘の凛鈴(リズ)

 私と違って真っ当に育ててくれた息子夫婦には感謝しかない。

 

 だというの私と来たら……

 

 わかってはいたんだ。狭い家で二人暮らし、養うためには仕事をするしか無かった。

 だが、長い事裏の世界にいた私のような人間に、しかも老人にまともな職など無かった。

 結局、昔の伝手で一度は洗った足を再び泥濘に浸してこの手を血で汚す羽目になったのだ。因果としかいいようがない。


 もちろん、そのことで凛鈴を恨んだりはしていない。

 他に縁者もないのだから、託された私がせめて、この子を真っ当に育てなければならない。それが義務でありせめてもの情だと、そう思っていた。

 

 だが、秘密を守り切るには限界があったのだろう。

 あの馬鹿げた儀式なんぞ止めておけばよかったのかも知れない。

 

 たまたま放置してしまった、標的の一部。迂闊だったとしかいいようがない。

 あの子はそれを見つけて調理した。まだ幼いながらも普段から家事をしていたからか、いくつかの料理本を買ってやったこともある。

 それらの知識で私の不始末を見事に調理してくれた。

 

 あの子なりの気遣い。私の苦悩を見られていたこと、それもまた迂闊すぎた。

 

「これは罰であり、祈りであり、供養である」

 

 あの男、私が”先生”と呼んでいた男の言葉だ。

 ただの猟師が戦場で名のある狙撃手になり、大勢の人間を撃ち殺してきた。

 そして敗戦後もその銃の腕を買われて殺し屋をやってきた、と。

 そんな殺し屋がなぜ、人肉を食らうのかと話を聞いた事があった。

 

「人間が猟をするのはその糧を得るためだ。肉は食料に、毛皮は防寒に、骨は道具に、内臓は薬に。無駄などどこにもなく、全ては生きることのために活かされる。だが、人を殺した時はどうだ? その肉を食べるでもなく、採れる毛皮など無い。骨も臓器もそのまま打ち捨てられ、腐らせるだけだ。ただ無為に命を奪う、そんなことに慣れてはいけない。だからこそ、俺はこうして肉を食う。これは俺なりの供養であり、祈りであり、そして戒めだ」

 

 そう言って血の滴る肉に齧り付く様はなんとも恐ろしかった。

 私はその時はそれを真似しようとは思わなかったし、先生も強要はしてこなかった。

 

 だが、それも目の前で先生が討たれるまでだった。

 殺し殺されの世界ではよくあること。昨日の味方が今日の敵。いつ何時仇討ちが来るかもわからない。標的を追っていたはずがいつの間にか自分が標的にされていることもあった。

 そうしてついに私の師は命運尽きた。雑踏の中であっさりと刃物で急所を突かれて致命傷。あっという間に絶命した。相手もプロだ。そんなこともある。

 

 そこで思い知ったさ。顔も知らない相手が、こちらを意識することもなく一瞬で命を刈り取り、その動きを省みることもない。

 

 これが無為な死だと。

 

 ならばせめて、私だけは先生の死を無為にはしない。戦後の混乱の中、天涯孤独となった私を拾ってくれた、その証を残すと決めて。

 そして私は先生の肉を一欠片だけ食った。

 後は埋葬し、墓も立てた。仕事も継いで、依頼がくれば殺し、挑まれれば殺し、裏切られては殺し。

 そうして殺すたびにその肉を一欠片、食うようになった。

 私なりに、先生の生きた証のようなものを残したかったのかも知れない。

 

 だがそんな殺伐とした生活を結婚し、息子が生まれても続けた。何度か家族が狙われたりもしたが、すべて返り討ちにしてきた。

 弟子ができたのも大きいし、私の事を評価して後ろ盾になってくれた組織にも感謝した。

 お陰で息子も妻も血生臭い世界に関わらせずに暮らすことが出来たのだから。

 とはいえ、そんな状況ではいつ家族に害が及ぶかわからない。何度目かの襲撃を未然に撃退したあと、私は足を洗って家族と共に新天地を目指した。

 

 その後、何事もなく平穏に暮らし、息子は嫁を連れてきて、間もなく孫も生まれた。

 だか、そんな息子夫婦もまだ幼い娘を残して逝ってしまった。

 裏の世界とは関わりのない、本当に無関係な交通事故であっさりとな。

 そして、そんな息子の惨劇に気落ちした妻も後を追うようにあっさりと亡くなり、私と凛鈴だけが残された。

 

 こんな事を祈る資格も権利もないのかも知れない。

 だが、こんな私を気遣ってくれるような優しい孫娘を、せめて日の当たる場所で生きていってほしい、それが私の最期の願いだ。

 どうか……

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