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「なんだ、やっぱり重かったのかよ」
「重いに決まってんじゃん。ユウジにいい顔見せたかったんだって。そんであのキーホルダー、俺が初めて山岳部で登った山の記念に買ったやつだって話たら、『無事に帰ってきた証みたいなもんだな』ってユウジが言ってさー。次登ったら絶対ユウジにもキーホルダー渡すんだって俺決めたんだよね」
あ、それで毎回俺にキーホルダーくれてたのか!
うわーまずい、俺、その話全然覚えてない。
「俺、ずっとユウジのこと好きだったのに、言えなくて、挙げ句事故って死んじゃうし。……バイクもさ、ユウジがバイクカッコいい乗りたいって言ってたから買ったんだ。バイク買ったとき、メットも2個買ってさ。いつかユウジを後ろに乗せるんだって、張り切ってたけど……あのとき乗せてなくてよかった」
あー……言ったかも。バイクの話。でもあれは黒木に言ったわけじゃなくて、俺が欲しいって話で……。
つか、マジかよ。バイクの免許とったのって、俺のせいかよ。俺が事故らせたようなもんじゃん。
「あ、でもバイクは移動用に欲しかったから買ったわけだし、ユウジのためだけに買ったわけじゃないから! ユウジのせいとかじゃないよ、そんな顔するなって。ね」
俺を慰めるために、黒木はまた俺を抱きしめた。
「あー……マジで、幸せ。ユウジをこうして抱きしめることができるなんて。さっきチューもしたし、マジで念願叶ったわ。……なあ、ユウジ。尚人への復讐はさ、どうする?」
「復讐ねぇ」
「俺さ、ユウジのためになんでもするって言葉、本心だし。復讐でもなんでもやっちゃうよ。……例え、魂が輪廻の輪から抜けることになってもね」
「輪廻の輪から抜ける? なにそれ」
急に出たオカルト話に、俺はちょっとポカンとした。またなにか意味のわからないことで翻弄しようとしてんのか? そう思ったが、黒木の声はいたく真面目だった。
「ここは、まだ俗世への未練が抜けられてない、あの世と現世の中間地点みたいなとこでさ。ここで未練を断ち切れたら、あの世にいって、次の生に生まれ変わるんだけど。無理みたい。……俺ね、本当はユウジのことずっと見てて、尚人とのことも知ってた。だからもう見てられなくて、ここに連れてきちゃったんだよね」
「は……?」
「見えるって言っても、監視カメラみたいに一部始終を見てたわけじゃないよ!? なんとなくこう、魂から発せられる感情みたいなものが伝わるっていうかさ。尚人のせいでユウジの心が悲鳴をあげてるの、見てるの辛くて」
連れてきた? 俺をここに? それってまさか――!?
「……おい、俺をここに連れてきたって、まさか俺を殺して連れてきたってことじゃねーだろうな!?」
まただ。周囲が淀み始めている。
今度は淀むどころじゃない。暗く重い闇が足元から這い上がって来る。霧のように体にぺったりとまとわりつき、ずっしりとしてひどく重い。まるで地の底に体が沈んでしまいそうなほどに。
「そうだよ。ユウジは俺がここに連れてきたんだ。だってあんなに辛そうだったし、俺といたほうが幸せだろ」
ニコッと笑う黒木。だがその目の奥は笑ってない。
「ね、俺と一緒にいよ。ユウジ」
「……やめろ黒木」
「俺、ユウジのこと大事にする。尚人なんかより、ずっとずっと大事にするから」
「やめろ! 離せ黒木! 俺は戻る! 生き返って、もとの生活に戻るんだ!」
「……あっちに戻ってどうすんの。また尚人のことでクヨクヨ泣いて過ごすのか?」
「もう尚人のことは忘れる! 連絡がきても無視する! ……俺だってもう、尚人から解放されたいんだ。それに、あっちでやり残したことだっていっぱいある。仕事だって、俺が企画したプロジェクトが始まったばっかりだし、海外旅行だって行きたい。映画だってまだ観てないやつがあるし、佐藤に誘われてキャンプグッズを買ったけど、まだ一度も使ってない。それに……」
「それに?」
「俺だってもっと恋愛したい」
ふざけているように聞こえるかもしれないが、いたって大真面目だ。
でももっと黒木の心に訴えかけられるような、何か大きな心残りでもあればよかったのに、俺ってホントに何もない。
大学のときからずっと尚人のそばにいて、尚人のやりたいことやって……尚人のために料理まで習って。あー……こうしてみると、尚人に依存してたんだなってつくづく思う。
「……恋愛の相手って俺じゃだめなの?」
「いや、ダメもなにも……」
お前死んでるし。つか、今生き返ったときの話してるよな。お前でもいいって言っちゃったら、俺死んだままじゃん。
それより、俺生き返れるの?
「……ユウジ、もしさ、俺が生まれ変わってユウジの前に現れたら、恋愛の相手として考えてくれる?」
「え?」