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「――店って、ここか?」


 駅前のネオン輝く賑やかな通りを過ぎて、かつては賑やかだっただろう昔の繁華街の名残を感じる古いビルが立ち並ぶ、人通りの少ないやや薄暗い通り。その一角にある、やたら縦に細長いビルの3Fにその店はあった。


 ビルの端にある上へと続く細い急な階段。そこは間接照明かってくらい照明が暗く、人がひとり通るので精一杯の狭い階段の壁には、バーの看板やチラシが新旧織り交ぜて貼られてあり、その中に、ルナ・プロフィトの小さなチラシも貼られてあった。


 このビルのどこにも看板がない、ルナ・プロフィトがこのビルに店があることを示す唯一のサイン。


 外から見ると、3階の窓からは、怪しい紫色の明かりが溢れている。たぶんお目当ての店はあそこだろう。


 俺はその明かりを見上げながらスマホで時刻を確認すると、バックライトに19:04の文字が浮かび上がる。予約時間は19:30だから、まだちょっと早い。


 店はバーの中だって言っていたから、早めに行ってもバーで飲んでりゃ大丈夫だろ。

 ボッタクリバーとかじゃないといいなと思いながら、怪しさ満点のこの薄暗い階段を登った。


 金属製の重いドアを開けて、中を覗くと、紫のライトに照らされたカウンターにいるバーテンダーらしき男性と目があう。


「いらっしゃいませ」

「すみません、19時半から占いの予約をしていたんですけど……」

「お伺いしております。カウンターでお待ちください」


 妖艶な紫のライトに反して、店内にはメロウな音楽がしっとりと流れている。


 まだ時間が早いからか、店内にはカウンターに客が数人いるだけで、お酒目当てでなくても居やすい雰囲気だった。


 占いにはワンドリンクが付いていて、それを注文し飲みながら待っていると、1人の男性が俺に近づいてきた。


「今日占いの予約をしてくれたのって、あなたかしら」


 紫色の店内に沈みこむような浅黒い肌に、短く刈り上げた髪。体つきはゴツく、紫に染めているのか、はたまたライトの色が反射しているのか分からないくらい派手な色の髪で、声をかけられた瞬間、思わず俺はギョッとして身構えてしまった。


「あら、やだー。怖がらないでよ。占い師のサイよ。佐藤ちゃんから聞いてきたんでしょ? 今日佐藤ちゃんは? 来てないの? えーがっかりぃ」


 その見た目とは相反する女性っぽい仕草に、予想外というか想像どおりというべきか。


「なんで佐藤の知り合いだって知って……」

「だってこの前連絡あったもの。友達が行くかもって。名前も聞いてたから、すぐに分かったわ。予約は本名じゃなくても良かったのに。アナタまじめねぇ」


 佐藤、連絡してくれてたのか。あいつ、俺の行動をよく読んでるな。


 それにしても予約は匿名でもよかったのかー。おっさんはこういうとき、本名で予約しがちなんだよ。


「ちょっと早いけど、用意できてるから始めましょうか。じゃこっちに来て。あ、グラス持ってきていいわよ」


 店の奥にカーテンのひかれた小部屋があり、どうやらそこがルナ・プロフィトの敷地であるようで、細い廊下の奥にある小部屋に案内された。中は間接照明で怪しい雰囲気を醸し出してはいたが、思ったよりもいかにもな感じがなく、佐藤の言っていた『大人の占い場』というテーマにぴったりの場所だった。


 中央には黒いカーテンが引かれたテーブルがあり、俺は促されるままそこに座ると、サイさんがカーテンの向こう側に一瞬消え、すぐに両開きカーテンの間から顔を出し、向かいあって座った。


「さ、じゃあ始めるわよ。今回は予約のときに記載してくれた恋愛相談ってことでいいかしら。……他にもなにか相談ごとがありそうだけど」


 なんでも見透かしているかのようにニッと笑うサイさんの凄みに、俺の喉がゴクンと鳴った。

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