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幕間 隣人、野崎雄馬から見た羽鳥凛鈴

本日は2話更新となっております、

こちらは2話目です。


「またもらってきたの?」


 妻が冷蔵庫に大きな真空パックをねじ込むたび、俺の口から出る言葉は大体これだ。

 もちろん、“本気で止めよう”って意味じゃない。ただの確認。あくまで、そういう空気。


 ……まあ、うまいからな。あの肉。


 最初に出てきたのは、ローストビーフ? でその次にはバラ肉のワイン煮だった。もう脂がとろけるようで、スプーンで崩れる柔らかさ。

 今でも忘れられない。「隣の人が、ちょっと多めに作ったからって!」って言ってたけど、そんな偶然あるか? って思いながら食べて、それどころじゃなくなった。


 そのあとも定期的に、どこかしら部位が変わった肉がやってくる。

 ラムかと思えば牛みたいだし、牛かと思えば……なんだ、これ?  ってやつもある。

  だけど、調理はしっかりしてあって、クセも少ないし、何より"特別な肉"っことは食えばわかる。


 妻はああいうのを「特別なご縁」って言ってるけど、俺は正直ちょっと引っかかってる。

 だって……あの部屋、どこにそんな金あるんだ?


 俺らがここを選んだ理由は、安さだ。間違っても「趣味性」じゃない。 なのに隣の羽鳥さん、あんなクラシックな服着て、冷蔵庫は業務用らしいし、台所からは毎日違う匂いがする。


 ついこの間も手作りのベーコンが来たことがある。燻製香と脂の香りが部屋中に漂って、やばかった。ただ、そのときはさすがにちょっと迷った。「もらっていいのか?」って。


 そのあと来たのが、生ハムの原木。マジでドン引きした。いや、これ、パルマじゃねぇよな……だって、パッケージに何も書いてないし。

 でも、スライスして口に入れたら、溶ける。口の中で、脂と旨味がとろけて、香りがふわっと広がって――


 気づいたら、「またもらえないかな」って言ってた。俺が。


 ……うん、わかってる。どっか、おかしいんだよ、アレ。


 次から次へとわいてくる、種類もわからない肉。渡してくる相手は、やたら丁寧で品があるのに、妙に無表情な時もある。


 でも、考えたって答えは出ないし、聞いたところで「専門の食材ルートです」とか「趣味の範囲で」とか、あしらわれるのがオチだ。


 第一、こっちはこっちで必死にやりくりしてんだ。子どももまだ小さいし、仕事も……まあ、それなり。誰かがくれるってんなら、断る理由はあんまりない。


 ほんと、たまに思うよ。“ちょっとおかしくないか?”って。


 でも、妻も娘も、「おいしい」「おかわりある?」って笑ってる。


 だったら、いっか。


 たぶん、考えるほうが馬鹿なんだろうな。

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